最近の経済ニュースの関心は、米国ジャクソンホールでのパウエルFRB議長のコメントに集まっています。関心の対象は「テーパリング」と「利上げ」です。経済ニュースやエコノミストのコメントは、株などの投資商品をすでに購入している投資家に向けたものが多いでしょう。今回は、「テーパリング」「利上げ」の内容や行う目的、時期などについて、これから投資を始める方の視点でファイナンシャルプランナーの恩田雅之さんが解説します。(この記事は2021年8月26日に作成しています)

  • テーパリングは、量的金融緩和政策による国債やMBSなどの購入量を減らす政策
  • 利上げは、景気の過熱を抑えるために行う金融政策
  • テーパリング、利上げで株価調整の可能性。これから投資を始める人はチャンスかも

FRBの使命は「雇用の最大化」と「物価の安定」

米国の中央銀行にあたるFRBの使命は「雇用の最大化」と「物価の安定」になります。この使命を実行するために短期金利であるFF金利の目標の誘導や、量的金融緩和政策を行います。量的金融緩和とは、国債やMBS(不動産担保証券)などを購入し世の中に出回るお金を増やすことで景気の失速を抑える政策です。

今回のコロナ危機でもFRBは上記の政策を行っています。ワクチン等の効果もありようやく経済が正常化する兆しが見えてきました。それに伴い、テーパリングと利上げの時期についての関心が高まっています。

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テーパリングとは

テーパリングは、量的金融緩和政策による国債やMBSなどの購入を徐々に減らしていき、正常な金融や経済の状態に戻すために行われる政策です。購入量を徐々に減らすことにより世の中の出回るお金の量が調整(縮小)されます。これにより株式など資本市場に向かう資金も減る可能性があり、株価などの調整が起こる場合があります。

2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が突然テーパリングについて示唆した時には株価が急激に下落するなど、金融市場が混乱しました。この経験から、市場関係者やエコノミストはテーパリングに対して敏感になっています。パウエルFRB議長もテーパリングに関する発言のタイミングについては慎重です。すでに株などの投資をしている方も、株価下落の要因になる可能性があるテーパリングの時期などについて強い関心を持っています。

米連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたベン・バーナンキ氏
2013年5月にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和縮小を示唆する発言をしたことで起こった株式市場の急落は「バーナンキ・ショック」と呼ばれる
Al Teich / Shutterstock.com

利上げとは

利上げは、景気の過熱を抑えるために行う金融政策です。インフレが継続した場合などに利上げが行われます。逆に景気悪化を防ぐために行われるのが利下げです。米国では、1回の利上げ(利下げ)は、ほとんどの場合0.25%刻みで金利が変更されます。また、次の利上げ(利下げ)を行うタイミングは毎月発表される経済指標などの良し悪しにより変わります。今回の利上げの時期については、米国のインフレがコロナ危機からの回復による一過性のものか、経済の正常化に伴う継続的なものかにより、専門家の間でも意見が分かれています。

上記でも触れましたが、利上げは景気の過熱を抑えるための政策です。経済がいい方向に向かい、これ以上低金利を続けていると景気が過熱しまうと考えられた場合に行われます。利上げを行えるのは、景気が良くなるまたは良い時期にあると考えられる時期といえます。(新興国などは自国通貨の下落を抑えるために不景気の中でも利上げを行うケースはあります)

しかし、利上げが行われると株式から国債などの債券に資金がシフトしやすくなり、すでに投資をしている方にとってはマイナスになることもあります。そのため、テーパリング同様、実施時期に関する投資家の関心は高くなっています。

調整された株価で株式投資をスタートできるチャンスかも

「テーパリング」や「利上げ」は、景気が上向いて経済が正常化に向かう段階で行われる金融政策です。ただし、上記で触れましたがテーパリングや利上げを行うことにより、一時的にでも株式などに向かう資金が減り、株価調整(下落)の可能性があります

すでに株式投資をしている方にとっては、下落リスクを警戒する必要があります。しかし、これから投資を始める方にとっては、調整された株価で株式投資をスタートできるチャンスかもしれません

「テーパリング」や「利上げ」を警戒するようなニュースやコメントが多いですが、これから投資を始める方は、景気が上向き、経済が正常化に向かっていると考えられる時期に実施される政策ということを覚えておきましょう。

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