今回からは、税理士の佐々木美佳さんが自身のもとに寄せられた相談をもとに、「おひとりさま」の相続にまつわる実践的なケーススタディーをお伝えします。連載第19回は、晴れておひとりさまを卒業した晩婚カップルの相続について考えます。

  • 故人の配偶者は常に相続人となり、婚姻期間を問わず親族の法定相続分は一定
  • 晩婚した人の姉弟が、結婚で自身の相続分が減るため「籍は抜いて欲しい」と連絡
  • 晩年になってからの婚姻は急に権利の移転を伴うため「争族」の種になりがち

50年連れ添った夫婦も、3日前に結婚した夫婦も法定相続分は同じ

いままでずっとおひとりさまの方も縁はどこにあるかわかりません。

「私は歳だからもうそんな機会はないわ」などと思っている方だって近い将来、一生を共にする人と巡り会うかもしれないのが人生です。しかし、一般に若いころの結婚と比べ、その方の財産が多く蓄積されてからの結婚は相続時にトラブルを招きやすくなっています。
今回はそんな“争族”のお話をしたいと思います。

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この連載の1回目、民法に定める法定相続分について少しご説明しましたね。

子どもがいない場合、相続人の範囲はどこまで?

その時の親族表を思い出してみてください。

【図表1】法定相続人と法定相続分
法定相続人

お亡くなりになった方に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人となります。
これは婚姻期間に関係なく、法律上婚姻の事実があれば50年連れ添った夫婦も、お亡くなりになる3日前に籍を入れた夫婦も法定相続人であることに変わりありません。

そして共同相続人としての相続分は、

  1. 配偶者と子……配偶者1/2、子1/2
  2. 配偶者と直系尊属……配偶者2/3、直系尊属1/3
  3. 配偶者と兄弟姉妹……配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

となっています。
子、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ複数人いる場合は、法定相続分を人数分で均等に分けることとなります。

「たった数年の関係性で相続分が3/4あることがおかしい」と姉弟は訴える

数年前にご相談に来られたAさん(55歳)は、3年前に今のご主人(61歳)と結婚をしました。ご主人は大学病院にお勤めする外科医のかたで、どちらかというとワーカホリック気味。これといった趣味もなく生活も質素で、ご両親から受け継いだ家とそれなりの預貯金を財産として保有していました。

しかしお互い初婚で過去に子供もなかったため、相続などのことは何も気にしてはいなかったのですが、そのご主人に健康診断で脳腫瘍が見つかったことで事態は急変します。
幸いその時点で、脳腫瘍が直接命にかかわるものではなかったのですが、その手術を機にご主人の姉弟からAさんに、ご主人との同居は認めるが籍は抜いて欲しいと連絡があったそうです。

ご主人の姉弟にとって、ご主人がAさんと結婚する前は、自分たち姉弟だけがご主人の相続人でした。100%の財産を姉弟で分けることができたのです。それが、自分たちには何の了解も得ずAさんと結婚をしたため、ご主人の財産の相続分が1/4になってしまったことが許せないと姉弟は言います。

【図表2】結婚により兄弟姉妹の法定相続分が減る
結婚により兄弟姉妹の法定相続分が減る

ご主人の長い独身生活を支えてきたのは姉弟であり、熟年と言われる年齢になってから急に嫁となり、たった数年の関係性しかないのに財産の相続権が3/4あることがおかしいと姉弟は訴えます。
Aさんとしてはそこまでの欲得もなく結婚をしたのですが、籍を抜けとか相続放棄をしろと言われても納得がいきません。

結局この一件は税理士の範疇の仕事ではなかったので、弁護士先生をご紹介して私の手からは離れましたが、このように晩年になってからの婚姻、再婚は将来の相続に急に権利の移転を伴うこととなり、ご親族間の争いの種になりがちです。
前妻とのお子さんがいる方の再婚も相続が争族となることが多いパターンですね。

人生の折り返し地点を過ぎてからでも人は恋をしますし、それからやっと人生で一番のパートナーと巡り会う可能性もあるのですが、実際に婚姻、籍を入れるとなると、若いころにはなかったいろいろな足かせが出来てしまうのかもしれません。

今後、多様性の時代になり同性婚も認められる世の中になると、相続に関しても柔軟性を持った考え方が必要になってくることと思います。

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