「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、円安なのに株価が上がらないのはなぜか、その背景に迫ります。

  • 日本はビッグマック指数42位。購買力は新興国より低くなっている
  • 円安で日本企業の工場が国内に回帰しているのに、日経平均やTOPIXは伸びない
  • 外国人投資家にとって日本株は安く買えるのに、9月は日本株を売り越した

私事で恐縮ですが、筆者は最近、学校関係の仕事がメインになりつつあり、10月に入ると後期の授業が始まります。若者たちとの格闘の日々です(笑)。ちなみに、プロフィールにある専門学校の講師に加え、4月から高等学校の教壇にも立っています。教科は何と国語です。

歴史的な円安は円の“大安売り”?

歴史的な円安が、これまた歴史的な速さで進んでいますね。もっとも、10月のアメリカ雇用統計が発表された後は、1ドル145円前後で揉み合っています。「円を売ってドルを買う」から円安になるのですが、日本銀行を除いて誰もが皆、円を無限に持っているわけではありませんからね。

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さて、歴史的な円安ということは、あえて言うと「円」が大安売りということになります。「円」が安いということは、「日本が安い」とも考えられるのでしょうか?

大きく下がった日本の購買力

話は変わって、FP(ファイナンシャルプランナー)の教科書を開くと、「消費者物価指数」や「景気動向指数」などの指数が載っていますが、今、この時代に最も知りたい指数は載っていません。今、最も知りたい指数は「ビッグマック指数」です。マクドナルドのビッグマックは全世界でほぼ同一品質で作られているそうです(本当かな?)。なので、世界中の「購買力」の比較に便利なようです。

The Big Mac index (The Economist)
最新のビッグマック指数はこちら

マクドナルドのビッグマックで比較すれば、消費者物価指数よりも身近だから、購買力の違いが分かりやすいのではないでしょうか? ……と気楽に言ってしまいましたが、実際にこのビッグマック指数を日本と外国で比べてみると、事の深刻さがよく分かります。

【図表1】2022年7月時点のビッグマック指数の比較
順位 国名 ビッグマックの価格
米ドル
1位 スイス 6.71 973
5位 カナダ 5.25 761
6位 米国 5.15 747
10位 ユーロ圏 4.77 691
11位 オーストラリア 4.63 671
14位 英国 4.44 644
16位 ブラジル 4.25 616
31位 中国 3.56 516
32位 韓国 3.50 508
33位 タイ 3.50 507
40位 ベトナム 2.95 427
41位 日本 2.83 410
42位 アゼルバイジャン 2.77 401

※1ドル=145円で計算
出所:The Economist

2022年7月時点で、何と日本は54カ国中41位です。世界でも物価が高いであろう、カナダ、アメリカ、イギリスよりも低いのは、まあ想定内としても、タイやベトナム、中国、それにウォン安で苦しんでいる韓国よりも低いのです。これにはショックを隠し切れません。

私たちは今、物価高に悩まされています。この10月にも、2千種目を超える値上げがあったようですし。しかし、日本と海外を比べると、(ビッグマック指数を見る限り)もう新興国と比べても低い物価水準にあるようです。私たちの暮らし、特に食品は海外からの輸入に依存しているから、このビッグマック指数を見て「物価高に苦しむのは納得がいく」ともいえそうです。

大安売りの日本株が売られている?

ところで、日本企業の工場が「円安で海外から日本に戻っている」というニュースを時々、聞くことがあります。円安が一時的な現象なら、工場をわざわざ日本に戻す必要もないのでは? と思っていたのですが、このビッグマック指数を見て納得ですね。円安が一時的か否かではなく、とにかく「日本は安い」から、工場を日本に戻しているのでしょうね。この「日本は安い」には、もちろん人件費も含まれますね。

さて、これだけ日本が安いのですから、外国人投資家は日本株を買っているのでは? と思っていたのですが、その割に日経平均やTOPIXが伸びていません。まさか? その、まさかです。

【図表2】東京証券取引所の海外投資家の売買状況
市場 9/5~9 9/12~16 9/20~22 9/26~30
プライム -225.9 -542.7 -1706.2 -5559.7
スタンダード -27.5 -123.1 -21.8 -59.1
グロース 40.5 -4.5 -26.6 -20.7

※単位=億円。プラスは買い越し、マイナスは売り越しを示す
出所:日本取引所グループ「投資部門別売買状況

東京証券取引所プライム市場での取引の7割強を占める外国人投資家は、9月は売り越しの傾向です。歴史的な円安なのですから、外国人投資家にとって、日本株は文字通りバーゲンセールのはずなのですが。ちなみに、中間あるいは期末決算に近い週、そして国葬が行われた週である9月26日~30日が、最も売り越されていることが分かります。何とも皮肉ですね。

まとめに代えて

私たちは日本に暮らし、日本の企業とは「労働者」と「消費者」、そして「投資家」という3つの立場で付き合っており、それゆえ、「円」を持ち、「円」を貯めなくてはなりません。でも日本企業との「投資家」という付き合いから、そろそろ卒業を検討する時期が近付いているのでしょうか?

「暮らし」という視点で、今、筆者が最も懸念しているのは食品です。値段が上がったとはいっても、お店の棚にはバラエティー豊かに食品が陳列されています。しかし、将来も、これまでと同じように輸入を続けることができるのでしょうか?

外国人投資家は円安なのに日本株を売っています。外国人は日本を、日本企業を、どのように評価しているのでしょうか? もしかしたら、どんなに高いお金を払っても「食品が手に入りにくい」時代になってしまうことはないのでしょうか? いらぬ老婆心であることを願います。

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