テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第12回は放送作家の寺坂直毅さん。
趣味は「○○○○めぐり」
中学生の頃、深夜のAMラジオへのハガキ投稿に明け暮れ、18歳で放送の専門学校に通い、20歳で制作会社のADになりました。数々のかけがえのないご縁があり、24歳ぐらいから放送作家の仕事をさせていただいています。お金への執着はそんなになく、仕事の達成感に喜びを感じながらここまで来たように思います。
現在40歳で、パートナーナシ・持ち家ナシ・車ナシで、一見拘りがないような生活ですが、「趣味」にお金を使って生きてきました。その趣味は「デパートめぐり」です。
宮崎県宮崎市の生まれで、子供の頃、実家の3軒隣がデパートでした。幼稚園や学校が終わって行く遊び場が、公園ではなくデパートだったのです。宮崎市内のデパートを愛していると、日本中のデパートを巡りたくなり、北海道から沖縄まで、全国250店ほどのデパートに行きました。
今でも1日丸々時間が出来たら、新規オープンするデパートへ。館内を上から下まで見て、その特徴を探すのです。デパートといっても、ただ物を買うだけではなく、そのデパートならではの文化、歴史を探るのが醍醐味です。
「鹿児島県民は、日曜日に山形屋デパートの大食堂で焼きそばを食べるのが楽しみ」とか「熊本県民は、子供が小学校へ通い始める時、鶴屋デパートで、“光るカメさんマーク”がついたランドセルを購入する」「岩手県花巻市民は、マルカンデパートの大食堂で、高さ25センチに近い10段のソフトクリームを割りばしで器用に食べて、クリームがポトポトと零れそうになると、お冷のコップを被せ、上下逆にして、コーンをとって食べだす」など、その土地の文化を知る事が出来るのです。
デパートとテレビには共通点がある
そして、毎週録画して楽しみにしている「秘密のケンミンSHOW極」でそのデパートのネタが紹介されているのを見て、「あぁ、僕は前から知っていたよ!」と、一人優越感に浸りニヤニヤし、テレビに向かって独り言をつぶやくのです。
この趣味でお金を使うのは、交通費と宿泊費はもちろん。もう1つ、そのデパートで、少しお高めなパンツと靴下を購入することにしています。そのデパートで買ったパンツをはき、肌身離さず記憶にとどめておくのです。ちなみに、今私が履いているのは、茨城・水戸市の京成百貨店で買ったパンツです。ちなみにこのお店は、デパ地下の、納豆の種類が豊富なんですよ。
コロナ禍となり、デパート業界はピンチです。それ以前から、郊外型ショッピングセンターの進化で、老舗百貨店は続々閉店。全都道府県に必ず1店はデパートがあったのですが、山形県、徳島県から消えてしまいました。
デパートとテレビには共通点があると思っています。昔の話になりますが、対象はファミリー。そして、夢が詰まった箱のようなもの。しかし今、デパートは、若者向け、お年を召した人向けのどちらかに特化。これも同じ傾向だと思います。しかし、伝統に胡坐をかかず、新しい事を模索する姿にも通ずるものがあるのです。
私はこれからもデパートをめぐり、文化を感じ、何かを探します。そして新しい試みをするデパートを心から応援したいと思うのです。
次回は脚本家のあべ美佳さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。