テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第9回は、広島から愛を込めて、名切勝則さん。
「本を読め、人に会え、そして旅に出ろ!」
「ついに、幼い頃から憧れていた放送作家になりました(涙)」。そんな劇的な瞬間もなく、たまたま放送局で機材を運ぶアルバイトをしていた時、ディレクターに「台本、書いてみる?」と言われたのがきっかけ。ひょんなことから放送作家という仕事をしています。牡蠣とレモン生産量日本一の広島で。
地方局は東京のキー局と違い、自社で制作する番組の数が限られています。だから「広島でフリーの放送作家なんて生活できない」とたくさんの人に言われました。事実、放送作家の仕事では生活できず、いろんなバイトを掛け持ちしていました。それでも続けられたのは「本を読め、人に会え、旅に出ろ。これを繰り返しておけばなんとかなる」と教えられたから。その言葉が刺さったのです。
視聴率に一喜一憂、いや憂いてばかりの日が多いような気がします。会議にあわせて企画を立て、ロケなどの収録にあわせて台本を書く。放送作家の仕事は独りですが、番組はもちろん一人ではできません。
みんなで頑張って、RCCテレビでゴールデンタイムに設定された「週刊パパたいむ」という番組で視聴率33%超えを記録したことがあります。ローカル局では快挙です。しかし、60%以上の人は見ていないという現実。突き詰めれば、放送作家で一番重要な仕事は昔も今も「無関心な人」をどう振り向かせるかだと思っています。
世の中に無関心な人が増え、それは悲しいことだけど、放送作家の仕事で学んだことがテレビやラジオ以外にも役立つようになりました。「過疎の町だがこんなに素晴らしいものがある」、「この歴史をこどもたちに伝えなければ」、そんな熱い人たちの思いを無関心な人に伝えるために、インターネットやポッドキャストを利用。こうしたコンテンツを制作するときも放送作家は必ず何かできると思うのです。
未来のリスナー×1000円
実は、RCCラジオで毎週土曜日朝7時から約4時間の番組でしゃべっています。「正体不明の覆面パーソナリティ、一文字弥太郎」として。毎週、放送作家の自分が一文字弥太郎に台本を書いている、そんな感覚。内閣府のムーンショット計画は嫌いですが、すでにアバターを持っている気分。
その番組、ディレクターは20代の女性2人、大学生のアルバイトは予算削減でいなくなりました。あとは、一緒に番組を支えてくれる岡佳奈さん、つまり4人で4時間の生ワイドを放送しているのです。なんてコスパがいいんでしょう?! これもまたラジオの魅力なのかもしれません。コスパがいいからラジオドラマもできます。日本放送作家協会の60周年を記念して、中国支部のみんなと制作した「もみじ饅頭物語」は大きな反響をいただきました。
最近、雑誌などでよく「ラジオ」が特集されています。コロナ禍でラジオを聞く人が増えたと。一方で、テレビがつまらないという意見もよく耳にします。広島でラジオをやっているとドキッとする「少数意見」に出合うことがたくさんあります。リスナーからのメールです。農家に嫁いだ長男の嫁の苦悩、和牛の育て方や夕焼けに涙したことなどなど、ラジオの面白さはきっとここにあると思います。
広島に素晴らしい少数意見を持っているアメリカ人がいます。詩人、絵本作家で小説家も書き紙芝居も作る、アーサー・ビナードさんです。多数意見しか言わないメディアにしびれを切らし、今一緒にオンライン・トークイベントを開催しています。チケット制で1000円。アーカイブも視聴できます。
今はまだ100人にも満たない視聴人数ですが、いつかアメリカ大統領選挙、新型コロナウィルスとPCR検査、そして原発、東京オリンピックの真実が語られたとき、それをすでに明言していたコンテンツとして全世界が注目?! そんなことを夢見ています、みかんからリンゴまでできる日本の縮図のような「広島」で。
こんなタネを蒔く仕事があると未来が楽しくなります。あなたも広島で、なにかやりたい、なにかできそうと思ったら連絡ください。
次回は放送作家の田中直人さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。