燃料電池自動車の国内保有台数は0.01%未満
トヨタ自動車は2014年12月に、世界で初めて量産型のFCV「MIRAI(ミライ)」を発売しました。2016年3月にはホンダが「CLARITY(クラリティ)」を発売しました。しかし国内のFCVは今のところこの2車種だけで、全国の保有台数は2019年3月末で3009台にとどまっています。国内の乗用車保有台数(普通車、小型車、軽四輪車)の保有台数は6177万台なので、0.01%にも満たない状態です。
先述のロードマップでは、2025年までに20万台程度、2030年までに80万台程度の普及を目指すとしていますので、かなり野心的な目標であることは間違いありません。
政府はFCVの価格について、2025年ごろまでに同じ車格のHV車と同等の価格競争力を有するレベルまで価格差を低減するとしています。
これを実現するには、燃料電池システムや水素貯蔵システムのコストを引き下げることが肝要ですが、そのためには使用する燃料電池の触媒の貴金属の使用量の低減や、水素タンクの炭素繊維の使用量を減らすなど、思い切った技術開発を推進することが必要です。
トヨタは2025年までにエンジン車のみの車種ゼロに
トヨタは2014年12月に「ミライ」を発売しましたが、それにさかのぼること20年以上前の1992年に、乗用車用の燃料電池開発プロジェクトをスタートさせています。
2020年末には「ミライ」の最新モデルを発売しました。最新モデルは、(1)スタックをはじめ燃料電池システムを一新することでFCVの性能を大幅に向上させる、(2)水素搭載量を拡大し航続距離を従来型比で+30%延長する、この2点を目標に掲げて開発を行いました。
最新型では「TNGA」(Toyota New Global Architecture)と名付けた新しいプラットフォームを採用し、駆動方式は初代「ミライ」の前輪駆動から後輪駆動へ変更し、ホイールベースも延長します。定員は4人から5人に変更され、航続距離は現行の650キロメートルから840kmに伸びました。
トヨタは2025年までにエンジンだけで走るクルマの販売をゼロにして、電動車(HV、PHV、EV、FCV)に切り替えるという長期目標を示しています。その達成に向けて、2030年にはHVとPHVを合わせて450万台以上、EVとFCVを合わせて100万台以上を販売するという数値目標を設定しています。
移動距離が短く車両サイズが小さい領域はEVでカバーし、移動距離が長く車両サイズが大きな領域はFCVでカバーする青写真を描いています。移動距離と車両サイズの中間の領域はHVやPHVでカバーするという構想です。
ホンダも燃料電池自動車などへのシフトを進める
ホンダはいち早くFCVの可能性に着目し、1980年代から研究開発を進めてきました。2002年には自社で開発した燃料電池を搭載したFCVを開発し、国内でリース販売を始めており、そして2016年3月、「クラリティ」を発売しました。
燃料電池パワートレインの小型化を図り、ボンネット内に搭載することで、セダンタイプのFCVでは世界初となる5人乗りを実現しました。車両価格は766万円で、1回の水素の充填で750kmの航続距離を達成しています。
ホンダは2019年12月に「クラリティ」をマイナーチェンジしました。幅広い環境下で走行できるように、低温域での性能を向上させました。2030年には販売台数の3分の2をPHEVとハイブリッド、EV、FCVに置き換えることを目指しています。
燃料電池自動車の部品点数はガソリン車以上
ガソリン車の部品点数は3万点ですが、電気自動車は2万点とされています。FCVの部品点数はガソリン車以上に多くなると見られます。
FCVの主要部品は、FC専用技術に関わるスタック、高圧水素タンク、ハイブリッド技術に関わるバッテリー、コントロールユニット、モーターなどが挙げられます。
トヨタは「ミライ」の開発に際して、主要部品はできるだけ内製化する方針を採りました。中核技術であるスタックや高圧水素タンクなどは自社工場で生産しています。高圧水素タンクは2000年から開発に取り組み、炭素繊維強化プラスチックも内製しています。
それでもやはりFCVの量産には多くの部品メーカーの協力が欠かせません。高圧水素タンクとその周辺部品ではジェイテクト(6473)が高圧水素供給バルブと減圧弁を担います。
愛知製鋼(5482)は高圧水素ステンレス鋼、豊田自動織機(6201)は水素循環ポンプ、愛三工業(7283)が水素インジェクターとバルブをそれぞれ供給しています。
豊田合成(7282)は水素タンクのライナー部分を供給しています。タンクの本体部分は高分子樹脂製で、外側を補強するアウター部分は炭素繊維強化プラスチック製です。
デンソー(6902)はパワーコントロールユニット、エアコンシステムなど、70種類もの製品を「ミライ」に供給しています。デンソーの供給する水素充填システムは、温度センサーや圧力センサーを用いて高圧水素タンク内部の水素ガスの温度と圧力を検知し、その情報を赤外線で水素ステーションに送信します。水素ステーションでは、送信されたデータに基づいて水素の充填圧を適切な水準に制御して、3分程度のごく短時間で充填が完了するようになっています。
水素社会の到来は足元で現実のものに
インフラとしての水素ステーションに関しては、2013年度から商用のステーション整備が始まりました。2014年7月に岩谷産業(8088)の「イワタニ水素ステーション尼崎」が日本で初めてオープンしました。
水素ステーションは首都圏、中京、関西、北部九州の4大都市圏と、それらを結ぶ幹線道路沿いを中心として設置され、2020年7月の時点で132か所がオープンしています。
政府はロードマップの中で、2025年度までに320か所、2030年度までに900か所の水素ステーションの整備を目指しています。同時に2020年代後半までに、補助金に頼らない自立した水素ステーション事業を目指しています。
2021年度までは4大都市圏を中心として、主要都市や交通の要衝を重点に整備を進めてきました。それに続く2022~2025年度からはより広範囲に、新たな水素ステーションの配置計画を決め、2025年度での320か所の目標を目指すことになります。
環境省は2015年度から「地域再エネ水素ステーション導入事業」を実施し、再生可能エネルギーを用いた小規模の水素ステーションの導入を促進するための補助金を付けて普及を促しています。太陽光発電と組み合わせた小規模水素ステーションに対して、補助率4分の3、上限1.2億円の補助を行っています。
これによってホンダと岩谷産業が共同でスマート水素ステーションを16か所、設置しました。2017年度からはFCフォークリフト用の水素ステーションも補助の対象となりました。
FCV、およびクリーンな水素エネルギーの活用は未来の夢や遠大な理想などではなく、すでに私たちの足元で現実のものとなっています。新型「ミライ」とともに水素社会の到来を迎えたいものです。