「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、NISAを活用した資産運用において、株価が下がり続けている株式をどのように扱うべきかを考えます。

  • 下がり続ける株価の損切りを検討する際には、ライフイベントと手元現金を確認
  • NISAでは、確定した損失に対して損益通算ができないことにも注意が必要
  • 業績が問題なく配当利回りが期待できれば、株価が下がっても持ち続ける理由になる

現在のNISAの制度が始まって、間もなく1年が経とうとしています。皆さん、パフォーマンスの方はいかがでしょうか? 「予想通り」や「順調」という方は良かったですね。

さて、中には、「私が買ったことがきっかけになったのか?」と疑いたくなるように、「買った途端に下がり始めた」というご経験をされた方もいらっしゃるかも知れません。

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さて、どうしますか?

「まだだ、まだ終わらんよ!」と、その昔、ロボットアニメで叫んでいるシーンがありましたね。終わるのか、終わらないのか、損切りをする前に考えてみましょう。

まず確認するべきはライフイベントと手元現金

まず確認するべきは、半年~1年半の間の、ご自身とご家族のライフプランやライフイベント、そして手元現金、それに今後の収入の見立てです。

ライフイベントと今後の収入の見立て

ご家族のライフイベントには、どのようなものがあるでしょうか? お子様のご進学やご結婚の予定があるという方。あるいは銀婚式の代わりに海外旅行に行く、とか。

ご自身のライフイベント(キャリア)もありますね。ご自身が役職定年を控えているということですと、今後の収入の減少が見込まれます。また、「退職を予定している」という方。退職後に受け取るのが「住民税の案内」ですね。天引きする給料が無くなってしまいますので、「天引きしきれなかった住民税をまとめてお支払いください」という案内が届くことがあります。

手元現金

手元現金とは、普通預金や定期預金の残高のことです。これらのライフイベントに応えられるだけの残高はありますか? もし残高に不足が見込まれるのでしたら、「株価が下がり続ける株式」の売却、つまり損切りの検討です。そして、くれぐれも避けたいのがカードローンなどの「借金」です。

結婚式
お子様の結婚式などのライフイベントに備える資金がない場合は、株式の損切りを検討することになる

NISAで投資……損切りの留意点

持っている株式を売却してしまえば、当たり前のことですが、以後は、配当金は受け取れず、株主優待ももらえません。また、株価が反転し、上がることになっても、もう関係ありません。

そして、NISAの場合はもう一つ、気に留めておかなくてはならないことがあります。NISA口座で保有していた株式を売却し、損失が出ても、その損失額は損益通算することができません。

損益通算とは?

そもそも損益通算とは何でしょうか? 例えば、(NISA口座ではない)特定口座などの課税口座で株式を持っていたとします。その株式から受け取った配当金が10万円だったとします。この100,000円には、20.315%の税金(所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて)が課税されます。課税額は20,315円となるため、配当金の手取りは79,685円ということになります。

もし、配当金を受け取った年と同じ年に、課税口座で保有していた株式に売却損50,000円が出たとします。配当金の100,000円(プラス)と、株式の売却損(マイナス)が相殺され、配当金の課税額20,315円に対し、10,157円が還付されます。先述の例では50,000円の売却損でしたが、損益通算による税金の還付で、実質的な損失は39,843円ということになります。

ちなみに課税口座は3種類ありますが、「特定口座(源泉徴収あり)」ですと、損益通算の手続きは不要です。証券会社の方で計算を行い、翌年早々に税金の還付(先述の例だと10,157円)を受け取ることができます。しかし「特定口座(源泉徴収なし)」と「一般口座」の場合には、確定申告が必要です。確定申告をしなければ損益通算できず、税金の還付はありません。(損失分については、翌年に繰越控除ができる場合があります)

これがNISAですと、損切りをして売却損が確定しても、損益通算の機会はありません。ですので、先述の例ですと、売却損50,000円を、そのまま被ることになってしまうのです。

下がり続ける株価……どうする?

株価が下がり続ける株式を持ち続けることを検討する場合、どのように検討すれば良いのでしょうか?

まずは業績の確認です。

業績などは?

まずは、下がり続ける株式そのものを検証します。決算などで、「悪い業績」か否かです。業績が著しく悪化したのが一時的なものでしたら、時期が過ぎるのを待てば良いのです。例えばそれが2020年の新型コロナ感染症の時でした。

さて、以下に挙げる2社の株式は、株価は下がり続けてきましたが、実はどちらも「好業績」です。

【図表1】ある鉄道系の会社の株価
ある鉄道系の会社の株価
【図表2】ある商社系の会社の株価
ある商社系の会社の株価

鉄道系の株式の方は、「新型コロナ感染症の影響を脱した」模様です。今年8月6日時点で、年間目標に対する第1四半期の業績進捗度は31.6%です。第一四半期ですから、25%なら目標をクリアしていますので、31.6%というと絶好調ですね。

一方で、商社系の株式の方はというと、「最高益」という記事がありました。

気になるニュースは?

