テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第110回は、「炎の体育会TV」「ウイニング競馬」「クイズ!ドレミファドン」などを担当し、日本放送作家協会の副理事長でもある村上卓史さん。

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四十にして惑う……競馬場で

村上卓史さんの写真村上卓史
放送作家
日本放送作家協会副理事

「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で放送作家デビューしてから20年の間に多くのバラエティー番組やスポーツ中継のお仕事に携わらせていただきましたが、競馬関連の番組には長年ノータッチでした。『趣味を仕事にすると楽しめなくなるのでは?』という危惧からです。
ただ笑って観ていたテレビ番組を『この切り口があったか!? やられたなぁ……』「ええっ、ココはその編集じゃないでしょ?」とついついプロ目線でチェックするようになってしまった経緯もあります。よく「テレビを観るのもお仕事なんですよね? 羨ましいです!」と言われることがありますが、現実は一本観るだけで結構ヘトヘトになります。

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そんなこともあり、競馬番組とは無縁の生活のまま不惑の歳を迎えたのですが……当時、チーフ構成を務めていた「ジャンクSPORTS」のKプロデューサーが競馬班担当となり、オファーが舞い込んできました。披露宴の主賓だった恩人からのお声がけ、もう観念するしかありません。『これは競馬の神様からのお招きだ!』と勝手に思うことにして、40歳の春にフジテレビ競馬班の担当作家へ。まさか、そこから15年以上経ったいまも関わり続けることになるとは思いも寄りませんでした。

最初に担当した深夜の競馬情報番組「うまなで」は1年で終了したのですが、それを機に日曜日の中継番組「みんなのKEIBA」担当に。生放送のため、毎週のように競馬場内のスタジオで立ち合うようになります。ここでも「毎週、競馬場へ行けるんですよね? 最高じゃないですか!」と言われることがあったのですが、あくまでお仕事。これまではビール片手に馬券を買っている大人のアミューズメントパークでしたが、勤務中にそんなことはできません。

競馬のイメージ写真趣味の競馬を仕事にしたことで、競馬場は「ビール片手に馬券を買う大人のアミューズメントパーク」ではなくなった

生放送中にミスがないかを確認するため、レース中もスタジオ裏のモニターで終始チェックする日々。G1の時にファンファーレに合わせて手拍子したり、歓声を上げるなんてもってのほか。スポーツ中継のスタッフはたとえ歴史的瞬間が目の前に展開されていてもほとんどの場合、持ち場にあるモニターを通して静かに観ているのが現実なのです。

とはいえ、取材で騎手や調教師さんにお会いしたり、普段は入れないエリアに行けるといった役得はあります。また多くのファンを楽しませる番組作りに関われる喜びもあります。そんなこともあり、ふと気づけば競馬メディアに足を踏み入れてから15年以上たったいまもテレビ東京の土曜競馬中継「ウイニング競馬」をはじめ、多くの競馬番組のお手伝いをさせていただいています。

トラリピインタビュー

趣味をつきつめすぎた結果…

40歳で競馬番組の担当になった際、同時に始めたことがありました。それは『馬主になること』。番組リサーチャーのNさんから馬主になるためのノウハウを得て、なんとか条件をクリアして晴れて馬主に。詳細についてはJRAのHPなどで確認できるので割愛しますが、資格を得るためにこの時は我ながら驚くほど仕事に打ち込みました。

新番組を得るために企画書を山ほど出しましたし、どんなジャンルの特番であろうとも可能な限り参加させていただきました。この時の頑張りのおかげで馬主になれたといっても過言ではありません。最初のハードルこそ高いものの、あとは1頭所有していれば権利を失うことがないからです。

「1頭キープするだけでも大変でしょう?」と思われるかもしれませんが、実は1/10所有でも正式な馬主として認められます。よくニュースで“5億円ホース”などの報道があるため高いイメージのあるサラブレッドですが、300万円くらいで手に入られることがあります。また維持費として月に60万円ほどかかりますが、こちらも共有ならば出費を抑えられます。

さらに愛馬が走れば賞金や手当などもあり、それなりのリターンも。贅沢な趣味であることは間違いありませんが、30万円で馬代金を支払って多くとも月々6万円の支出で済むならば決して手の届かない異世界ではないのでしょうか。

村上氏と愛馬村上氏と愛馬のムーランブルー。写真は2020年の落札時の一枚

しかも、これは日本競馬の頂点であるJRAのお話。大井や高知などの地方競馬ではさらに半分の1/20の所有でOKなので、維持費もさらにリーズナブルに。馬主席にも入れますし、関係者とも親密になれます。私の場合、この「2刀流」のおかげで番組の取材がよりスムーズになるというメリットが生まれました。なかば流れるままに始めた馬主ライフですが、競馬というジャンルを極める大きなきっかけとなり、現在に至っています。異なる立場になることで、みえる景色や役割が違うことも学びました。

競馬場内のイメージ馬主になったことで関係者とも親密になれ、担当する番組の取材もよりスムーズにいくようになった

とはいえ、あくまで身の丈にあった範囲であることが重要。ちなみに私はいま愛馬の維持費の確保でヒーヒー言っていますので……もう少しだけお仕事させていただきます!?

次回は時乃真帆さんへ、バトンタッチ!

是非観てください!

ジャングルポケット斉藤さんの公式YouTube『ジャンポケ斉藤、ジャングルポケット産駒を買う』を担当しています!
競馬好きの皆様はもちろん初心者でも楽しめる内容です。興味ある方は是非!

ジャングルポケット斉藤さん

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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