投資により利益と損失の両方が生じている場合は、損益通算をすることで、税金の払いすぎを防ぐことができます。ただし、場合によっては確定申告の手続きが必要になります。どのような投資に対して損益通算ができるのか、またどのような場合に確定申告が必要なのか、ケースに分けて解説します。ぜひ年末までに、ご自身の運用実績とともにご確認ください。
- 投資の税金は、利益と損失を合算した「損益通算」の結果に対して課せられる
- 「株式・投資信託など」と「FX・先物取引など」の間で損益通算はできない
- 年末までに「損出し」をすれば、支払う税金を減らすことができる
投資の利益と損失を相殺するのが損益通算
損益通算とは、株や投資信託などの利益と損失を合算することです。NISA口座ではない一般の課税口座で株や投資信託などに投資すると、そこから得られた利益に対して20.315%の税金が課せられます(2022年12月時点の税制)。ただし、税金は個々の株や投信などに対する利益に対してではなく、これらを合算して損益通算をした結果に対して課せられます。
株や投信などの利益と損失を合算した合計がマイナスの場合には、税金を払う必要がありません。ところが、損益通算をしなければ、全体ではマイナスなのに、損益がプラスになった特定の銘柄の利益に対して、払わなくていいはずの税金を払ってしまうこともありえます。税金を払いすぎないようにするためには、確定申告する前に損益通算をしておかなくてはいけません。
具体的な数字で説明しましょう。例えば、ある年において、A株の売買により100万円の利益、B株の売買で60万円の損失、C投資信託で30万円の利益があったとしましょう。A株とC投資信託の利益だけを見れば課税対象は130万円ですが、B株の損失を加えて損益通算をすると、実際の利益は70万円(100万円-60万円+30万円)のため、本来の課税対象は70万円となります。もし損益通算をしなければ、12万1890円(60万円×20.315%)もの税金をよけいに支払うことになってしまいます。
なお、証券会社や銀行などの特定口座で投資をしている場合は、金融機関側が損益通算をして報告書を作成してくれるため、投資家自身が計算する必要はありません。さらに「源泉徴収あり」の特定口座であれば自動的に納税まで行われるため、確定申告をする手間が省けます。しかし、一般口座で投資をしている場合は、投資家自身が損益通算の計算をして、結果によっては翌年確定申告をすることが求められます。また、後に述べるように、複数の金融機関で投資している場合も確定申告が必要になる場合があります。
損益通算の対象となる2種類の金融商品
損益通算の対象となるのは、次の2種類の金融商品です。
- 株式の個別銘柄と損益通算ができる金融商品
- 株式などとは別で損益通算ができる金融商品
1と2の損益は合算できません。別々に損益通算し、それぞれの税制に応じて税額を計算する必要があります。
① 株式の個別銘柄と損益通算ができる金融商品
株式の個別銘柄と損益通算ができる金融商品としては、次のものが挙げられます。
- 国内株式
- 投資信託
- 外国株式
- 公社債など
これらの金融商品から得られる利益は「株式等に係る譲渡所得等」として扱われ、いずれも申告分離課税が適用されます。特定口座や一般口座で損益通算をした結果、利益があるときは、利益に対して20.315%の税金を納めなくてはいけません。
② 株式などとは別で損益通算ができる金融商品
株式とは別に損益通算できる金融商品としては、次のものが挙げられます。
- FX
- CFD
- 先物取引
- オプション取引など
これらの金融商品は「先物取引に係る雑所得」として扱われます。こちらも申告分離課税が適用され、利益にかかる税率は①と同じく一律20.315%ですが、①の金融商品とは損益通算ができません。
複数の金融機関に口座を持つ人は確定申告が必要
特定口座で投資をしている場合は、金融機関側が損益通算を計算して報告書を発行してくれるため、投資家自身は損益通算をする必要がありません。特定口座の中でも「源泉徴収あり」のタイプを選んでいる場合は、納税まで自動的に行われるため、確定申告や納税の必要もありません。
しかし、異なる金融機関の口座間では、自動的に損益通算されない点に注意しましょう。複数の証券会社や銀行などに証券口座を持ち、それぞれで投資をしている場合は、たとえ特定口座であっても投資家自身が損益通算をし、結果によっては確定申告することが必要です。
年末までに、すべての口座で「損出し」をする
含み損を抱えている株や投資信託があるときは、売却して損失を出し、他の株や投資信託から得られた利益と相殺して課税額を減らせます。
このように節税のために含み損のある金融商品を売却することを「損出し」と呼びます。損益通算できるのは、同じ年の投資に対してのみです。年末までに損出しをして、利益を生まないと予想される投資対象を整理しておきましょう。