世界のサステナブル投資をリードするBNPパリバ・アセットマネジメントは、多様な制度や枠組みの整備が進み大きく進展を見せる一方で、懐疑的な見方や逆風も指摘されるESG投資をどう見ているのでしょうか? サステナビリティを長期のメガトレンドと捉えたうえで、将来に向けた課題と、今後進むべき道を提示します。
(本記事は、BNPパリバ・アセットマネジメントと協力し、全3回の記事として構成したものです)
3 規制・監視の後押し
EUなどで制定されたサステナビリティ関連の規制
サステナブル投資*1の急速な成長により、金融業界、特に運用会社が進化し続けるための適切な規制の枠組みの必要性が高まっています。欧州を中心に、世界各国の規制当局は、サステナブル投資に関連する基準や情報開示をどのように定義、測定し、また監督、実施するかについて検討を続けています。SFDR*2、第2次金融商品市場指令(MiFID II)*3、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)*4、EUタクソノミー*5といった各種規制によって、データアクセスは向上し、共通の測定ツールが定義されつつあります。
こうした各種規制に横断的に対応することは容易ではないとの見方もありますが、各種規制がESG統合のさらなる調和に向けて正しい方向に進んでいることは、明るい材料といえます。
また、EUでは2023年1月1日よりSFDRのレベル2がスタートしました。ポートフォリオレベルでのサステナブル投資の比率やEUタクソノミーの準拠の度合いについて、より厳しい基準が導入されましたが、2022年末にかけてSFDRの商品分類の明確性の欠如や混乱が生じており、実際に商品分類の変更が行われたケースも散見されました。
*1 サステナブル投資……企業のサステナビリティに対する貢献を判断基準の1つとして投資を行う手法。
*2 サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)……金融商品に関するサステナビリティ関連情報の開示を求める規則。資産運用会社(投信会社)や保険会社、金融機関などが対象となっています。EUでは2021年に運用が始まりました。
*3 第2次金融商品市場指令(MiFID II)……EUで2018年1月に施行された、金融市場に対する包括的な規制。2022年8月に改訂が行われ、金融商品の販売会社などは商品を販売する際に、顧客の「サステナビリティに関する選好」を考慮するよう義務づけられました。
*4 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)……EUで2023年1月に発効した、サステナビリティに関する開示規制。EUの大企業や上場企業などを対象に、詳細な情報開示の義務を科すものです。
*5 EUタクソノミー……持続可能な経済活動に関してEUが定めた基準。6つの環境目的(①気候変動の緩和、②気候変動への適応、③循環型経済への移行、④水資源と海洋資源の持続可能な利用と保護、⑤汚染の防止と制御、⑥生物多様性と生態系の保護と回復)への貢献を企業などに求めるものです。
サステナブル投資への資金流入と、気候変動に関する訴訟の増加
こうした分類の見直しなどで、ESG投資の特色が最も強いとされるSFDR第9条ファンドは本数が減少しましたが、図1の期間において資金流入は継続しています。こうしたサステナビリティ関連の規制強化によって、一時的な混乱はあるにせよ、サステナブル投資戦略がもたらす投資成果がより綿密に精査されるとともに、サステナブルな経済の実現に向けて必要とされる投資が行われることが期待されます。
これに加えて、環境活動団体や個人は、政府や企業に気候変動への取り組みを強化するよう求めるため、ますます法的措置を利用するようになっています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)によると、世界中で提起された気候変動に関する訴訟の数は、2015年から2倍以上に増加しました*6。
さらに、先住民族、水没・浸水などに直面する小島嶼国、若者など気候変動の影響を受けやすいグループは、2023年の気候訴訟においてより積極的な役割を果たし、サステナブル投資を後押しする可能性があります。
*6 Grantham Research Institute on Climate Change and the Environment(LSE),“Global Trends in Climate Change Litigation: 2022 Snapshot,” 30 June 2022
4 誰もがネットゼロへ
エネルギー転換に取り組むには莫大な追加投資が必要
米コンサルティング大手マッキンゼーの調査では、全世界がエネルギー転換の課題に取り組むためには、現在から2050年までの間に毎年3兆3000億米ドルから3兆5000億米ドルの追加投資を行う必要があるとしています*7。これは、世界の企業利益の半分に相当するような大きな数字ですが、重要な経済的機会をもたらすとともに、気候変動による壊滅的な影響を緩和するために不可欠な投資と考えられます。
こうした必要とされる資本再配分の規模を反映するかのように、英国のグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、2050年までの炭素排出ネットゼロ*8を達成するための国家レベルおよび投資家レベルのコミットメントが強化されました。
2022年11月時点で、約550の金融機関が「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)*9」に参加しており、その運用・助言残高は150兆米ドルに達しています*10。
ネットゼロに向けた金融機関や資産運用会社の役割
当社も、2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにするという目標を支援することにコミットするグローバルな資産運用会社のグループ、ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアチブ(NZAM)に参加し、2022年11月にネットゼロ達成に向けたロードマップを公表しました*11。
ネットゼロを実現させるには、金融セクターが実体経済に資金を供給し、投資を行う方法を根本的に変えなければなりません。そして、排出量取引*12に価格を設定し、より持続可能で包摂的な経済への道を開くため、こうした共同イニシアチブなどを通じて必要な政策変更を提唱していくことが必要との認識を深めています。
*7 McKinsey & Company,“The Net-Zero Transition: What It Would Cost, What It Could Bring,” January 2022
*8 ネットゼロ……CO2などの温室効果ガスの排出量から、大気中から吸収・除去される量を差し引いた合計がゼロ以下になるのを目指すこと。2015年に策定されたパリ協定では、2050年までのネットゼロを目標としています。
*9 GFANZ……2021年に設立された、ネットゼロを目指す金融機関が参加する世界最大の連合体。2023年5月には日本支部が設立されました。
*10 Glasgow Financial Alliance for Net Zero,“About Us”
*11 BNPパリバ・アセットマネジメント「気候変動対応にコミット:ネットゼロ・ロードマップ(全体版)」
*12 排出量取引……カーボンプライシングの一形態で、温室効果ガスの「排出量」をひとつの金融商品と見立てて、企業や国が「温室効果ガスを排出できる権利」を相互に売買すること。