宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、若いうちから本当に貯金すべきなのか疑問に感じている相談者に対して、なぜお金を貯めた方がいいのか、今の社会情勢を踏まえながら説明します。

  • 終身雇用もなく年金も不安な現代は、今まで以上にお金の貯め方が問われる
  • 物価の高騰、税金の高騰という2つの「値上がり」に備える必要がある
  • お金を貯めるには「どこに預けるか」が大切だが、若い世代は「使う」ことも必要

おばあちゃんの時代は「大変だった」と言うけれど

【質問】
貯金はしとけよ! と祖母が会うたびにうるさいです。貯金があった方が良いのは何となくわかりますが、母に理由を聞いてもピンとこないし、両親を見ていてもそんなに大変にも思えないし、僕としては、今は好きなこともしていきたいのでお金も使いたいし、貯金の余裕はありません。ただ気になりますので、貯金が必要なわけを教えてくれれば助かります。

昔からのことわざに、「金は天下の回りもの」とあります。お金に対する考え方を言い表した表現の一つです。私は、お金がないと何も始まらない、だからお金が必要なんだと思っていましたが、少々意味合いが違うようです。要は、お金の使い道には決まりはなく、お金は常に人から人へ回って行き、今はお金が無くても、いつかは自分にも回ってくる。心配しなくても大丈夫だよ。という励ましのメッセージも含まれているようです。

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相談者は祖母から「お金を持っとかなければ何もできないよ」と言われています。回すお金が無ければ自分に戻ってこないことを、暗に示唆している言葉とも言えるのではないでしょうか。ただ、おばあちゃんが実体験として孫に伝えたかったのは、「今まで大変だったのよ」のひと言だったと思います。

おばあちゃんと孫
祖母の時代も「貯金」は大事だったが、当時と今とでは社会環境や経済の状況は大きく変わった

戦後間もない頃の日本は誰もが復興を祈り、「生きるために働く」が社会の基本にありました。男女平等など皆無に等しく、男性が屋台骨となり働き、女性は働かず家を守る時代でした。一人の稼ぎで生活を送るのが普通であったと思います。私の父もそうです。家を持つために働き、そして節約するしかなかったと記憶しています。家を持つことを目的にお金のプランニングをしている。しかし、一人の稼ぎでは到底キャッシュフローが作れるはずもなく、このようなやり方は今の時代では考えられません。

戦後の復興の時代を生きたおばあちゃんの言葉には、重みがあります。しかし、それは終身雇用が当たり前の生活であったからこそ成立していたのです。当然、年金制度の充実もあったのを忘れてはいけません。

2つの「値上がり」に注意が必要

今の日本を見てみると、物価の高騰(インフレ)に直面していますが、これは長い経済失速による物価の下落(デフレ)からようやく抜け出す、その始まりにすぎません。今のインフレは、国と日銀が無理やり続けてきた政策の結果とも言えるのですが、日本が経済成長を続けてきた時代から、これからは経済を維持していく「成熟期」を模索するシフトに、ようやく入り始めた結果とも思われます。

トラリピインタビュー

物価は、需要と供給のバランスで決まっていきます。景気が良く、人々の所得水準が上昇すれば、物を買おうとする意欲で需要が高まり、物の価格も上がってきます。所得も上がらないのに物の価格だけが上がっている今は、経済のバランスが崩れています。国を挙げての所得倍増計画も遅きに失したしか思えません。

私は今、給与が増えていない今の状態で、貯蓄などお金に対する考え方の変化や、今の若者がお金を貯める際に立ちはだかる壁について、2つの「値上がり」を考えなければならないと思っています。

① 物価の高騰

まずは物価の高騰(インフレ)です。これが当面の課題です。新日銀総裁はどうやら金融緩和を続けていくようですが、長期金利操作(イールドカーブコントロール)も続けていくしかないのでしょうか。銀行間で取引される国債は、金利上昇による債券価格の下落で損失が拡大傾向にあり、銀行経営に悪影響を与えています。さらには長期国債の償還日に伴う金利など、日銀にとっては難題が山積みです。

どちらにしても、日本も金利が上がって日米金利差が縮小しない限り、為替は円安が続くと考えています。もう一度言います。物価の高騰はまだ始まったばかりです。

円安とインフレはこの先も続くのか?

② 税金の高騰

二つ目は税金の高騰です。税金に関してはどうすることもできません。黙って払い続けていくしかありません。働けば所得税、市県民税、持てば固定資産税、使えば消費税、生きながら贈与税、亡くなれば相続税、最近では空き家にまで税金と様々な税のオンパレードです。それも、財務省はこれからの税収不足は避けられない事実と認識しているからです。

税収不足の最大の原因は人口減少なのですが、特に働き盛りの減少が一番の問題です。さらにここにきて、他国の脅威などから防衛費の増額という話が進んできました。消費増税はあるでしょう。財政難は明白、高齢化社会の年金増も絡むことから、税金高騰もこれからです。

このことから、相談者のような若い世代は特に、貯金は必須です。おばあちゃんの時代と違って消費者物価が上昇、人口も減少に転じている現在では、何が起きるかわかりません。不測の事態に備える必要があります。

これからの時代、どう「貯金」をすべきか?

貯金が必要といっても、どこに預ければいいのか?」が大切です。預ける先は銀行だけでなく、証券会社、保険会社などもあります。株や投資信託などいろいろな商品があり、つみたてNISAやiDeCoのような制度もあります。

今こそリスクと向き合う時。投資先をどう選ぶ?

相談者が両親の様子を見て、さほど大変さが伝わっていない理由は、時代背景の違いしかありません。両親が若い頃は、何も考えず貯金するだけで普通に生活できていたのです。しかし、物価と税金の2つの「値上がり」を、両親の世代は経験したことがありません。これからは、お金を貯めるために考え、学び、行動する。これができなければ、この先も「値上がり」が続く社会で苦しむことになります。

しかし、若い世代が貯めることだけに走るのは得策とは思えません。楽しむことも必要ですし、程よく使ってお金を回すのも勉強の一つになります。楽しむために使ったお金がいつか回り回って、自分に戻ってくるのを夢見てもいいじゃないですか。

30代から無理せず「程よいお金」を貯めるには

近年では国民の金融リテラシー(情報を読み解き、活用する能力)向上を目的に小・中・高校などで金融教育に力を入れる政策を行っていますが、教育現場での知識と従業時間の不足を理由に停滞しているとも聞いています。いまだに学歴社会にこだわる教育方針に、「お金の教育」がおろそかになってしまうことが心配でなりません。私の周りでも、学校で金融教育を行っているとは聞かないので、地方ほど停滞は進むでしょう。これからの時代、生きるために何が重要なのか。文部科学省も本腰を入れていくべきです。

資産運用に必要な「貯める力」と金融リテラシー

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