アプリやSNSを通じてアスリートの価値を「数値化」

「アスリートの価値」はなかなか自分自身で測ることは難しいと思いますし、そこは第三者の視点やサポートが重要になりそうですね。

丸山さん トップアスリートはそれぞれの競技で成功してきた人たちですから、ある意味で我が強くて、自分で何でもやろうとする傾向があったりします。でもそうすると、自分のメッセージが、もとからその人のことを知っているファンにしか届かないことが多いんですよね。

芸能事務所の方と話すと、アスリートはマネジメントが難しいという話をよく聞きます。テレビでは解説者やコメンテーターとして、あるいはバラエティ番組のタレントとして活躍する人もいますが、特にタレントの場合はブームで終わってしまうことがほとんどです。その理由として、アスリートの影響力を測るのが難しいということがあると思います。

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僕たちは動画やSNS、アプリなどの運用を通じて、アスリートの価値やエンゲージメントを数値化して、提示できるようにしたいと考えています。既存のファンだけでなく、一般の方々を含めたフィットネス市場で、YouTubeやTikTok、ウェブ広告も使いながら新規のファンを増やしていき、そこから得られるデータをもとに、オリジナル商品の開発などの収益機会を広げていくという流れです。

そうやってアスリートの影響力が数値化できれば、たとえば企業がスポンサーとして支えようという動きも出てくると思います。まずはライブストリーミングのような形で、アスリートがユーザーからお金をいただく機会を作り、そうした活動から得られたデータを解析し、数値化することで、法人向けのビジネスも広げていきたいと考えています。

アスリートにとっては「マイナスからのスタート」

第一線を退いたアスリートがセカンドキャリアを築ける可能性が広がって、それが新しいビジネスになって社会に価値を提供できたら、すばらしいことだと思います。とはいえ、アスリートのみなさんにとっても、それを実際に行動に移すとなると、いろいろな苦労があるかと思います。

丸山さん アスリートが高いポテンシャルを持っているのは間違いないのですが、それをビジネスに落とし込もうとしたとき、やはりこれまでずっとスポーツに打ち込んできたわけですから、どうしてもマイナスからのスタートになってしまいます。柔道で言えば、白帯を着けたばかりの人に県大会で優勝しろと言うようなもので、短期間で結果を出すのは難しいと思います。

実績のあるアスリートに対して、支援する人や企業も、あるいはアスリート自身も、過度な期待を持ってしまいがちです。「アスリートだからすばらしい」という漠然とした認識ではなく、その影響力を目に見える形で、数字として示していくのが僕たちの役割だと思っています。

いちばんいいのは、スポーツ選手がスポーツ選手のまま稼げる仕組みを作ることです。ゆくゆくはアスリートが企業に所属しなくても自分で稼げるくらいまで、僕たちのサービスを育てていきたいと思います。

アスリートとして成功するまでの努力や思考は間違いなく高い価値があるのに、それをじゅうぶんに生かせるところがなく、世界トップクラスの選手ですら、自分の価値を社会に還元する機会に恵まれないのは残念なことです。今年亡くなった柔道の古賀稔彦さんも、僕はもっと世の中の人に見てほしかったし、もっと知ってほしかったです。僕自身も擦り切れるくらいに映像を見た記憶がありますが、僕たち世代の柔道家はほぼ全員が憧れ、一度は真似をしたと思います。柔道を通して見せた生き様は一般の方にも多大な影響を与えたと思いますし、もっと多くの人に届けたかったなと思います。

丸山和也さん

「スポーツビジネスは成り立たない」という声を覆したい

アスリートの価値を可視化して、セカンドキャリアの舞台を広げていくことの、さらにその先に目指していることは何でしょうか。

丸山さん スポリーでは3つのミッションを掲げています。ひとつは「アスリートと共に世界中の人々の心と体の健康寿命を延ばす」。これはアスリートだからこそできる、社会還元のひとつの形だと思います。

そして「アスリートの競技ノウハウを世界中の人々が学べる仕組みをつくる」。たとえば日本にいながらクリスティアーノ・ロナウドのサッカーのレッスンを受けるとか、逆に日本の金メダリストが世界に向けて動画を発信して、それが貧しい国の子どもたちにも届けば、国境も貧富の差も超えた、よりフェアな世界に近づいていくと思います。

最後に「アスリートインフルエンサーに寄与し価値を最大化する」。SNSなどを見ても、競技によっては日本代表選手でも、一般のマイクロインフルエンサーと呼ばれるような人たちよりフォロワー数が少ないのが現状です。そこを僕たちは改善していきたいと思います。

日本では「スポーツビジネスは成り立たない」と、ベンチャー企業や投資家からよく言われます。そういう声をひっくり返したいと思って、このビジネスに取り組んでいます。これまでのスポーツ界は縦割りというか、「自分たちだけでなんとかしよう」という傾向がありました。でも、アスリートのセカンドキャリアを継続的なビジネスに結び付けていくためには、みんなが手を組むことが大切だと思いますし、僕たちがその橋渡しをして、アスリートの価値を社会に還元できる場所を提供していきたいと思っています。

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