テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第92回は、まだ、まだ、まだ、現役! ベテランの芳賀倫子さん。

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楽しき哉、70代!

芳賀倫子さんの写真
芳賀倫子
放送作家
日本放送作家協会会員

70代の私だが、毎日楽しくて仕方がない。長い人生の中で今が一番ハッピーである。
それは、社交ダンスにハマっているからにほかならない。1週間に3回もレッスンに通って踊りまくっているのだ。元々、体を動かすことが好きで、スポーツは見るのもやるのも大好きなのだが、ダンスともなれば、音楽に合わせて舞うわけだから楽しくないはずがない。

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ダンスを知ったのは

そもそも、ダンスに興味を持ったのは、50年ほど前のこと。学生時代に遡る。
当時、何かというとダンスパーテイを開くのが流行っていた。シーズンともなれば、私が所属していた「ワセダ・ミステリ・クラブ」でもパーテイを企画することがあった。パー券を売ったり、食べ物を用意したり、何かと忙しかったものである。さらにダンスが始まれば、パートナーのいない男性の相手役も務めなければならない。「ナニ、混み合ってるから足踏みをしていれば何とかなるよ」と先輩に言われて、足踏みだけで一曲終わることもあった。

華麗に踊るカップルを見て、いつかあんな風に踊れたらなあ、と何度思ったことか。しかし、シーズンが終われば別の遊びで忙しいし、お金も無い。いつの間にかダンスを習うということを忘れて卒業してしまったのだった。

ダンスを踊る二人のイメージ
学生時代、華麗に踊るカップルを見て羨ましく思っていた

ダンス無縁の日々

その後は、就職、結婚、子育てと、ダンス無縁の日々が続いた。
しかし、いつも心の奥底では、ダンスをちゃんと習いたい、華麗に踊ってみたいとずっと思ってはいた。と言っても、子どもにはやたらとお金が掛かるし、ダンスどころではない。その上、シナリオライターという職業は、とんでもなく忙しい。ダンスを習うというお金も暇も無いまま、時は過ぎていった。

そして60代。子ども達は次々と独立して家庭を持ち、夫も亡くなり、いよいよ、身軽に。
72歳の時、もうここで立ち上がらなければ、ダンスを習うという夢はついえてしまう、そう思って、遅まきながらダンスの世界に飛び込んだのだった。

30歳イケメン・ヒカル先生

私は1995年から、NHK文化センター・名古屋教室でシナリオ講座を開いてきたが、その隣の部屋でダンスの初級教室が開かれていたのだ。時折、拍子をとる音が聞こえてきた。そうだ、ここで習えばいいのだ、と入会した。遅れてきた新人だったが、皆、親切ですぐに溶け込み友だちも出来た。グループレッスンだったが、それはそれで楽しかった。

しかし、2年もすると飽き足らなくなり、個人レッスンに通うようになった。そして、30歳イケメン・ヒカル先生に教えていただくことになり、以来、今日まで続いている。

昇級試験となるメダルテストも受けるようになり、3級、2級、1級、ブロンズ級、シルバー級、ゴールド級と進み、現在はファイナル級までたどり着いた。だからどう、ということはないのだけれど、70代でも上達するのだということが実証でき、自己満足の極みではあるけれど、嬉しい日々である。今年7月のパーテイではタンゴ部門のデモンストレーションにも出場した。もちろん、パートナーはヒカル先生である。

この年になると、30歳の男性と手を取り合うということはまず無いのだが、ダンスでは白昼堂々と手を取り合うことが出来る。これはなかなか悪く無い。

社交ダンスで踊る二人の手のイメージ
ダンスではパートナーと堂々と手を取り合える

費用は掛かるのですが

週に3回のレッスン、しかも2レッスンずつとなると、それなりに費用が嵩むかなり掛かる。それだけでは無く、靴代、メダルテスト代、パーテイの費用等々、恐ろしいほど出てゆく。私もご多分に漏れず貧しい物書きゆえに、潤沢にお金があるわけではない。

