応用がますます広がるレアメタル市場
どのレアメタルもいずれも重要な要素となっていますが、その中でも「レアアース」と呼ばれる17種類の元素は、希土類元素とも呼ばれとりわけ重要度が増しています。
レアアースは、スカンジウム、イットリウム、それにランタン、および「ランタノイド」と称されるセリウム、ネオジム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、イットリウム、などで構成されています。ランタノイドは「ランタンもどき」とでも呼ぶのでしょうか、化学的性質がランタンとよく似ていることからそう呼ばれています。
欧州で発見されたものが多く(スカンジウム、ユウロピウム)、古くから様々な用途に用いられてきました。ランタンはガソリン製造の際の触媒として、セリウムは自動車用触媒として年間の需要が数万トンにも達しています。
ランタノイドに属する15種類の元素は、いずれも原子を構成する電子の軌道に「4f軌道」という特徴的な電子の軌道を有しています。そのためにランタンと化学的な性質がよく似ており、そろって優れた光学特性や磁気特性を発揮するとされています。
その特性を利用した用途として、光磁気記録材料、MRI造影剤、永久磁石、磁気冷凍、磁気センサー、超伝導材、蛍光体、光増幅ファイバー、赤外線レーザー、ガラス着色剤、熱電変換材料、などがあります。
またイオン半径、電荷、外殻電子の状態など、原子の外殻構造によってもたらされる性質を利用して、伝統的な触媒をはじめ、蛍光体、センサー、燃料電池、サーミスタ、キャパシタ、圧電体、光ファイバー、紫外線吸収剤、蓄電池、電子ビーム陰極材、ガラス研磨剤、固体電解質、原子炉材、なども用いられています。近年はその応用範囲が急拡大しています。
蛍光灯
蛍光灯は色合いが昼光色、昼白色、白色、電球色などバリエーションが豊富になりましたが、それは内側にレアアース蛍光体を塗ることによって実現しました。カラーテレビのブラウン管、蛍光管、レーザーなどにイットリウム、ユウロピウムが用いられてきましたが、今ではテルビウムも加えて白色LEDに多用されています。
固体酸化物型燃料電池
特定のレアアースにはセラミックスの物理・化学的な性質を向上させる機能があります。イットリウムをジルコニウムに添加した「イットリア安定化ジルコニウム」は、硬度が高くイオン伝導性にも優れていることから、600℃以上の高温で固体電解質となり、固体酸化物型燃料電池に応用されています。
ネオジム磁石
ネオジムを使って日本が発明したネオジム磁石は、世界最高の強度を誇る永久磁石です。それまでのフェライト磁石を凌駕して、ハイブリッド車用のモーターをはじめ、ロボット、工作機械、風力発電機など先端技術の分野で広く活用されています。
そのネオジム磁石の耐熱性能を高めるために、ジスプロシウムが添加されます。ネオジムの一部をジスプロシウムで置き換えることによって結晶磁気異方性を高め、それによって保磁力を高めたもの「ジスプロシウム含有焼結磁石」です。これによってネオジム磁石の場合よりも動作温度が常温から200℃まで高めることが可能となり、モーターの高性能を維持することができるようになりました。
ニッケル水素電池
ハイブリッド車のバッテリーとして活躍しているニッケル水素電池は、1990年に世界で初めて日本で量産化されました。それまでのニッケルカドミウム電池以来、100年ぶりに新しい充電式電池が登場したことになります。有害なカドミウムを含まない点が高く評価されましたが、そこには水素吸蔵合金としてランタンニッケルが用いられています。
ニッケルとランタンの合金である「ランタンニッケル」には水素を吸蔵する機能があります。それがニッケル水素電池の開発の際に利用されました。ランタンの需要は、それまではガソリンを精製する際の触媒や研磨剤の用途でしたが、それ以来、ニッケル水素電池の水素吸蔵合金の用途へと急速に置き換わっていきました。
ただしニッケル水素電池は、その後に実用化されたリチウムイオン電池と比べると、価格面と信頼性の面では優位を保っているものの、エネルギー密度が小さく重いためEVやプラグインハイブリッド車には向いていないとされています。ここでもリチウムというレアメタルが用いられています。
研磨剤
セリウムは、液晶パネルやシリコンウエハーの表面に「化学的相互作用」を施す研磨剤としても重要な役目を果たしています。
一般の研磨は「機械的研磨」と呼ばれますが、酸化セリウムを用いると、ガラスの表面分子の一部をセリウムで置換する「化学的研磨」を施して平滑化する機能があります。ここでは純度、不純物、結晶構造、製法、粒子の形状が重要であり、機械的研磨だけに頼るよりも研磨精度がはるかに向上します。この技術を使って半導体用のシリコンウエハーの表面研磨の精度が飛躍的に高まりました。