テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第154回は、脚本家、小説家、演出家、俳優、アイドル(吉本坂46)とマルチに活躍する、旺季志ずかさん。

あの頃を思うと、せつなくなる

旺季志ずかさんの写真旺季志ずか
脚本家、小説家、演出家、俳優、アイドル(吉本坂46)
日本放送作家協会会員

「お金」は、私にとって人生を通して大きなテーマでした。
幼い時に父が余命宣告を受け、我が家の大黒柱は教師だった母になりました。
田舎では殊更、我が家が貧乏という認識はなかったけれど、東京の大学に通い始めた時が、私が「お金」と向き合った初めての体験でした。

最初に通っていた私立大学はセレブの通う学校として有名で、多くの学生がブランドのバッグを持つのは当たり前。住んでるマンションは素敵なオートロック。
私はといえば、田舎の母が送ってくれる月に10万円の仕送りでやりくりしていました。4畳半一間の風呂なしアパート。恥ずかしくて、友達を家に招くこともできなかった――。
丸井のローンで小さなグッチのバッグを買いました。
今から思えば、人目ばかり気にして、見栄を張っていたなぁと思います。そこには田舎者のコンプレックスもあったかなぁ。

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大学卒業後も、正社員にならずに役者を目指した日々は、電車賃もなくて下北沢から板橋まで歩いて帰るほどの赤貧でした。
あの頃のことを思うと、せつなくなる
頑張ることと、お金を稼げることは関係がないんだなぁって思っていました。

そんな私が脚本家になり、経営のことなど何一つ知らないのに、多くのファンの方の応援で、会社がうまくいき、億稼ぐ起業女子に使われる「億女」にもなりました。
「赤貧」と「億女」お金の両極端を体験したのです。

脚本家人生の夢を叶えた舞台

2023年、去年の秋、ミュージカル『The STAR 悪魔と契約した男』を総指揮、脚本、演出をして創りました。
資金も自分で用意しました。
ミュージカルは制作にお金がかかる。だから入場料の売り上げ内でつくろうとすると、やりたいことができないと思いました。
私の脚本家人生の集大成だと思っていたので、できるだけ制限をかけずに創りたかったのです。

主演の原田優一さんを舞台で観た時、普段はコメディックな3枚目の役が多い俳優さんですが、この人にせつないラブストーリーを演らせてみたいとワクワクしました。
それで彼に台本を当て書きして、出演交渉に挑みました。

トラリピインタビュー

他のキャストに関しても、私の演出は、「演じる」のではなく、「舞台上で生きる」ことをモットーにしているので、心を動かす演技をしてくれる役者にこだわりました。
スタッフも、ニューヨークで活躍の作曲家KO TANAKAさんをはじめ、全て、私が尊敬する人たちを集めました。
生バンドでやりたい、その夢も叶えました。

The STAR 悪魔と契約した男のイメージ

結局、総制作費に4700万使いました。
2週間弱の興行だったのですが、コロナの影響も少なくなく、3200人の方に動員いただきましたが、2500万の赤字を出しました。
家を抵当にお金を借りて作ったというと、みんな、びっくりしますが、稽古中思ったのです。
この舞台をたった一人、自分のためだけに作ったとして、1億かかってもやるだろうか?
答えはイエスでした。それほどまでに、この舞台が私に与えてくれたものはとても大きかったのです。

1ヶ月の稽古期間、私はこれが終わったら死ぬに違いないという確信を持っていました。
毎日毎日やりきっている感覚があって、この人生でやるべきことは終わったというなんともいえない不思議な気持ちになったのです。
結局、公演が終わっても、こうやって生きていますが、あんな感覚で日々を生きていきたいと思いました。今まで体験したこともないほどの極上の創作の喜びを感じた日々でした。
この体験が大きく私の人生を変えました。
これからの人生は、本物を作っていくことに捧げよう
そう心に決めました。
その「本物」とは、私の心、私の感覚に従ったという意味での「本物」。

舞台製作のチャレンジは、テレビドラマの脚本家として長らく生きてきた私が、舞台の演出に挑戦する大きなチャレンジでもありました。
と同時に私の中の「お金」への制限へのチャレンジでもありました。
お金がなくなることが怖い。あんな赤貧を経験したくない、そのトラウマで、何度も何度も立ち止まりそうになりました。

予算をセーブしてやりたいことを縮小しそうにもなりました。
だけど、やり遂げた今、もちろん借金は作ったけれど、そんなものを吹き飛ばすくらいのドでかい何かをもらったのです。

これはきっと、お金では買えない、言葉で表現できない、何か、とてもとても大切な、宇宙にたった一つの宝物。
命が尽きる日まで、私を導いてくれるような「モノ」。
クリエイターになって本当によかったと思えるものをやっと創ることができました。

「赤貧」も「億女」の次元も超えたその先に出られた気がします。

次回は奥野卓司さんへ、バトンタッチ!

ぜひ、ご覧ください!

2月にDVDが出来上がります。
ぜひご覧になってください。
ソウルメイトの出逢いが縦軸のラブストーリーだったのですが、観た人から言われます。
全ての執着が手放れる「覚醒ミュージカル」だと……。
カーテンコールの反応が薄いと思って心配していたら、結末が衝撃すぎて椅子から立ち上がれなくなったそうです。
劇場を出た後、真っ直ぐ帰れなくて、ぐるぐる放浪した人も続出しました(笑)。
旺季がホームレスにならないように応援くださったら嬉しいです^^

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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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