宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、株式市場の変動が大きくなって不安を募らせる資産運用の初心者に、株式や投資信託の「売却のタイミング」についてアドバイスします。

  • 米国ではインフレ、利上げ、景気後退により株価が下落するリスクが考えられる
  • 株式は業績も株価チャートも悪ければ売却の対象。下がっても買い増しは控える
  • 投資信託は短期での売却は勧めない。積み立ての場合はリバウンド効果に期待

米国のインフレの影響と景気後退のリスク

【質問】
最近の株式市場の上げ下げにひやひやしています。株式も投資信託も、利益が出ている銘柄と、下がりが止まらない銘柄は売るべきでしょうか? 投資信託は「長期で持つ」と言われますが、本当でしょうか? 資産運用はこんなにもやきもきしなければいけないんですか?

今回は、最近の資産運用ブームに乗って投資を始めた皆さんが初めて経験するであろう世界情勢の不安定さと株価の上下動、それに伴う「資産運用の怖さ」をどう対処すればいいのか、その方法について考えてみます。

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昨年3月頃、新型コロナウイルスの影響によって、米国を中心に株価は調整局面に入り、日本株も下落に転じましたが、現在の株式市場はどうでしょう。
米国の代表的な証券取引所、ニューヨーク証券取引所とナスダックは最高値を更新しています。日本も同様に、日経平均株価はバブル以来の高値となって、比較的安定しています。

このように世界経済は回復していると思われがちですが、ここに来て米国のインフレ懸念が強まり、「金融引き締め」の話が出てきています。
インフレとは簡単に言うと、お金の価値が減少することです。当然、インフレは株価にも大きな影響を与えます。金融引き締めとは、中央銀行が政策金利を上げることをいいます。

金利が上がるということは、本来なら資金需要が旺盛になっていることを示します。景気の先行きが良く、企業の設備投資が活発化した結果が金利の上昇なので、株価も上がりやすくなります。
しかし金利が上がりすぎると、企業にとっては借り入れの利払いが増えることになり、資金調達に対して慎重になります。資金調達が減ると業績も悪くなりやすく、株価も下げに転じていきます。

このように、金利は景気の動きや企業の業績と密接につながっています。
また、金利が上がれば不動産価格にも懸念が出てきます。金利上昇が、不動産価格の低下にも波及するリスクもあることも知っていてください。

景気のサイクルは通常、不景気→景気回復→好景気→景気後退と循環します。今の米国が「好景気」のサイクルにあり、この先「景気後退」に入って株価はピークアウトして下落し、株式市場から資金が流出するのではないかと言われています。怖いのは景気後退期で、株価は確実に下落していきます。その入口に今の米国が立っている、という見方が広がっているようです。

こうした懸念もあり、日本を含めて、株式市場全体が慎重になっているようです。では、今の日本経済はどうなのか? インフレが進む米国と違って、日本はいまだにデフレを脱却できていないのが現状だと思います。景気回復の途中とも言えるのかもしれませんが、とにかく、長期的な低金利は異常すぎます。長いこと、ITなどで世界景気を引っ張ってきた米国の「くしゃみ」が、日本経済にとって凶とでるのか吉となるのかは、静観するしかできません。

ウォール街
急激なインフレの反動が懸念される米国経済。日本もその影響から免れることはできない

株式は業績も株価チャートも悪ければ売却の対象

ここからは、株式の個別銘柄と投資信託の売却のタイミングについてです。
株価の変動には、必ず理由が存在します。「株価材料」と言われていますが、企業の業績、金利、景気のサイクル、市場での需給関係、そして予想もつかない政治や社会情勢の変化、あるいは天災など、さまざまな要因が株価を決める材料となります。

将来の株価を予測する指標に、企業業績見通しがあります。今の株価を測る物差しとしては「PER」「ROE」「配当利回り」などがあります。株式を売却する判断材料は直近2~3年間の企業業績、株価のチャートとトレンドラインでしょう。たとえば、売上・利益ともに低迷して、半期業績も芳しくない。株価チャートも右肩上がりでなく、上昇トレンドラインでもない。これはもう売却の対象となります。逆に、これらの一つでもあてはまらなければ、しばらく様子をみることも考えられます。

そして残念ながら、多額の損失が出たとしても、同じ銘柄の買い増しはしないことが懸命です。経験上、長期間にわたり損を拡大することになるでしょう。

また、益が出ていれば売却して益を確定させることも重要です。株式投資の前提は、企業そのものの成長です。株価が下がり始めても、業績見通しが悪くなっても企業を応援し続けてしまうと、大きな損害を被ることも忘れないでください。

投資信託は下げ相場でも「リバウンド」に期待

次に、投資信託の場合を考えます。下げ相場での売却には、株式の個別銘柄と考え方に違いがあります。

結論から申し上げますと、投資信託(特に積み立てをされている方)は、短期の売却はお勧めしません。投資信託で積み立てを始めても、残念ながら5年もしないうちに売却して換金する方が半数近くいると、ある運用会社が公表しています。特に下げ相場で売却してしまう方が多いようで、「もったいない」現象です。

わかりやすい例をご紹介します。1万円の価格から投資信託の積み立てを毎月スタートしたと仮定します。1年目から5年目にかけて2000円まで下がり、そこから同じく5年をかけて元の1万円に戻ったとします。この間毎月1万円ずつ、10年間買い続けると、10年間で120万円の投資金額になります。それでは10年後、お金はいくらになったでしょうか?

答えは、約241万円。

投資信託の価格が元に戻っただけで、投資金額の2倍以上に増えています。これが積立投資の「リバウンド効果」です。
どうでしょうか? 積み立てを続ける効果を知れば、下げ相場にも動じない感覚が持てることにもなるかと思います。

やはり投資信託は長期の運用が基本であり、すぐに売らないことが前提となるでしょう。
とはいえ、市場の将来を予測することは不可能に近く、突如として下落に見舞われたりすると、不安の中で当初の考えを貫き通すのは大変です。長期投資は忍耐力が必要だ、ということもぜひ知っておいてください。

最後に、株式投資についてはNISAが普及して、非課税のメリットが得られるようになった結果、損切り(売却して損を確定させる)が遅くなる傾向となっているようです。個別銘柄の場合は、ただロールオーバーで保有期間を延長させるだけでは、結果はついてこない場合があることを肝に銘じて下さい。

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