したがって、ダンス以外にはほとんどお金を使わないようにしている。幸いにして、今はどの家にも、物が有り余っており、断捨離したいと思っている人は多い。ダンスの衣装も、高校時代の友人が「長年ダンスをしてきたけど、引っ越しを機に止めるので、捨てるけど要らない?」と電話が掛かってきた。もちろん、即、いただくことに! 
そんなこんなで、衣類は一切買わない。食べ物も、狭い庭に食べられるものを植えて、死なない程度に食べていれば、食費なんてしれたもの。
そして、株式を少し動かして運用益をすべてダンスにつぎ込んでいる。株は信用取引には手を出さず、優良株を数点見極めて、下がったら買い、上がったら売る、を繰り返していれば、大儲けはできないけれど、着実に儲かると思っている。昨今の低金利では預金だけでは財テクは不可能で、ダンスなんてとてもとても……。ゴルフもやらず、海外旅行にも行かない私は、ダンスにだけは惜しみなくつぎ込む。

うちの場合、エンゲル係数ならぬ、ダンス係数は相当に高く、破格である。しかし、これで心身の健康が買えると思えば安いもの。ヒカル先生曰く「骨格を変えることは出来ないけれど、姿勢を変えることは出来る」と。かくして、足腰はしっかりしてきたし姿勢が良いと言われるようになった。今のところ入院したり、通院したりすることも無く、若いと言われることも、たまにはある。お世辞は真に受けることにしているので、大変に心地よい。

タンゴを踊るペアのイメージ
ダンスのおかげか足腰がしっかりしてきて、姿勢が良いと言われる

妄想も楽し

私があまりに楽しがっているものだから、87歳の姉、76歳の従姉妹、77歳と75歳と66歳の3人の義妹、合計5人がうち揃ってダンスに通うようになった。そのレッスン風景は、どのようなものだろう、想像するだに恐ろしいものはあるが、婆さんたちは皆、意気軒昂である。幸い、自分の姿は見えないところがダンスの良いところである。ヒカル先生も、お婆さんが一人終わるとまたお婆さん、またまた、お婆さん、またお婆さん……。

私はというと、老婆軍団のリーダーとして、自信満々であった。さぞ良い格好で踊っていると思い込んでいた。しかし、デモンストレーションのビデオが出来てきて、それは妄想であると思い知ったのだった(^_^)。
まさに老婆(ローバ)は一日にしてならず」を実感したのでありました!

次回は放送作家の田北豊明さんへ、バトンタッチ!

是非読んでください!

エッセイ集『すべって、ころんで、さあタンゴ!』(風媒社刊)を読んで下さい。
『すべって、ころんで、さあタンゴ!』表紙

これまで書きためてきた500編のエッセイの中から絞りに絞って60編、珠玉のエッセイをぜひお読み戴きたいものです。「選りすぐった挙げ句がこれかよ」とは言わせません。

さらに、巻末には「やさしい文章の書き方」というオマケ付きです。この30年の文章作法のノウハウを惜しみなく披露しました。NHKの某氏からは「こんなに企業秘密をさらけ出しちゃっていいの?」と言われましたが、良いんです。この本を読んで「得をしたな」と思って戴ければ。
これまで春日井市にある『日本自分史センター』の講師・相談員として人様の出版にばかり関わってきて自分のことは後回しになっていましたが、満を持しての出版です。面白く無いわけがありません。

ところが2020年春、発売と同時にコロナ感染拡大による非常事態宣言が出され、本屋さんは閉鎖、図書館も閉館、文字通り「すべって、ころんで」しまいました。
せっかく、新聞にも書評を掲載して貰えたというのに! しかし、今はネットというものがあり、一時はアマゾンで売り上げ上位にランキングされました。サクサクと売れるということではありませんが、ジリジリと売れてはいるようです。
ぜひ、お目通し戴きたくお願い申しあげます。

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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