「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、FTXの破綻やビットコインの下落で何かと話題の「暗号通貨(仮想通貨)」について考えます。
- 暗号資産の価値は下落傾向にあり、暗号資産取引所大手のFTXが経営破綻した
- 金融引き締めで金利が上昇。「緩和マネー」が暗号資産から引き上げられた可能性
- メタバースが発展し、暗号資産が決済手段として定着すれば、乱高下はなくなる?
今年11月11日に、暗号資産の取引所であるFTXが経営破綻しました。FTXの2022年7月31日時点の、1日の取引額は2200億円でした。2021年度の東京証券取引所の1日当たりの売買額の平均は3.8兆円でしたので、株式などの売買額に比べると、暗号資産の取引額はまだまだ小さいですね。
暗号資産(仮想通貨)の歴史
暗号資産(仮想通貨)の誕生は、2008年11月1日に、Satoshi Nakamotoという人が、ブロックチェーン技術を活かした決済や送金のシステムを発表したことがきっかけと言われています。まだまだ歴史が浅いことがわかりますね。当時の筆者も、「送金手数料が安くて、早い(?)送金システムなのかな」という程度の認識でした。2008年といえば、あのリーマン・ショックのあった年でもありますね。それだけに、何とは無しに「銀行以外の金融取引」に期待していた頃でもありました。
しかし、いつの頃からか、暗号資産が「投資」の対象として認識されるようになり、今日に至っているようです。
金融緩和と金融引き締めのおさらい
話は変わりますが、最近、日本を除く多くの国で「金融緩和」から「金融引き締め」に移行しています。つまり、ゼロ金利やマイナス金利から、プラス金利へと進みつつあるということです。
最近まで金融緩和を行っていた理由として、考えられることはいくつかあると思われますが、代表的な理由として挙げられるのが、先述のリーマン・ショックですね。100年に一度の金融危機といわれ、震源地のアメリカのみならず、世界中を巻き込み金融不安に陥りました。そしてもうひとつ、金融緩和に至った代表的な理由として考えられるのが、いわゆるコロナショックですね。2020年春以降、新型コロナ感染症への対応として、多くの国々で経済活動を止めました。
リーマン・ショックやコロナショックの時に、不安が高まったのが企業などの「資金繰り」です。金融不安や資金繰りという課題への答えとして行われたのが、金融緩和だったわけです。
それでは、金融緩和と暗号資産の間には、いったいどのような関係があったのでしょうか?
金融緩和と暗号資産の関係
さて、金融緩和とは、先述の通り金融不安や資金繰りという課題への答えとして行われるものです。日本銀行などのような、それぞれの国の中央銀行から「お金を世の中に送り込む」ことを指します。「緩和マネー」とも言い表すようですが、その緩和マネーの行きつく先が、金融不安や資金繰りへの対応のみならず、「投資」に向かうこともあるようで……。その投資に向かった先の一つが「暗号資産」なのです。
緩和マネーが、なぜ投資に向かうのかといえば、安定した預け先である預金に預けても利子が付かないか、利子が付いてもごくわずかだからです。利子を得るためには時間が必要です。時間を重ねれば利子も重なっていきますが、そもそも金融緩和のもとでは預金金利は非常に低く、利子の額はごくわずかですから、どんなに時間を重ねようとも、利子の重なりは大きくはなりません。銀行に預けたお金は「死んだお金」に過ぎませんし、利子を待つのは「時間の無駄」ということになってしまいます。だから、時間を有効に活かすために緩和マネーが投資に向かうのです。
では、緩和マネーが向かった先の一つが暗号資産だったとして、日本以外の多くの国で金融緩和から金融引き締めに変わりつつある今、暗号資産にはどのような影響が考えられるのでしょうか?
金融引き締めでは、金利が上昇します。例えば、前回の稿でご紹介したドル建てMMFの利率は、前回では「2.908%」でしたが、本稿を執筆している今は「3.328%」です。わずか3週間足らずで、ドル建てMMFの利率が上がっているのが分かります。
為替による差損益は別にして、「リスクを取って」株式や暗号資産に投資をしなくても、「利息を取る」ことを目的に、(株式や暗号資産に比べて)安定資産の一つであるドル建てMMFに預けることを考える人もいるでしょう。あるいは投資した株式や暗号資産の全部もしくは一部を売却して利益を確定させて、その資金をドル建てMMFに充てるということも考えられます。
暗号資産の下落の理由は、緩和マネーの引き上げ?
