「投資の神様」といわれる米国のウォーレン・バフェットは、持続的な企業価値増大が見込める企業の株式を、長期で保有することで過去50年以上にわたり高いリターンを挙げ続けてきました。そんなバフェット流の長期厳選投資を日本で実践するのが、農林中金バリューインベストメンツです。同社が運用、または運用助言する『おおぶね』シリーズは、本格的なアクティブファンドとして、多くの個人投資家から人気を集めています。同社最高投資責任者の奥野一成氏に株式投資の本質や銘柄選択の視点、個人の資産形成におけるアクティブファンドの役割などについて話を聞きました(聞き手・文=しらこしらお 取材日:6月16日)。
農林中金バリューインベストメンツ
常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
奥野一成(おくの・かずしげ)さん
京都大学法学部卒。ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアである。機関投資家向け投資において実績を積んだ運用哲学と手法をもとに個人向けに『おおぶね』シリーズを展開。近著に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)がある。
株式投資でミッキーマウスに働いてもらう
近著、『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』、拝読しました。
奥野 それはどうもありがとうございます。
私も株式投資をしていますが、完全にほったらかしの時もあれば、少し利益が出たからと売却し、株価が下がったからといって買ってみたり、結構ちょこまか売買するときもありまして……。要するに、株式投資の本質を理解していなかったなぁと、改めて痛感しました。
奥野 「株価」を買っていたわけですね。
そうなんです。ですから今日は、そもそも株式投資とは何ぞや、というところからお話をお伺いしたいと思います。
奥野 わかりました。株式投資というと、ほとんどの人が株式を売り買いする行為をイメージすると思います。安いと思ったら買い、高いと思ったら売って。それは結局何をやっているかというと、パソコンの前に座って、自分で稼いでいるだけです。
本当の株式投資とはそういうことではありません。自分が働くのではなく、自分にない才能を持っている人にお金を預けて、その人が働くことによって利益を得る行為です。
例えば、ウォルト・ディズニー社の株を買うとします。それは自分が働くわけではなく、ミッキーマウスに働いてもらうということに他なりません。
「ウォルト・ディズニー社の株を買うことは、ミッキーマウスに働いてもらうこと」
その企業のオーナーになるということですね。
奥野 そう。「株価」を買うのではなく、「事業」を買うのです。
収入を得る手段は、自分が働いて稼ぐだけではありません。自分は自分の仕事をしつつ、同時に強い企業の株式に投資してその企業のオーナーになれば、一流の経営者たちや世界的に強いブランドなどが、自分のために働いてくれます。
日本電産に投資するということは永守重信さんに働いてもらうということであり、アマゾン・ドット・コムに投資するということはジェフ・ベゾズさんに働いてもらうことです。
投資はビジネスにとって最良の教科書
それは痛快ですね。自分が働くより、ミッキーマウスやジェフ・ベゾズに働いてもらう方が確実にたくさん稼いでくれます。でも、その一方で株式を買ったからといって、ミッキーマウスに演技指導できるわけでも、ジェフ・ベゾズに経営指南できるわけでもありません。お金だけ出して人に働いてもらうというのに、何となく後ろめたさを感じる人もいると思います。その辺りに、日本に株式投資が根付かない理由があるような気がします。
奥野 それはどうして日本人に投資が必要なのか、という話につながります。もう自分が汗水たらして働いて得た収入だけでは、長い人生を全うすることができない可能性が高いのです。
もちろん自分で汗水たらして働くことは大切ですし、それが最も確実に収入を得る手段です。ただし、多くの人にとって40~50年の勤労期間で得られる収入は、おおよそ決まっています。人生100年時代といわれるいま、自分の勤労収入だけでは足りないのです。
高齢になっても体が元気なうちは働き続けることで、足りない分を補うという考えもあります。でも高齢になれば体力も知力も低下し、これまでできていたことができなくなる可能性は高まります。そういう高齢者を雇い続けることは、企業の競争力を削ぐことにもなります。
私も実はなるべく長く働かないといけないと考えていました。でも例えば70歳を過ぎて、果たして自分が必要とされる場所や仕事があるかどうか……。
奥野 だったら自分で働く以外のやり方を考えないといけません。これが株式投資を通じて、自分以外の人に働いてもらうべき理由の1つです。
これからは自分で稼ぐ以外に、人に稼いでもらうという発想が必要になる
あとは、投資家になることで、資本家や経営者の視点を持てるようになるかもしれません。「この企業は競合他社と比べて強いのか」「社会にどのような価値をもたらしているか」と考えることで、世の中の見方が変わってきます。
そうすると自分の仕事も大局的な視点で見られるようになるでしょう。その意味で投資はビジネスにとって最良の教科書です。自分の仕事にもいい影響をもたらし、その結果収入が増え、さらに投資でも収入を得られるという相乗効果が期待できるのも投資のメリットです。