テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第39回は、ドラマ脚本、ノンフィクション、小説でおなじみの香取俊介さん。
『北の国から』のPから連ドラ注文
フリーで文筆業をやるなら、来た話は基本的に何でも引き受けるように、と先輩作家にアドバイスされたことがある。
時代もよかったのだろう、テレビ局をやめてフリーとなって10年ほどは、途切れることなく執筆の依頼がきて、まさにフル回転。そんな折り、倉本聰さんの名作『北の国から』をプロデュースしたフジテレビの中村敏夫さんが、お会いしたいとのこと。
田中邦衛さん主演の短編ドラマ・シリーズ『私生活』(NHK)が好評であったことから、その関連かと思ったところ、ちがった。2人の個性的な女優の「女の闘い」をメインテーマに、コメディタッチでお願いしたいと。以前から辛口のコメディを書きたいと思っていたのでOKして想を練っていたのだが、(ここには書けないある事情で)2人には降りてもらったと中村さん。「別の女優さんではどうですか。別の素材で」と路線変更。誰の提案か「財テク」で行こうということになった。題して『恋テク・ゲーム』。
それまで株などの「財テク」に全く縁のなかった36歳のヒロインが、愛のさめた夫との離婚を考え、独立して生活するため《財テク》をはじめ、成功や失敗を繰り返しながら次第に財産を築いていく。その間、魅力的な独身男と出逢い恋におちる。ヒロインは、いわば「マネーゲーム」と「ラブゲーム」それに義理の娘との「親子ゲーム」の3つを演じながら、より良い人生を送ろうと試みる物語である。フジテレビの木曜劇場枠の1クールドラマだった。
ブラックマンデーで頓挫
3つの柱のうち、僕には「マネー」が一番難しく、リアリティをもたせるため、金融関係者などマネーゲームに長じた方に取材したりして、試行錯誤の末ようやく気持ちがのってきたと思ったとき──衝撃的な事態が発生した。
「ブラックマンデー」である。忘れもしない、1987年10月19日(月)。ニューヨーク株式市場が突如大暴落。ダウ工業株30種の平均が22.6%も下落、世界同時株安となり、経済界は大混乱。「このドラマNGになるな」と思っていたところ案の定、制作は頓挫。それなりのギャラはもらったものの、へこみましたね。
阿佐ヶ谷あたりの商店街を舞台に、個性的な女優2人の「女の闘い」を芯にすえて描いていたら、こんなことにならなかったのに。しかし後の祭り。刷り上がった台本は用なしとなり、どこかに消えてしまった。ところが、つい最近、仕事場で資料の山を整理していたら第一話の台本がでてきたのですよ。
嬉しいやら、恥ずかしいやら。出だしを読んでみた。中身を忘れているので、他人の書いた脚本を読む気分で活字を追っていったところ、「え!これ、本当にオレが書いたの」と思えるくらい、ディテイルにリアリティがあり、ヒロインをはじめ女性たちのキャラが立っていて、一瞬誰かが勝手に手をいれたのかと思ったほどだ(笑)。
以後、幸か不幸か、マネーゲームに材をとった作品を書いたことがない。集めた資料等は手元にあるので、時間が許せば、まずは小説として書いてみたいなと妄想を膨らませています。
次回は放送作家の福本岳史さんへ、バトンタッチ!
ぜひ読んでください!
◎『渋沢栄一 人生とお金の教室』(共著:日経ビジネス人文庫)、発売中。
コロナ禍で遅れていますが、アフリカを舞台に、民話を織り交ぜたセミドキュメンタリーを準備中。ご期待ください!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。