テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第53回は、出版社・クラーケンの共同代表を務める編集者の鈴木収春さん。

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小規模出版社が増えている理由

鈴木収春さんの写真
鈴木収春(すずき・かずはる)
編集者
日本放送作家協会会員

「出版社なんて儲からないから絶対に辞めたほうがいい」と周囲から大反対されて早5年。出版社・クラーケン(出版エージェンシー・クラウドブックスとホビーメーカー・ケンエレファントの共同事業)は事業を拡大しつつ、順調にタイトルを増やしています。

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5年の間に業界としてはものすごい電子漫画バブルが来るなど、地殻変動もありました。どれくらいバブルかというと、電子漫画だけは年間の売上が2016年度1600億円→2020年度4000億円と、2400億円も増えています(最近、電子漫画アプリのTVCMをよく見かけるのも、売上が激増しているからです。バブルに乗れなかった知り合いが「いまは札束の叩き合いやで! 漫画コンテンツの買収合戦や!」とスナックで管を巻いていました)。

とはいえ、紙の出版物の売上高はずっと減少傾向。「小規模な出版社の運営は楽しいし、そこそこ利益も出ますよ」と話をしても、あまり信じてもらえません。

電子漫画
2016年からの4年間で、電子漫画市場の年間売上高は2400億円も増えた

出版社とは、コンテンツを企画制作し、そのコピーを売っている会社です(と僕は考えています)。紙の複製ゆえに一般のメーカー等と比べると原価率が低い傾向にあり、一定以上の数が売れれば、その規模はさておき利益が出るようにできています。

儲からない主なパターンは「コスト(固定費)かけすぎ」「返品されすぎ」「粗製乱造しすぎ」の3つ。これさえ避ければ、想定より動きが悪かったとしても致命的な赤字にはなりません。実際、クラーケンのタイトルは現時点で全部、黒字です。昔ながらのビジネスなので、利益構造もシンプルという印象があります。

トラリピインタビュー

企画屋が出版社を立ち上げるメリット

日本放送作家協会の会員としては、今後は映像化タイトルなども手掛けていきたいところですが……それはさておき放送作家も含めてプランナー寄りのフリーランスは、みんな小規模な出版社を設立するべきと思っています(ひとり出版社とも呼ばれます)。理由は主に、下記の5点。

【1】
黒字になる本(企画)をつくれるのが前提ですが、外部スタッフとして出版社で企画を通して本をつくるのに比べ、数倍〜数十倍の利益が得られます(もちろん、赤字になるリスクはありますし、最低限の運転資金も必要です)。

【2】
出版社の横やりで、変に過去のヒット作に寄せた内容や、不本意なタイトルにさせられることがなくなります。

【3】
出版社を持つと、視野が一気に広がります(資金繰りなどのビジネス感覚が身につくので、それが普段の企画に生きることもあるかもしれません。出版業界を知ることで、『重版出来!』、『校閲ガール』、『舟を編む』のような、本に関するヒット作品を生み出せる可能性も出てきます)。

【4】
よりシビアに企画を考えられるようになります(自分が赤字になってしまうので、企画の精度が上がるとも言えます)。

【5】
他のフリーランスとの差別化という意味でも役立ちます(「出版社を持っている」と言うと、一目置かれるかもしれません。スナックで)。

書店
企画屋はみんな小規模な出版社を立ち上げてもらいたい
Ned Snowman / Shutterstock.com

ちなみに、具体的にどれくらい利益が出るのかというと、例えば、定価1300円、初版4000部の本(デザイン30万円+印税10%+印刷費で原価率は28%=145万円程度と仮定。倉庫の基本使用料金などの固定費は月3万5000円で試算)を年間4冊つくって75〜80%くらい売れれば、400万円強の利益が出ます。

リスクとのバランスはありますが、良き書き手に依頼できれば、黒字の確度も上がります。副業としても悪くないのではないでしょうか。

実際、講座などでノウハウを伝えたところ、出版社を立ち上げて利益をしっかり上げている方も複数出てきましたので、再現性はあります。出版社を立ち上げたい方は、ぜひ「出版社 作り方」などで検索してみてください。昔に僕が書いたブログ記事がヒットするはずです。

次回は放送作家の井上知幸さんへ、バトンタッチ!

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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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