信託報酬はノーロードでも得られるが……

信託報酬は、ファンドを保有している間に毎日発生する手数料です。お客様が保有するファンドの残高から控除される信託報酬は、その一部を販売した証券会社や銀行が受け取ります。
なお、信託報酬はファンドごとに、あるいはファンドの中にコースが設けられている場合にはコースごとに年率で定められています。販売手数料率とは異なり、信託報酬の率は販売会社ごとに異なるということはありません。

信託報酬は日割りして、その30日分が1か月ごとに入金されます。ノーロードのファンドは多数ありますが、信託報酬がゼロというファンドは、今のところ一つだけのようです。つまり、たとえノーロードのファンドでも、信託報酬は残高に応じて受け取ることができ、金融商品仲介業者も販売に要した初期コストを回収できる可能性がありますが、信託報酬も価格破壊が進んでいます。

例えば、国内株式インデックスファンドの信託報酬を見ると、実に10本ほどのファンドが0.154%(税込み、以下同じ)以下です。この0.154%のうち、販売した証券会社や銀行の配分は0.066%です。

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もし、信託報酬0.154%のファンドをお客様に100万円ご購入いただき、お客様が1年間お持ちになれば、販売した証券会社や銀行が受け取れる信託報酬の額は660円です。もし、金融商品仲介業者が販売している場合は、先ほどの販売手数料と同じく、所属証券会社と分け合うことになります。かつての筆者の場合は40%でしたから、先述の0.154%のファンドの場合ですと、660円×40%=264円が、筆者が受け取れる信託報酬の額ということになります。

100万円のファンドを1年間持ち続けていただき、得られる手数料が264円では、やはり初期コストには見合わないですよね。もちろん、数年という時間の経過とともに信託報酬を受け取り続け、初期コストを回収するという考え方もあるかもしれません。しかし数年という時間の中で、仲介業者はお客様にアフターフォローを行います。初期コストを回収できないうちに、さらにアフターフォローのコストが生じることになるのです。

さらに、当時の筆者の場合、ごく一部のお客様を除いて、多くのお客様が積立投資をなさっています。ですので、受け取ることができる信託報酬の額は、もっと低い金額になります。

【図表】実際の投資信託の信託報酬の一例
ファンドの種類 信託報酬
(年率・税込み)
100万円を投資した場合の
信託報酬の年間負担額(※)
日経225ファンド 0.44% 4,400円
日経225ファンド
(主にネット証券向け)
0.154% 1,540円
TOPIXファンド 0.44% 4,400円
TOPIXファンド
(主にネット証券向け)
0.154% 1,540円
S&P500ファンド 0.33% 3,300円
S&P500ファンド
(主にネット証券向け)
0.0968% 968円

※負担額は基準価額に変化がない場合の目安

筆者の方針では、金融商品仲介業はビジネスとして成立しない

筆者にとって、金融商品仲介業は全く採算の合わないビジネスでした。さらに筆者にとってとどめになったのは、一昨年の秋に、所属証券会社が「システム使用料として月額27,500円を徴収する」と、突然通告してきたことです。「お客様に少しでも利益を挙げていただきたい」ということで、ノーロードのファンドを勧める筆者の方針を続けていては、大きな赤字が累積してしまいます。

ボランティア
販売手数料が1円も入らないどころか、証券会社に対して手数料を払いながらノーロードの投資信託を提案し続けるのは、ある種の慈善事業といえるかもしれない

もし筆者が金融商品仲介業を続けたければ、自ら掲げた方針を変えるしかありません。つまり、販売手数料率や信託報酬率の高いファンドを販売することになります。また、積立投資ではなく、ファンドを一括で、まとまった資金でご購入いただく提案になってしまいます。

まだ「つみたてNISA」が始まる前のことですが、筆者の方針は所属証券会社から、ずいぶんと厭味を言われたものです。厭味に腹を立てたこともありましたが、結局、筆者の方針ではビジネスとして成り立ちませんでした。

筆者のアフターフォローが受けられないならと、担当していたお客様のうち、7割の方が取引をお止めになりました。投資そのもの機会を失ったお客様もいらっしゃいました。今さらながら、申し訳ない気持ちもあります。

このような結果に至ったということは、手数料の安いファンドを提案する筆者の方針は、実は「顧客本位」ではなかったのではないでしょうか?

なお、金融商品仲介業者のことを「IFA」(独立系ファイナンシャルアドバイザー)とも言うようですが、先述のように、所属証券会社の意向に振り回されることが多いのが現実です。このような立場の仲介業者を「独立」と呼ぶことに、業界内でも違和感はないのでしょうか?

事業者を育てるのは消費者

対面の証券会社と違って、取引に人を介さないネット証券会社でもコストは発生します。取引をされるお客様に、取引システムの提供や情報提供を行わなくてはなりません。税制などの制度も頻繁に変わります。個人情報も保護しなくてはなりません。いかに対面販売のコストがかからないとはいっても、ネット証券の販売コストそのものがゼロということはありません。

最近、あるネット系証券会社が、利用者に付与する自社グループのポイントについて、いわば「不利益変更」を行うことを発表しました。ポイントの還元率を高くすることで、日の出の勢いで口座数を伸ばしていた証券会社なので、いろんな意味で気にはなっていましたが、案の定の結果になりました。

ファンドの手数料が下がる方向に進んだきっかけは、行政の責任者の言葉だったように記憶しています。手数料価格破壊の時代に突入したファンドですが、その先に待ち受けるのは、果たして消費者にとって望ましい姿なのでしょうか? 先述の「不利益変更」の発表は、単なる序章にしか過ぎないのではないでしょうか?

「事業者を育てるのは消費者」というのが筆者の認識です。健全な事業者を育てるためにも、今、ここでファンドの手数料価格破壊の是非を、消費者の側から議論しても良いと思います。

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