「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回のテーマは、減少に転じてしまった日本の人口。GDPとも密接に関わる人口を増やすにはどうすればいいか、そもそも人口を増やす必要があるのかどうかを考えます。

  • GDPは「企業が挙げた利益の合計」ともいえる。GDPの伸び率は注目すべき数字
  • 昔の日本は人口を増やすためにいろいろな政策や施策を行ってきた
  • 人口を増やすより「国民一人当たりのGDP」を上げる方が現実的かもしれない

「正常に戻った」という表現で良いのでしょうか? 大型連休が明けるのと同時に、新型コロナ感染症の分類が変更されるのに伴い、諸々の制限が緩和されることになりました。マスクを着用していない人も珍しくありませんし、お店でも透明のアクリル板や透明のビニールカバーなどがなくなりました。

さて、コロナ禍の約3年もの間、課題となったのが出生者数です。政権も危機感を募らせたのか、政策を実施しても効果が上がらないことに焦りを感じたのか、「異次元の子育て支援」を打ち出しましたね。(「異次元の金融緩和」が10年経っても効果が上がらないのに、あえて「異次元の……」と銘打ったのは?)

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GDPを伸ばすためには人口を増やすべき?

国の経済的な繁栄や発展には「人口の多さ」が欠かせません。国の経済力を図る尺度の一つ、GDPが上位の国は、3億人を超える人口のアメリカが1位ですし、2位の中国は14億人を超えます。

【図表1】各国・地域のGDP(2022年予測値)
順位 国・地域名 GDP
(10億米ドル)
1位 アメリカ 25,464
2位 中国 18,100
3位 日本 4,234
4位 ドイツ 4,075
5位 インド 3,386
6位 イギリス 3,071
7位 フランス 2,784
8位 ロシア 2,215
9位 カナダ 2,140
10位 イタリア 2,012
11位 ブラジル 1,924
12位 オーストラリア 1,702
13位 韓国 1,665
21位 台湾 762

出所:IMF World Economic Outlook Databases

【図表2】各国・地域の人口(2022年予測値)
順位 国・地域名 人口
(100万人)
1位 インド 1,423
2位 中国 1,413
3位 アメリカ 334
4位 インドネシア 275
5位 パキスタン 227
6位 ナイジェリア 217
7位 ブラジル 214
8位 バングラデシュ 169
9位 ロシア 143
10位 メキシコ 130
11位 日本 125
12位 フィリピン 112
13位 エジプト 104
27位 韓国 52
55位 台湾 23

出所:IMF World Economic Outlook Databases

GDPについて教科書と異なる理解をするのなら、「企業が挙げた利益の合計」とも言うことができます。つまり私たちが投資、特に海外の投資先を検討するうえで、特に「GDPの伸び率」は注目に値する数字だと言えるのです。「GDPの伸びが大きい」のでしたら、「利益が伸びている会社が多い」とも言えるからです。

筆者の個人的なことを申し上げれば、筆者は塾・高等学校・専門学校などで非常勤講師を務めておりますので、出生者数の減少は将来の仕事の減少につながります。また、投資するうえでも、先述の通り、GDPと人口との関連を踏まえると、人口の減少は好ましいことではありません。

筆者の職業から察すれば「人口は増えた」方が望ましいといえそうですが、実は筆者は、むしろ「人口の減少」について危機感はありません。むしろ、人口が減れば「住居費用も減るのでは」と期待しているくらいです。

人口を増やすヒントは日本の歴史にあり?

ここで日本の歴史を振り返ってみましょう。江戸時代の日本の人口は3000万人くらいで推移し、明治維新を迎えました。明治維新の後、殖産興業政策などを打ち出し、太平洋戦争終戦時には、日本の人口は6000万人を超えていたそうです。その後、高度経済成長の波に乗るように、日本の人口は増え続けましたが、2008年の1億2808万人をピークに人口は減少の一途を辿り、今に至っています。

太平洋戦争の前は、日本は海外に領土を拡張するという政策を採りました。その背景には「人口の増加」という課題を解決する意図もあったのではないでしょうか? もちろん、課題解決のための戦争というのは許されることではありません。

太平洋戦争の後、「人口の増加」に伴い、「家が不足する」という課題に対する答えとして「団地」や「ニュータウン」の建設ラッシュがありました。こちらは経済効果もあり、その時は良かったかも知れません。人口が減少し続ける今、タワーマンションが建設ラッシュでしたが、将来、どうなるでしょうか?

タワーマンション
近年増えたタワーマンションは、都市部への人口の流入を支えた

さて、日本の歴史を振り返ると「人口を増やす」ためには「経済成長」が欠かせないという結論を得ることができるのではないでしょうか? 日本は「失われた30年」とも言われるように、日本の経済は停滞し続けていますので、人口が減っているのもうなずけるものがあります。

国民一人当たりのGDPを伸ばすべきでは?

効果の程が定かではない「子育て支援策」や「人口増加の政策」よりも、むしろ「国民一人当たりのGDP」を伸ばす政策の方が現実的ではないでしょうか?

日本はGDPこそ世界3位を誇りますが、国民1人当たりのGDPは日本・韓国・台湾と、ほぼ同水準です。

【図表3】各国・地域の1人当たりGDP(2022年予測値)
順位 国・地域名 1人当たりGDP
(米ドル)
1位 ルクセンブルク 127,580
2位 ノルウェー 106,328
3位 アイルランド 103,176
4位 スイス 92,371
5位 カタール 84,425
6位 シンガポール 82,808
7位 アメリカ 76,348
8位 アイスランド 73,998
9位 デンマーク 66,516
10位 オーストラリア 65,526
11位 オランダ 56,489
12位 スウェーデン 55,689
13位 カナダ 55,085
31位 日本 33,822
33位 台湾 32,643
34位 韓国 32,250
68位 中国 12,814

出所:IMF World Economic Outlook Databases

乱暴な言い方ですが、ただただ「人口を増やす」だけの政策で、貧乏な人が増えるだけ、稼ぐ力が乏しい人が増えるだけでは、社会保障や社会福祉の維持が困難となるだけではないでしょうか?

例えば、インドは経済成長が著しいと言われていますが、2022年には自動車の販売台数が日本を抜いて世界3位となりました。ちなみに1位は中国で、2位はアメリカです。インドは「豊かな国民も増えている」とも言えるのではないでしょうか? ひょっとすると、太平洋戦争後の日本と同じように、経済も成長しつつ、人口も増える、そんな可能性があるかも知れません。2030年、インドのGDPは日本を抜くとも言われています。

海外の代表的なインデックスファンドへの投資を検討するのでしたら、GDPの伸び率や国民一人当たりのGDPの伸び率が判断の目安になるでしょう。

本稿がUPされる頃が、G7広島サミット開催の時期でしょうか? G7は日本が抜け、インドが入った、ということにならないように祈っています。

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