元始、投資信託はアクティブであった……。市場平均への連動を目指すインデックスファンドが全盛の今、あえてアクティブファンドに注目する短期集中連載。第2回は、アクティブファンドの信託報酬の高さについて考察します。
信託報酬が高いアクティブファンド
アクティブファンドは「手数料が高い」とよく言われます。
ここでいう手数料とは、運用管理費用または信託報酬と呼ばれるコストのこと。信託報酬は、信託財産(投資信託が保有する資産)から日々差し引かれる手数料です。
つまり、信託報酬が年1%の株式型の投資信託を1万円購入して、仮に株価が1年間ずっと変わらなかったと仮定すると、1年で100円分が手数料として引かれます。実際には、信託報酬はある日突然1%分が引かれるわけではなく、日割りで少しずつ差し引かれていきます。
当然のことながら、この信託報酬が低ければ低いほど、投資信託に投資する人の利益は増えることになります。そして、一般的にアクティブファンドの方が信託報酬が高いのは事実です。
以下の表は、純資産が多く運用期間が長いアクティブファンド5本と、同じく純資産が多いインデックスファンド3本の信託報酬を任意に選び、過去10年間の騰落率を比較したものです。
アクティブファンド
ファンド名 | 信託報酬 (年率、税込み) |
過去10年の 騰落率 (年率換算) |
---|---|---|
netWIN GSテクノロジー 株式ファンド Bコース (為替ヘッジなし) |
2.09% | 16.3% |
フィデリティ・ 日本成長株・ファンド |
1.683% | 8.5% |
ピクテ・グローバル・ インカム株式ファンド (毎月分配型) |
実質 1.81%程度 |
6.4% |
スパークス・新・ 国際優良日本株ファンド |
1.804% | 15.6% |
ひふみ投信 | 1.078% | 15.6% |
インデックスファンド
ファンド名 | 信託報酬 (年率、税込み) |
過去10年の 騰落率 (年率換算) |
---|---|---|
インデックスファンド225 | 0.572% | 9.9% |
ニッセイ日経225 インデックスファンド |
0.275% | 10.2% |
eMAXIS Slim 米国株式 (S&P500) |
0.0968% | – |
※2020年5月29日時点。各商品の運用報告書やホームページをもとに編集部作成
明らかにアクティブファンドの方が信託報酬は高くなっています。信託報酬が最も高いアクティブファンドと最も低いインデックスファンドで、2%近い差があります。
2%の差は、10年間運用を続けると1.0210≓1.219、つまり21.9%もの差になります。1%の差でも、10年経てば10.5%。「信託報酬は0.1%でも安くしなければ」と考えるのも自然の成り行きかもしれません。
運用実績と信託報酬を分けて扱わない
しかし、本当に信託報酬だけで投資信託を選んでもよいのでしょうか?
過去10年の騰落率を見ると、インデックスファンドを上回っているアクティブファンドもいくつかあります。ここで挙げたインデックスファンドのうち2本は日経平均株価への連動を目指す投資信託なので、『netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし)』と『スパークス・新・国際優良日本株ファンド』と『ひふみ投信』の3本は、「過去10年の利益が日経平均を上回った」ということになります。
(ただし、『netWIN』と『ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)』の主な投資対象は米国をはじめとする海外の先進国株式なので、日経平均株価と比較することがあまり意味をなさない点は留意する必要があります)
もちろん、各ファンドの騰落率は信託報酬が差し引かれたうえでの実績です。インデックスファンドより1%以上高い信託報酬を支払ってもなお、インデックスファンドを上回る利益が得られるのであれば、あまり手数料にこだわらなくても良いように思います。
そもそも、なぜアクティブファンドの信託報酬が高いかといえば、アクティブファンドは「人間の手で投資対象を選ぶ」という仕組みだからです。投資対象の選別を行う人がいれば、その判断のもととなる企業や業界の調査を行う人もいます。そうしたプロフェッショナルな人たちに支払われる対価が、信託報酬の一部となっているわけです。
アクティブファンドは生身の人間が手間をかけて運用するから、そのぶん費用はかかるけれど、ファンドごとの個性が出やすく、中にはインデックスファンドを上回るパフォーマンスを継続しているファンドもある
ところが、いくら投資対象の選別やリサーチにお金と労力をかけても、その努力が実を結ばず、インデックスファンドに負けてしまうアクティブファンドもあります(一般に投資信託の良し悪しは騰落率だけでなく、価格変動の大きさも考慮して判断するため、騰落率がインデックスファンドを下回っていても、必ずしもそのファンドが劣っているとは限りません)。でも、それは信託報酬が高いから悪いのではなく、単にそのファンドが運用に失敗してしまっただけのこと。信託報酬そのものが悪いわけではありません。
投資信託にとって重要なのはあくまで運用実績です。そして、運用実績と信託報酬は分けて扱わない方が良いと筆者は考えます。
たとえば上記の表では、『スパークス・新・国際優良日本株ファンド』と『ひふみ投信』の過去10年間の騰落率はほとんど同じですが、信託報酬は『ひふみ投信』の方が安くなっています。それなら『スパークス』の信託報酬を『ひふみ投信』と同じくらいまで引き下げれば、『スパークス』の方がより利益を出せるはずだと考えたくなりますが、信託報酬を下げれば企業を調査するアナリストが減ってしまい、有望な銘柄の発掘ができなくなるかもしれません。
たとえ信託報酬が2%でも3%でも、長い目で見て年平均10%以上の利益が出るのであれば、それは優れた投資信託だといえます。信託報酬を1%下げれば、単純に利益が1%上がるわけではありません。
信託報酬は単なるコストではなく、利益を高めるための「燃料」と考えるといいかもしれません。インデックスファンドは低燃費でよく走るエンジン。アクティブファンドは燃費は良くないけれど、じゅうぶんな燃料を与えれば力強く加速することもあるエンジン。もちろん燃費が悪すぎるのも良くないのですが、エンジンの性能を最大限に引き出すためには、適切な量の燃料が必要なのです。