実は、上記グラフの商社系の会社には、気になるニュースがありました。この商社系の会社は、実は自動車関連が強みです(と言うと、「ああ、あそこ」と分かってしまいそうですね)。来年1月20日に就任するアメリカの大統領による「関税」のニュースの影響を受けて、「業績が微妙なものになるかも?」という噂があっても不思議ではありません。その噂によって、持っていた(上記グラフの)商社系の株式の売却を検討する人が多く、株価が伸び悩んでいる可能性もあるかもしれません。

しかし、トヨタはアメリカにも子会社があり、多数の工場があります。そして、アメリカでの販売台数は2021年にGMを抜いて1位になっています。ですので、「関税」の影響も、実はそれほど大きくないのではと踏んでいます……これは、実際に始まってみないと分からないことでもありますが。

ニュース
たとえ会社の業績が良くても、会社の経営に影響を与えうるニュースが原因で株価が下がってしまうことがある

下がり続ける株式を持ち続けて、良いことがあるのか?

配当金がもらえるなら

もし、配当金をもらえる会社の株式であれば、これからも配当金を受け取れる可能性があります。特に上記で挙げた2社は業績が良いですから。そして、株主優待のある会社なら、株主優待を受け取れます。

ちなみに、先述の鉄道系の会社の方は予想配当利回りが1.93%、商社系の会社の予想配当利回りは何と3.76%です。

配当利回りは、株価が下落すると上がります。ですので、今の株価ではなく、自分が買った時の株価を基に、配当利回りをシミュレーションすると良いでしょう。日本銀行は金利を上げる方向に舵を切りましたが、1%を超える預金金利はまだ当分ないでしょう。預金金利と比べて、配当利回りの方が高ければ、その株式を持ち続ける理由の1つになりますね。

もし、業績などを見ても株価が上がる見込みがなく、預金金利よりも配当利回りの方が低ければ……いかがでしょう? リスクを持ち続ける必要があるか否か、検討した方が良いかもしれません。

なぜ、株価が下がり続けているのか?

先述の通り、鉄道系の会社も商社系の会社も、「会社が危険な状態」ではないことが確認できました。では、どちらも、なぜ株価が伸びないのでしょうか?

理由の1つにROEが考えられます。ROEとは「会社が資本を効率よく活かし、利益をあげているかを測る数値」のことで、高いほど効率よく利益を上げているとみなされます。ROEは自己資本利益率や株主資本利益率ともいわれ、特に外国人投資家が重視しているようです。

先述の例に挙げた鉄道系の会社の方はROEは8%、同じく商社系の会社のROEは15%と出ていました。筆者は個人的に、日本の上場企業の標準的なROEは「8~9%」くらいかなと思っています。ちなみに「日本 roe」と検索すると「8~10%」と出ました。また、「ROEランキング上位200位」を見ると、200位の会社でも26.23%です。ですので、ROEが「8%」や「15%」では、少なくとも株価の「上昇要因」にはならないと思います。

まとめに代えて

鉄道系の会社の方は、11月上旬に株価が反転し、株価が大きく伸びました。この会社の株式を10月上旬までに売ってしまった人は後悔しているかもしれませんね。こうした現象も株式投資のリスクの1つなのです。株式の損益を計算する場合、売却損益のみならず、受け取った配当金まで含めて計算した方が良いでしょう。また「これからも持ち続ける株式」として検討する場合にも、今後、受け取ることができるであろう配当金の額についても視野に入れておきたいです。

あわせて、その会社が設立されて何年経っているかも調べておくと良いかも知れません。「○周年記念特別配当金」の可能性があるからです。もし、「記念特別配当金」の予告がなされれば、それをきっかけに株価が上がる可能性もあります。

NISAは損益通算ができません。ですのでNISAで株式投資をするときは「損切りはしない」覚悟で臨む必要があるでしょう。別の稿でも述べていますが、売却益を狙うよりも、「毎年、配当金を受け取るのが楽しみ」という考え方の元にNISAの利用を検討した方が良いでしょう。

NISAの成長投資枠は「配当金・分配金」狙いで

間もなく2025年です。NISAの新しい非課税枠ができますね。

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