もし、筆者の考えが妥当なのでしたら、FTXの破綻や、それに伴う暗号資産の価値の下落は、暗号資産からの「投資資金(緩和マネー)の引き上げ」が原因と考えられるのではないでしょうか?
FTX破綻の理由として「ずさんな経営実態」が挙げられていますが、逆に言えば、以前はずさんな経営でも資金が集まり、活発に取引がなされ、FTXも運営できたということです。金融引き締めによって暗号資産への投資資金が減り、経営のずさんさが明るみに出たことで、今回の破綻に陥ったと、筆者は考えているのですが。
そもそも暗号資産とは? 仮想なお金は暗号資産だけ?
新型コロナ感染症が社会問題化する直前の2019年末、暗号資産の一つであるビットコインは7,158ドルで取引されていたようですが、それが2021年11月9日に67,734ドルにまで跳ね上がりました。緩和マネーがビットコインに向かったと考えられそうですね。
ところで、このビットコインの価値(取引額)の跳ね上がりは、企業における株価の上昇が企業の成長を表すのと同じように、「ビットコインの成長」と理解して良いのでしょうか?
暗号資産は、先述の通り、以前は「仮想通貨」と呼ばれていました。そう、「仮想」のお金です。「仮想」である以上、「実在」はしていない、ということですね。
最も、今ドキではデジタルマネー(SuicaやPASMOなどの電子マネーや、○○ペイなどと呼ばれるキャッシュレス決済)の時代ですから、お札やコインを持っていなくても買い物ができてしまいます。それに、そもそも、お金は「誰もがお金だと信じている」から、お金として成り立っているわけで、お札やコインを「お金と信じることができない」状態になれば、お金も終わりです……。極論かもしれませんが、お金そのものが「仮想」とも言えそうです。
では、今では暗号資産と言われる仮想通貨は、「お金」と何が違うのでしょうか?
円やドルなどのお金には「法的な裏付け」があり、「法定通貨」とも言います。一方、暗号資産は法的な裏付けがない、法定ではない「通貨」です。つまり、暗号資産とは、実在もなければ、法定でもない、ということなのです。
実在もしないし、法定でもない「単なる電子データ」にしか過ぎないものを暗号資産と呼び、「将来、価値が上がりそう」だとして、たくさんの投資家が暗号資産に投資をしていたわけです……。実際にビットコインの価値が上がったのは先述の通りなのですが、実在しない資産である以上、「ビットコインが成長した」というよりも、人気や関心が高まることによって、ただ単に「価値が上がった」ということなのでしょう。
FTX破綻による金融危機はない?
FTXの破綻に端を発し、暗号資産の価値が下がっているようです。また、本稿執筆中に、FTX破綻に連鎖するように、暗号資産貸付業者のブロックファイも破綻するニュースが飛び込んできました。ブロックファイの債権者(=ブロックファイの資金調達先?)は10万人以上にのぼるそうです。
お隣の韓国では、借金して暗号資産に投資をする若者が増えていたそうです。こうしたニュースを聞くに付け、何とは無しに、金融危機のような流れを感じてしまいますが、先述の通り、FTXでの取引額は株式などに比べると大きな額ではないので、金融危機のようなことにはならないと、筆者は思っています。
暗号資産のこれから
さて、では暗号資産は今後、どうなっていくのでしょうか? 将来性や投資の魅力はあるのでしょうか? しばらくは、暗号資産の価値も乱高下が続くと思われます。もっとも、ビットコインなどの暗号資産の価格は、株価などに比べると、もともと乱高下しやすい傾向にあるようですが。
ところで、暗号資産は電子データによる「お金」であるわけですが、今や、ビジネス空間を電子データで提供する動きもありますね。そうです、メタバースです。メタバース内での取引では、おそらく、暗号資産が用いられるのではないでしょうか? 国境や時間の概念がないメタバースという空間では、どこかの国の通貨だけを用いる、例えばドルだけを決済通貨として用いるのでは、リアルな空間と同じになってしまいそうですからね。
メタバースの発展とともに、暗号資産がメタバース内での決済通貨として市民権を得れば、やがて、その価値も徐々に平準化していきそうな気もします。だとすると、暗号資産は投資先として、逆に魅力がなくなるかもしれませんね。ドルや円などの法定通貨と同じような値動きになってしまうのではないでしょうか?
暗号資産で巨万の富を得た人もいたようですが、あの激しい値動きがあればこそ、だったのでしょう。メタバース内での決済通貨、つまり仮想現実内における仮想通貨、それこそが暗号資産の本来あるべき姿なのだと、筆者は考えます。