新型コロナウイルス感染症の流行などで世界経済が動揺する中で、ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)が注目を集めています。本連載では、仮想通貨の仕組みや特徴はもちろん、資産運用での活用法にいたるまで、わかりやすくお伝えします。第4回は、他の資産と比べて値動きが激しい傾向がある仮想通貨を、個人の資産運用で活用する可能性を探ります。

【監修】
FXcoin 代表取締役社長 大西 知生

FXcoin 大西知生氏

慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行へ入行。ドレスナー銀行、JPモルガン銀行、モルガン・スタンレー証券、ドイツ銀行グループを経て、2018年に仮想通貨取引所のFXcoinを設立。2017年まで東京外国為替市場委員会副議長、同Code of Conduct小委員会委員長に従事。『J-MONEY』誌において2008年、2011~13年、2017年にテクニカル分析ディーラー・ランキング第1位を獲得する。経済学博士。

Lesson 3「低コストで送金、保険に活用……仮想通貨の使い道」

ビットコインは1年あまりで価格が14倍に上昇

ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)は、よく「値動きが激しい」というイメージで語られます。

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日本時間の2020年11月4日に、アメリカの大統領選挙の開票が行われました。アメリカは世界最大の経済大国であり、その大統領が誰になるかで株価や為替が大きく動くことがあります。実際に、大統領選の翌週から日米の株価は上昇を始めたのですが、株価の上昇をはるかにしのぐ値上がりを見せたのがビットコインでした(図表1)。

【図表1】ビットコイン/円の推移(2020年1月1日~12月31日)
ビットコイン/円の推移
出所:市場データよりMonJa作成

上記のグラフは2020年末までの数値ですが、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた3月には約50万円まで下がったこともあったので、2020年の年末時点でビットコイン/円の価格は6倍近く上昇したことになります。

2021年に入ると、ビットコイン価格の上昇はさらに進みました(図表2)。

【図表2】ビットコイン/円の推移(2020年1月1日~2021年5月31日)
ビットコイン/円の推移
出所:市場データよりMonJa作成

4月が価格のピークで、一時1BTC=700万円を超えたこともあったので、2020年3月の底値と比較すると、ビットコイン/円は1年あまりで14倍もの値上がりとなりました。しかし、4月後半から5月にかけてビットコイン価格は急落し、同年6月上旬時点においても価格は下落傾向にあります。

株価や金価格よりはるかに値動きが大きいビットコイン

ビットコインの値動きを他の資産と比較すると、2020年11月の米大統領選挙の直後には、ビットコインの値上がりが際立っていました(図表3)。民主党のバイデン氏が勝利を確実にしたことも影響したのか、同年10月1日からの6週間で株価は1割近く値上がりしたのですが、ビットコインはほぼ5割の値上がりです。

【図表3】ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
(2020年10月1日~11月11日)
ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
2020年10月1日時点の価格を100として指数化
出所:市場データよりMonJa作成

2020年1月から11月上旬にかけてのビットコインの値動きを他の資産と比較してみると、上にも下にも大きく動いていることがわかります(図表4)。価格が上がるときは、今回の米大統領選の直後のように大きく上がるのですが、下がるときもまた急で、新型コロナウイルスが流行した2月から3月にかけては、わずか1カ月で半値以下に落ち込んだこともありました。

【図表4】ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
(2020年1月1日~11月11日)
ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
2020年1月1日時点の価格を100として指数化
出所:市場データよりMonJa作成

2021年に入ると、ビットコインの値動きの大きさはより顕著になりました(図表5)。日経平均株価や金先物価格の動きは今のところ2020年より小さく、年初からそれぞれ10%程度の変動にとどまっているのですが、ビットコイン/円は3月から4月にかけて、年初と比較して2倍を超える価格となりました。5月以降のビットコインの下落に合わせて、低迷していた金先物価格が上昇に転じたのは興味深い現象かもしれません。

【図表5】ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
(2021年1月1日~5月31日)
ビットコイン/円とその他の資産の値動きの比較
2021年1月1日時点の価格を100として指数化
出所:市場データよりMonJa作成

この値動きの大きさを見て、「ビットコインには怖いから投資したくない」と思う気持ちもわかります。でも、ビットコインにせよ株式にせよ、金融商品の「値動き」は、本当に怖がるべきものなのでしょうか?

著名な投資家がインフレ対策で仮想通貨を保有

「値動きが大きくて怖い」というイメージで語られがちなビットコインを、世界の名だたる投資家が資産に組み入れる動きが加速しています。

2020年春には、世界屈指の規模を誇るヘッジファンド(いかなる市場環境でも収益の獲得を目指して資産運用を行うファンド)のルネッサンス・テクノロジーズが、自社で運用するファンドにビットコインを組み入れることを示唆する報道がありました。同じく著名なヘッジファンドの投資家であるポール・チューダー・ジョーンズ氏は、自らの資産にビットコインを数%程度組み入れていることを明らかにしました。

ジョーンズ氏は、「インフレヘッジ」の目的でビットコインを保有しているといいます。現在、新型コロナウイルスへの対策として世界中で金融緩和が行われていることにより、米ドルや日本円などの通貨の価値が下がり、インフレが発生する可能性が指摘されています。インフレのリスクに備えて、中央銀行による金融政策の影響を直接受けないビットコインを持つ、という考え方です。

前回の記事で、仮想通貨が送金などの実用的な手段で使われる機会が増えていることを書きました。これらの実需に加えて、世界の著名な投資家が仮想通貨の売買を行うようになったことは、仮想通貨のイメージが「怪しい投機の手段」ではなく、「有効な資産運用の手段」へと変わってきたことを示しているように思います。

ビットコインと金
ビットコインは「デジタルゴールド」とも呼ばれることもあり、金(ゴールド)と並ぶ「インフレに強い資産」と認識されつつある

仮想通貨を個人の資産運用に活用する

ビットコイン/円の交換レートが、仮にドル/円の為替レートより10倍激しく動くとするならば、「ビットコインの資金効率は米ドルの10倍」とみなすことができます。ドル/円を10万円分持つのと同じ効果が、ビットコインなら1万円買うだけで得られる。そんな考え方も成り立ちます。

ビットコインもうまく活用すれば、私たちの資産運用がより効率的なものになるかもしれません。

ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格は、どういった要因で動くのでしょうか。これは株価や為替と同じように、さまざまな要因がからみ合っているので、100%言い当てるのは難しいものです。それでも、大きな値動きが発生したときの市場の背景をていねいに読み解くことで、今後に向けて何らかの傾向がつかめるかもしれません。アナリストが配信するレポートや動画にも注目してみましょう。

最終回となる次回は、仮想通貨(暗号資産)の買い方や取引所の選び方について考えたいと思います。

大西知生氏大西さんのひとこと
FXcoinは、XRPを使ったスワップ取引に向けての実証実験を、SBIグループや住友商事とともに進めています。米ドルなどのリアルな通貨と同じように、仮想通貨(暗号資産)を取引する手段が多様になれば、事業会社や投資家にとって仮想通貨がより扱いやすくなり、価格の安定化につながることが期待できます。
「値動きが激しくて怖い」というイメージで語られがちな仮想通貨を、皆さまにとってより身近に、より使いやすいものにしていきたいと考えています。

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