現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第21回は、合成繊維の世界トップメーカーである東レ(3402)を取り上げます。
- 東レは合成繊維の世界トップメーカー。生活に関するあらゆる分野で使われている
- 東レの強みは「先端材料ヘのこだわり」と「1つのことを極める」会社の文化
- 2023年3月期は増収増益予想。株価には割安感あり、一段の上値余地を見込む
東レはどんな会社?
東レは合成繊維の世界トップメーカーです。
社名の東レは会社が設立された1926年当時の「東洋レーヨン」がもとになっています。パルプから作られるレーヨンは人類が開発した初めての合成繊維で、天然繊維である絹糸に似た光沢をもつことから「人造絹糸」と呼ばれました。
その後は米国の化学大手のデュポン社と技術提携し、ナイロンの生産やポリエステルなど事業の幅を広げていきました。米国との貿易摩擦、円高や繊維業界の衰退による苦境に何度も直面する中で、東レは先端技術による新たな製品を開発し、グローバルに事業拡大を進めてきました。
現在では樹脂やケミカル製品、医療・環境など私たちの生活に関するあらゆる分野で東レの製品が使われています。
東レの強みは?
東レの強みは「先端材料ヘのこだわり」と「1つのことを極める」会社の文化です。
東レの代表的な製品の1つに炭素繊維があります。炭素繊維とは鉄の10倍の強さを持ちながら軽さは4分の1という特性を持った素材です。その特性を活かし、ボーイングなどの航空機に使われている他、釣り竿やテニスのラケットにも使用されています。また風力発電のブレードやガスタンク、EV(電気自動車)など高級車の車体にも使われています。炭素繊維を用いた複合材料の世界シェアはNo.1です。1950年代後半から炭素繊維の研究を続けてきた東レは1970年代のオイルショックによって飛行機を軽くすることが大きな命題となったチャンスを生かし、シェアを広げるなど地道な開発の継続が生きています。
産業用だけでなく衣料用の繊維も大きなビジネスの一つです。東レはファーストリテイリングと99年からアウター用の繊維の取引を続ける中で、協業による商品開発を進めていました。その中で時間をかけて開発を進めパートナーシップで開発されたのが、エアリズム、ヒートテック、ウルトラライトダウンなどのユニクロの旗艦商品向けの化学繊維です。例えば吸湿性や保温性に優れたヒートテックはそれまでになかった合成繊維のメンズのインナーウエアという新しい市場を開拓しました。
東レの業績や株価は?
東レの今期2023年3月期は売上収益が前期比12%増の2兆5000億円、純利益が19%増の1000億円と増収増益を見込んでいます。ロシア・ウクライナ情勢の長期化や原材料価格の高騰など不確実性の高い状況が続くとの前提で業績を予想しています。
炭素繊維複合材料では、航空機向けは大手メーカーの生産抑制の影響が残るものの、脱炭素の再生エネルギーの普及で風量発電機向けやアウトドアレジャー向けの増加を見込んでいます。繊維では、自動車のエアバッグ向け、外出機会の増加によるスポーツ、アウトドアなどの繊維の需要拡大を見込んでいます。
6月10日の終値は727.3円で投資単位は100株単位となり最低投資金額は約7万円です。
近年はコロナ感染拡大で航空機の需要が落ち込んだことによる炭素繊維の減収や巣ごもりによる衣料用繊維の落ち込みなどが業績を下押ししていました。化学繊維の原料である原油価格の上昇も収益を圧迫すると見られていました。しかし一部の製品では値上げによる収益性の改善も進んでおり、世界的に人の移動が回復傾向にある今期は更なる業績の回復が期待されます。
足元の株価は戻りが続いていますが、企業の純資産からみた投資指標である株価純資産倍率(PBR)は1倍を下回っており、未だ割安感があることもあり、株価も一段の上値余地を見込んでいます。