投資で資産を築き、羨望の眼差しを向けられる投資家たち。しかし、彼らとて努力せずに、いまがあるわけではない。ゼロから知識を身につけ、実践してきたからこそ、確かな結果を手に入れることができたのだ。そんな彼らの“投資脳”を育てた土台となっているのが、書籍である。そこで、投資家たちの本棚にしまわれる珠玉の一冊を紹介してもらおう、というのがこちらの連載。
第1回に登場していただくのは、投資ブロガーのNightWalkerさん。「普通の人による普通の人のための普通の投資」を普及するべく綴られているブログが人気を博している。”ごく普通の会社員“を辞めてアーリーリタイアし、現在は”自称・自由業“のNightWalkerさんが、投資人生の転機になった一冊を紹介してくれた。

NightWalkerさん
NightWalkerさん。投資ブログ「NightWalker’s Investment Blog」を運営

【NightWalkerさんの一冊】
『臆病者のための株入門』(橘 玲著)

『臆病者のための株入門』(橘 玲著)

巷にあふれる株必勝法のインチキを見破り、普通の人がカモられずにお金を増やせる方法を説いた一冊です。本の帯には、大きなフォントでバンッと「カモられずにお金を増やす方法」と書かれていますが、まさにその通りの一冊。まずはよくあるトレーディングなどの投資方法と、そのあやしさを語るところから入って、最終的に主張しているのは、たったひとつのシンプルなこと。それは、「一般の人が投資する方法として正しいのは、世界市場ポートフォリオである」です。

世界市場の時価総額と同じ比率で株式を持てば良い。つまり、全世界型のインデックスファンドを買えばいいと結論づけている本なのです。ちなみに、6章の「経済学的にもっとも正しい投資法」と、8章の「ど素人のための投資法」あたりが、その中核部分です。インデックス投資の原点に近い本のひとつでもあります。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

影響を受けたポイント

著者ならではのズバッとした物言いに膝を打った

この本を手に取ったのは、いまから約14年前。投資関連の本を一気に読んでいた時期に、偶然出合いました。橘さんの本はそれまでにベストセラーになった『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』を読んだことがあり、注目していた作家さんでした。

それもあって、新刊が目に留まったのですが、橘さんのズバッと言い切るところに共感する部分がたくさんありました。難しくてなかなかとっつきにくいタイプの本と比べて、この本はとても読みやすかったですね。

本書は、外国株のインデックスファンドがネット証券で気軽に買えるようになってから6~7年ほど経ったときに出版されています。普通の人でも、グローバル市場に分散できる投資環境がようやく揃ってきた頃ですね。

その頃、私も日本株100%から外国株にスライドしていたのですが、この本に出会って自分のやっていることに確信を持てたというか、勇気づけられました。14年経ったいま、ここに書かれていたことは嘘ではなかったという確信があります。時間が経っても色褪せない本だなと思います。

あと、正しい投資法の説明をしておきながら、あとがきに「最後にお断りしておくと、私自身はここで述べているような【合理的な投資法】を実践しているわけではない。ひとには、正しくないことをする自由もあるからだ」なんて書いてあるんですね。この決め台詞が橘さんのかっこよさというか。人間って不合理なところがあるから面白いんだよなぁと。

この本をおすすめしたい人

長い文章は読みたくないけど株式投資の本質を知りたいあなたへ

“大人の素人投資家”には、ぜひとも読んでもらいたい。長い文章を読むのが好きではない、かといってあまりに簡単な解説にとどまっている本を読みたいわけではない人を満足させる内容だと思います。タイトルこそ「入門」と書かれていますが、決してそんなことはありません。大人の琴線に触れる、実に深い内容となっています。この本を一冊読んでおけば、おかしな金融商品にだまされない素養は身につくはずです。

学問寄りの投資本は多々ありますが、そういう本は苦手だけど、株の基本概念くらいは頭に入れておきたい人にもうってつけです。たとえば、株価の説明には、株価収益率PERや割引率の計算式などがよく登場しますが、これらの言葉はいささか難しいしとっつきにくい。でも、この本では「株式の価値は、その会社が将来にわたって生み出すすべての利益を現在価値に換算したものである」と書いてあって、これってすごくわかりやすい重要なリテラシーだなと思うんですよ。

このように、できうる限り短い言葉で本質を突いている本は、なかなかお目にかかれません。学者肌の方だと、ここまでズバッとした言い方はなかなかできない。読む方も、長々と書かれていたら寝ちゃいますよね(笑)。スパッと短く、核心に迫る書き方が気持ちいい人と非常に相性がいいのではないでしょうか。

投資の良書に巡りあうための秘訣

自分でお金を出せる以上の本は読めない。買ったら集中して読む

私には、読書の季節とでも呼ぶべき時期があって、2000年頃は投資本を買い漁っていました。「自分でお金を出して買える以上の本は読めない」が私の持論。お金を出して本を買うという行為は、選ぶところから買うまで手間暇がかかりますよね。一方で、人間にはキャパシティの限界があるので、この手間を掛けられる範囲でしか、本って読めないものなんですね。あと、お金を払っているから集中して読もうという気にもなります。

今回ご紹介した本では、熟読していくうちに、一般庶民にとって正しい投資法としてのインデックス投資が、どういう経緯で生まれてきたのかが頭に入ってきて、大きな納得感を得られるはずです。そして、過去の偉人のみなさんが考えに考えて考え抜いた結果、考えない投資が確立されたことに気づきます。この知識が、長期投資にあたって相当な自信にもつながっていくはずなんです。

最近は、私を含め多くのブロガーたちが発信しているので、いろんな投資の智恵が目に留まりますよね。ただ、往々にして断片的に書かれがち。知識を体系的に理解するためにも、やはり本は有益です。
時代を超えて読み継がれたベストセラーは、何らかの真実が書かれているからこそ、残っているのだろうと私は捉えています。

(末吉陽子/やじろべえ)

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