夫婦仲が冷めても支払い義務のある婚費

離婚を経たからこそ見えてくる、結婚のメリット・デメリットはありますか?

トイアンナさん そもそも、結婚に大きなメリットはないと思います。唯一メリットとして挙げるなら、財産をポートフォリオ化できることです。片方が無職になっても、もう片方が支えられる。経営で喩えると、2つ提供しているサービスがあるとします。仮に片方が大赤字を出しても、もう片方がめちゃくちゃ黒字なら、なんとか相殺して「今期は株式の分配がありません、すみません」というかたちで済む。この考え方に近いです。

しかし、私はこれが強烈な結婚のメリットではないと最近は感じています。なぜなら、結婚は起業と異なり、複数のポートフォリオを組めないからです。多夫多妻制が日本で可決される日がきたら状況は変わってきますが、現状は片方が倒れたら片方が立つしかない。ちょっとうまくいった、ベンチャー企業くらいの安定感でしかないです。それなら会社を作ってポートフォリオを組んだほうがよっぽど安心ではないですか? 自分の貯金を分散投資したほうがまだいい、という話になってきます。なので、個人的には結婚にそこまで強烈なメリットを感じていません。

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綱渡りする男性
2馬力家計の安定感=ちょっとうまくいったベンチャー経営

トイアンナさん よく「結婚にメリットはないのに、どうして結婚しないといけないんですか?」という質問をいただくのですが、「ないなら止めたら?」と思います。ではなぜ結婚をするのかというと、損得勘定を飛び越えるような感情に支配されているからです。それほどまでに好きだと思えたら、結婚すればいいと思います。そうでないなら、結婚するメリットは今の日本には少なくともない。特に経済的に自立した男女にとっては、明確なメリットはありません。事実子でいい。これでは、非婚化も少子化も進みますよね。

ただし、子どもが欲しい場合、現行の日本の制度だと結婚していたほうがかなり楽に動けます。また、結婚していることで受けられる制度的なメリットは、有事に集中治療室にも入れることや、財産分与ですね。

結婚していれば確実に相手に財産を遺せますが、籍を入れていない恋人の場合、日本では遺言の効力が限定されるため、たとえ遺言に「恋人にすべての財産を遺します」と書いたところで、親や祖父母などの相続人が一定の取り分を請求できてしまいます。恋人に遺産を遺したいと思っていて、相手もそう望んでいるなら、結婚という制度をうまく活用する、くらいがちょうどいいところではないかと思います。

続いて、デメリットについて。恋愛コラムニスト的には言いたくないですが、(一般的に女性よりも年収が高い)男性は圧倒的にデメリットが大きいと認めざるを得ないですその最大の理由は「婚費(婚姻費用)」にあります。婚費とは、夫婦が生活のために分担する費用です。夫婦関係が悪化し、別居に至ったとしても、婚姻を解消しない限り婚費の負担義務が残ります。夫婦には、お互いの生活水準が等しくなるよう「婚姻から生じる費用」を分担することが民法760条で定められているからです。

財布からお金が飛んでいく男性
婚姻を解消しないと冷え切った関係でもお金を支払う義務があります……

トイアンナさん だいたいの家庭では男性のほうが稼ぎは多いので、男性は、たとえ別居し冷めきった関係にある女性に対しても、毎月お金を振り込まなければいけません。女性は婚費を相手に請求することもできます。これを考慮すると、年収が高い男性になればなるほど、結婚するメリットはなくなっていきます。

結婚してこそ一人前という風潮

メリットがないにもかかわらず、これまでに多くの人が結婚を選択してきたのはなぜでしょう?

トイアンナさん 社会的地位が手に入るからでしょう。もっと言うと、社会から独身を責められなくなるからでしょうね。これまでは、「結婚していなければ一人前ではない」という価値観が浸透していました。特にアラサー女性は、「この年になっても結婚していないなんて、性格などに難があるのではないか」と根拠のない攻撃を受けることが多いんです。結婚すれば、こうした攻撃を受けずに済む「盾」が手に入ります。男性でも、伝統的な価値観の中で育ってきた方であれば、その盾を手に入れるために、異様に結婚が早い傾向があります。

女性にとって結婚するデメリットはどんな点があると思われますか?

トイアンナさん 私の周りは、女性が一家の大黒柱であるパターンが多いので、先ほど申し上げた男性のデメリットが女性にも当てはまってきます。つまり、関係が冷めて別居しても、女性のほうが稼いでいるので、婚費を支払う側になるのです。だから結婚に対して躊躇しているカップルが多いですね。今後はこういった女性も増えていくと思います。

では、世間では大多数を占めるであろう、男性側の年収が高いカップルの場合、女性が結婚することで発生するデメリットは特にないのではないでしょうか。挙げるとしたら、結婚は相手のご家庭も込みのガチャ(ソーシャルゲームなどの有料の電子くじ引き)みたいなところがある面です。結婚なさる相手がどんなに素晴らしくても、嫁姑問題という言葉があるように、義両親とはうまくいかない可能性はあります。

あとは、結婚した瞬間に旦那さんがモラハラ(モラルハラスメント)男やDV(ドメスティックバイオレンス)男に豹変する可能性でしょうか。「ようやく俺のものになったな。これからは以前のようにワガママを言わせないぞ。俺の言う通りにさせてやる」という人もいます。「結婚する前はまったく分かりませんでしたが、いざ結婚してみたらボコボコに殴られています」なんて話もよくありますよね。

ガチャと女性
結婚は相手のご家庭も込みのガチャ。ハズレたら…リトライ?

トイアンナさん 大切なのは結婚するかしないかではなく、とりあえず結婚してみて、「ハズレくじを引いてしまったら、即離婚でも大丈夫な自分でいよう」といった心構えをしておくことです。結婚をものすごく大きいものとして考えると、「一度結婚しちゃったから離婚してはいけない」「もうみんなに結婚するって言っちゃったし、結婚式の準備もかなり進んでいるし……」と、どんどん抜け出せなくなってしまいます。

そうではなく、結婚に対しては、する気があるならしてもいいし、それがなくなったのなら離婚してもいい。特に、お子さんがいないなら即離婚でも構いません。子どもがいても、その子が不幸になると思うなら、離れたほうがいい。こういった考え方や判断はすごく大事だと思います。結婚は、自分が培った財産を相手に遺したいとか、子どもに有利にお金の便宜を図りたいとか、お金の話としても重要になってきます。「結婚とは、お金の移動先を決める手続き」くらいに思っておいてもいいでしょう。

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