豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第7回のテーマは、お金で買えない“信用”の築き方を信用調査会社で長年、調査に携わってきた橋本浩一郎さんにお話を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

橋本浩一郎さんの写真
橋本 浩一郎(はしもとこういちろう)さん
株式会社帝国データバンク 大宮支店 調査第2部長。
証券会社などを経て、2001年9月に帝国データバンク入社。大宮支店で調査部、営業部を経験後、2010年4月土浦支店に調査課長として赴任。2014年9月から現職。
現在も調査・営業を通して地元企業のサポートを行いつつ、管理職として若手社員の指導・育成を行う。「地元企業のサポートを通じ、最初プレハブだった会社が、15年くらいで、5階建ての自社ビル建てるまで成長する姿を見届けるなど、感慨深いことも」と。

信用はお金で買えないものだから……

コロナ禍の不安な中、東京五輪は始まりました。
ネットの動画ニュースで海外の某キャスターが、スポーツに大切なのは、

“Confidence(コンフィデンス=信用・信頼)”
“Discipline(ディシプリン=規律・鍛錬)”
“Respect(リスペクト=尊敬・評価)”

の3つだといっていまして、ほう、なるほどなと思いました。

スポーツだけでなく、仕事をサクセスに導く上でも、さまざまな人間関係を円滑にするにも、この3つは大切だなと!
中でも信用はお金で取引するビジネスにおいてとても重要な要素。

しかし、信用はお金で買えないもの!
そして、下手をすると一瞬で失うもの!

嵐のように突然吹き荒れるスキャンダルで、信用がぶっ飛ぶ様子を、五輪開催にまつわる事柄だけでも随分見てしまいました。

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「他人の不幸は蜜の味」とばかりに嗤ってはいられません。
明日は我が身! 自分もいつ、そうなってしまうかもしれません。
ビジネスでなくとも、愛する人との関係が終わってしまったり、友情に傷がついてしまったり、恩ある人に仇で返してしまったり……。

傷つけてしまった相手に関しては、誠実な言葉と誠意ある行動で示し、相手が受け入れてくれるまでひたすら待つしかありませんが、さらに『危機管理の視点』からは、この連載の第4回でも一度まとめてみました。

不祥事が発覚したときに、人間がしがちな行動とは?

そして、今回は、日本経済を構成する企業の信用調査を行うプロフェッショナルの視点から、信用についてお話を聞き、社会の中で人として生きていく上で信用をどう築くか考えていきたいと思います。

信用を築くイメージ
コロナ禍を切り抜けるポイントは、信用をどう築くか

信頼できる企業から学ぶ人としての信用

今回、お話を伺ったのは日本の信用調査会社では最大手の帝国データバンクで信用調査に長く携わってきた橋本浩一郎さん。

信用調査のベテランというイメージだと、もっとクールな方を想像してましたが、優しい語り口で物腰柔らか。
聞けば、橋本さんは、若い頃はバックパッカーとして世界各国を旅して歩いた旅の達人。多様なバックボーンを持つ世界各国の人々と接するのも、“Confidence” “Discipline” “Respect”は欠かせない! そんな橋本さんのお話に期待がもてます。

帝国データバンクは、企業を専門対象とする信用調査会社なので、普段のお仕事はもっぱら企業の調査なわけですが、「大企業にしろ、小人数のベンチャーにしろ、会社を組織しているのは人であり、企業の信用も人が作ることに変わりはないですよ」と、筆者の今回の企画意図をくみ取って、お話いただくことになりました。

「『人は見た目が9割』という本がかつて話題になったことがありましたが、信用って、企業も人もまず見た目に現れます」と橋本さん。

外見で人を判断してはいけないとはいうけど、ある程度、企業も人も判断できると橋本さんはいいます。

訪問先の会社で、受付の対応が感じよかったり、トイレまできれいに掃除が行き届いていたり、出されたお茶にほっこりできるのと同じように、人も、会ったときの第一印象に好感がもて、きちんと身だしなみが整っていて、こちらの緊張を解きほぐすような気配りがさりげなく出来る人は、「この人は信用できる人かも知れない」とまず第1段階をクリアできるそうです。

