テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第82回は、「ルーズヴェルト・ゲーム」「夏樹静子サスペンス」「逃亡者おりん」でおなじみの脚本家・西井史子さん。

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私ガス欠ですか?

西井史子さんの写真
西井史子
脚本家
日本放送作家協会会員

20歳前後の若者ってどうしてあんなに眩しいんでしょう?

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

私が教えている大学の生徒さんも、ピンクやブルーの髪の毛にカジュアルな洋服をカッコ良く着こなし、手入れされたお肌はピカピカ。女の子たちはすっぴんにしか見えない高度なテクニックでメイクし、男の子もきれいに眉を整えブラックのマニキュアを塗って手元を決めています。驚くことにオシャレアイテムの調達は百均かファストファッションとのこと。不況の中で生まれ育った彼らは金銭感覚がとてもしっかりしているみたい。素晴らしい!

私が生まれ育ったのは、高度成長まっただ中の関西の古い町。何でも買ってもらえる代わりに、アルバイトは禁止、ATMカードもダメ。お金のことを考えたり口にするのは「はしたない」と教え込まれ、金銭感覚のマヒした大人になってしまいました。

就職しても、フリーになっても改心することはなく、洪水のように押し寄せる仕事に埋没し「頑張ればお金は勝手について来る」と呆れたセリフを吐いていたのです。ところが、脚本家になったとたんお金に冷たくされっぱなし

デビューは昼ドラでした。その後もご縁に恵まれ2時間サスペンスや映画のお仕事をいただき脚本家としてスタートできたのですが、当然ながらいつもいつも企画が通るわけではありません。徹夜続きで企画書を書いても会議で通らなければ収入はゼロ。とくに映画はデンジャラスすぎるギャンブルです。

トラリピインタビュー

予定の制作費が集まらず「次は埋め合わせするから」と極端に目減りしたギャラを受け取ることも、決定稿を仕上げた後、企画自体が無くなって制作者に逃げられたこともありました。休みを取るのはお正月だけ、平均睡眠時間は4時間。それでも、いつかは連ドラのメインライターに、死ぬまでには大河ドラマをと夢を膨らませて全力で走り続けていたのです。

ハードワークをする女性のイメージ
脚本家としてデビューした後、全力で走り続けてきた

ところが10年目のある日、カフェで仕事をしていたら目の前がグルグル、胸はドキドキ、息はハアハアで救急車のお世話になってしまいました。
「エネルギーが戻るまで休んで下さい」とドクター。
「えっ、私ガス欠ですか?」
「そうそう。高速道路の真ん中でエンストを起こした車みたいなもん」 
まさかそんなことで、次の日も、次の週も、次の月も、次の年も、休み続けることになるなんて……。

脱・マネーの落ちこぼれ

「まだてっぺんまで登ってないのに」と嘆く私に、妹が呑気に言いました。「山登りは下りる時の方が楽しいよ。綺麗な景色も見られるし」 
「なるほど」

とは言え、書けない物書きは食い詰めるしかありません。物語では、「食い詰めたヤクザ」とか「食い詰めた貴族」が別世界に放り込まれますが、私も例に漏れず、大学でシナリオやストーリー創作を教えることになりました。

実は内心「レッスンプロに落ちた」と腐ってたのですが、それは大間違いだとすぐに反省! 生徒さんたちから若いパワーをもらって一気にエネルギーチャージができたのです。

彼らはアニメ、ゲーム、漫画、ライトノベルなど様々な世界で作家になることを目指しています。クラウドファンディングで資金を集めて自主映画を作る子や、異世界転生ものサイトに小説を投稿して広告収入を稼ぐ強者も出現。夢を持った令和の若者はオシャレで自由で逞しいのです。彼らに教えられました。エンタメ界には新しい山や登山道が次々生まれているのですね。

登山をして希望を持つイメージ
夢を持った令和の若者は自由で逞しい。エンタメ界にも新しい山や登山道が生まれている

もっか実写映画の脚本を書いています。一方で新しい山にも登ろうと企んでいるところ。お金に関しては“マネーの落ちこぼれ”のままですが、ギャラの取りっぱぐれだけは防ぎたいと切実に思うようになりました。はあ、何と低レベル。

そんな時、友人のIちゃんが、映画脚本開発のための助成金を広めようとお仲間たちと活動していると知りました。「脚本料の踏み倒しがなくなるように」と頑張るIちゃん、男前すぎて(ちなみにIちゃんは女性)惚れ惚れです。

こうなったら私だって、“親の呪縛”も“バブルの後遺症”も振り払い、お金の話をしなければなりません。ギャラ交渉は難易度高いので、せめてひと言「助成金申請しませんか」と……。

次回は放送作家の原すすむさんへ、バトンタッチ!

是非注目してください!

デジタルハリウッド大学、アメリカ映画協会(モーション・ピクチャー・アソシエーション/MPA)、東京国際映画祭併催のコンテンツマーケットであるTIFFCOMの三者共同で、MPA/DHU/TIFFCOM「マスタークラス・セミナー&ピッチング・コンテスト」を開催。若い才能が集まるコンテストにぜひご注目ください。結果は10月上旬に発表されます。

▼昨年のコンテストの模様はこちらから
MPA/DHU/TIFFCOM「マスタークラス・セミナー&ピッチング・コンテスト2021」(デジタルハリウッド大学)

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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