テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 連載第13回はNHKよるドラ『いいね!光源氏くん』などでおなじみの脚本家、あべ美佳さん。

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おカネはズレを知る物差し

あべ美佳さんの写真あべ美佳
脚本家、日本放送作家協会会員

初めてドラマがオンエアされたとき、それがコンクール受賞作だったこともあり、地元でちょっとした騒ぎになった。疎遠になっていた人からもたくさん連絡を頂いた。そんなある日のこと。「おぉ~、美佳~。お前は俺の自慢の生徒だよ。そこでひとつ頼みがあるんだ。山形に帰ってきて講演会をやってもらえないだろうか?」

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高校のときの担任・K先生だった。なんでも引退した教師たちの会というのがあり、定期的に勉強会(という名の宴会)があるそうで、その年はK先生が幹事だという。メンバーの中から私の話を聞きたいというリクエストがあったそうで、K先生は「おぉ~、俺に任せろ~」となったらしい。光栄なお話だが、問題はここから。

交通費も日当も払えないんだ~。なんせ俺たちは、定年退職した貧乏人の集まりだからな~。そこは了承してくれな~」

困った。非常に困った。
「ありがとうございます~。光栄なお話ですけど~、いやぁ、アハハハ……」。

笑って時間を稼ぎながら脳みそをフル回転させる。山形まで往復の交通費2万円ちょっと。お土産なんかも買っていかなきゃいけないし、洋服だってジーパンってわけにはいかないだろう。……どうしよう。おカネが、無い! 

さて、何と言って断ろうか。カドが立たずに断れる言い訳は……スケジュール? いやいや、全部お前に合わせるって言ってるしな。……体調が悪い? いやいや、そんなウソついたらホントに具合悪くなりそうだし。

……っていうか定年退職した貧乏人の集まりだと?? まとまった退職金もらって、毎月けっこうな年金ももらって、悠々自適の元教師たちが、駆け出しの脚本家相手によくもそんなことが言えるな!? と、考えているうちにだんだん腹が立ってきて──。

それで、どうしたかって?
正直に話しましたよ。「先生、わたし、おカネが無いんです」と。
K先生はまったくピンときていらっしゃらない様子で「そうか、俺の頼みが聞けないか。残念だ。皆になんて話そうかな……」と悲しそうだった。

つーか、悲しいのはこっちだよ。K先生はいったい、脚本家をなんだと思ってるんだろう? 金銭感覚、ズレてるよ。そこで、ハッとした。……ズレてるのは、こっちのほうなのか??

お金がないイメージ画像
「先生、わたし、おカネが無いんです」と正直に話した。

世の中知らないことだらけ

脚本家になって、色んな職業を取材させてもらえるようになって、気づいたこと。それは、“世の中知らないことだらけ”ということだ。当たり前のことだが、意外に皆、思い至っていないのでは? とくにおカネに関しては、謎だらけだと私は感じる。

ご飯茶碗一杯分のお米の値段が約24円だということ、それが27円になったら米農家は田んぼ一本で食べていけるということなんて、取材しなければ知らなかった。ビニールハウス一棟の値段、除雪車の運転手の日当、テレビの再現VTRに出演している俳優のギャラ、戸建て購入の際にコンセントの2口電源を増設したときの追加料、漫画原作の印税率、AV1本の脚本料……。謎のまた、謎でしょ。

ごはん茶碗一杯
ご飯茶碗一杯分のお米の値段は約24円。それが27円になると米農家は田んぼ一本で食べていけるという

わたしは、講演会で地方に行ったときや、ワークショップの講師をやるとき、必ず皆さんに質問することがある。「さて、30分のドラマ一本で、脚本料はいくらもらえるでしょう?

毎回、その答え合わせが楽しい。もちろん、ピンからキリまであることも口添える。その上で、新人脚本家のスタートラインを伝えると、小さな子供たちは「おおー」となるが、高校生ぐらいになると「へぇ~」となり、大人たちに至っては「……え……」となる。その反応が実に面白い。

これまでの反応を総合すると、どうやら、我々脚本家たちへのイメージは悪くないようだ。真実はともかく、イメージでは“かなり”稼いでいるように見えるらしい。ふっふっふ。

そういえば、うちの母ちゃんにK先生のことを愚痴った時にもそんなようなことを言われたっけ。
「いいべ、貧乏そうに見られるより。そのうぢ、ホントに稼いでみろ」
OK、待ってろ、母ちゃん。

次回は放送作家の橋克弘さんへ、バトンタッチ!

是非見てください!

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19歳・童貞の僕が飛び込んだのは、AV業界でした。』(1)(2)
(ぶんか社コミックス)

ここ数年、漫画原作にも挑戦中でして。
初めてコミック本が出ました。1、2巻同時発売!
もともとのタイトルは『虹色パンツ』で、今も連載中です。
映画監督を目指している青年が迷い込んだのは、アダルト業界──
性春真っただ中のヒューマンコメディです、皆さま良かったら!

そして、大事なお知らせをもうひとつ。
いいね!光源氏くん し~ずん2』6月7日スタートです!

いいね!光源氏くんし~ずん2の台本
『いいね!光源氏くん し~ずん2』の台本をパチリ!
一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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