信用できる人イメージ
こちらの緊張を解きほぐすような気配りができる人には「この人は信用できる」と感じてしまう

ただし、橋本さんはその先も見るといいます。それは「言動に胡散臭さがないか?」と観察することです。
「人を欺く人は巧妙で、最初はその“詐欺師体質”をおくびにも出さないのですが、やがて、言動におかしな面が見えてきて、嘘やサイコパスが露呈するのです」と。

でも、私などは単純だから映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でディカプリオが演じた完璧な天才詐欺師・フランク・アバグネイル(実在の人物がモデル!)が目の前に現れたら、瞬く間に信用してしまうタイプです。

なるほど、いきなり、信用しないで、暫く観察してみることはとても大切ですね。
お話を聞いていると、橋本さんが、ディカプリオを追うトム・ハンクスに見えて、きました。

信用おけない人が馬脚をあらわす場合「大抵、顔つきがおかしくなり、あちこちに迷惑をかけたままであることなど、いろいろ見えてわかってきます」と橋本さん。

筆者も、人を疑わず信用しやすい性格ながらも、やはり長年生きてきた知恵もあり、また作家業という職業柄、人をすみずみまで観察する習い性もあります。
たとえば、イケメンのかっこいい男性でも、シャツの襟や袖口が汚れていると、「あれ? 家に帰ってない? 着替える余裕もないの?」と動揺してしまいます。

コロナ禍の今は、最初にマスクチェックをしてしまいます。「なんか汚いマスクだなあ、なぜ?」と。2021年になったらマスク不足も解消されたので、汚いマスクをし続けて平気な理由を、あれこれ勘ぐってしまうのです。

白シャツマスクの男性
シャツの襟や袖口、マスクが汚れている人を見ると、あれこれ勘ぐってしまう……

大抵、この手の人は、最初は勢い良くてやる気まんまんなのですが、詰めが弱くて、途中で逃げ出す、あるいは責任を人に押しつけて、自分は知らぬ顔を決め込むタイプなので、最後まで仕事ができないと判断して、警戒しています。

橋本さんも「充分に成功され社会的にも認めらた大社長ならともかく、駆け出しのベンチャーで、まだ会社の基盤もぐらぐらしているうちから、やたらと派手な身なりをして高級車を乗り回したりしている起業家には、途中で破綻するケースも少なくなく、その方の言動と併せて注意深く見てしまいますね」と。

あと、もうひとつ「信頼置ける会社は、掛かってきた電話に大抵ワンコールで出るんですよ。でも、何度も鳴らしてようやく誰かでる会社って、職場のスタッフが『あなた、出てよ。私は余分な仕事増やしたくないから』みたいな仕事に対するやる気のなさが見えてしまって、そういう会社は調査していくと、やはり問題点があぶり出される確率が高くなっていくんですね」と橋本さん。

なるほど、これを個人に当てはめてみると、「メールの返事がない。ケータイに出ない。SNSのメッセージがなかなか既読にならない」など。

こと、あちらからはどんどんメールや電話が来るのに、こちらから連絡した場合にリターンがやたらと遅かったり、スルーされたりすると、唸ってしまします。
そういう人には傲慢さが顕れるからです。

やはり、仕事でタッグを組むにしろ、プライベートでお付き合いをするにしろ、信用おけるかどうか、少し時間をかけてから見極めた方がよさそうですね!

橋本さんは「最初は見かけから入りますが、最後は人間性の魅力。このようなパンデミックの中でも、デマや噂に惑わされない、ぶれない人。先が見えなくてもビジョンがある人、そして周囲からリスペクトされているか?」が信用に繋がるといいます。

稲盛和夫さんのフィロソフィでも有名「利他の精神」を持った人……橋本さんは「信用の基準です。ただし、本当に、利他の精神を実現できる人は稀です」と。
それだけ、信用を得る人物になるのは、自分に打ち克つ強さがないと!
よく、肝に銘じたいと思います。

人を見極める
信用のおける人物かどうか、見極めるには少し時間が必要