本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第5回は、事実婚のパートナーはいるけれど婚姻関係はない、法律上のおひとりさまの相続について考えていきます。

事実婚の相手は法定相続人になれない

東京2020オリンピック・パラリンピック委員会会長の発言をめぐり、あらためて「差別」という言葉が注目されています。
公益財団法人日本オリンピック委員会のホームページを見ると、最新のオリンピック憲章(2020年7月17日から有効)が掲載されており、その中の「オリンピズムの根本原則」の4番目に、

スポーツをすることは人権の1つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。 オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。

とあります。この「いかなる差別も受けることなく」という文言が注視されているわけですが、全世界的にはスポーツという場面にとらわれず、いかなる分野においても多様性を認め差別をなくすという考え方が主流となってきているのは事実です。

「結婚」のスタイルにも多様性が求められ、事実婚、同性婚など、さまざまな形の結婚が法律婚と同等の権利を認められている国も欧米を中心に増加しています。

今回は、現在の日本の法律で事実婚がどのように扱われているのかをご紹介します。

Q.
婚姻届は出していませんが、いわゆる事実婚の、長年生活を共にしている妻がいます。
自分が妻より先に死んだ場合、当然その財産は妻に引き継いでほしいと考えています。内縁の妻に相続権はありますか?

A.
現在の法律では、事実婚のパートナーに財産の相続権はありません。おたがいの遺産を受け取るためには、遺言など生前の対策が必要になります。

さまざまな理由や事情により、法律に基づく結婚をせず、事実婚を選ぶカップルがいます(事実婚のカップルの中には、現在の法律では結婚できない同性のカップルもいますが、本稿では便宜上「夫婦」と呼びます)。事実婚の夫婦は、法律上はあくまで他人同士とみなされるので、法律婚の夫婦と比べると不利益を受ける場面が出てきます。

たとえば、事実婚の場合は配偶者控除が受けられない、住宅ローンを組むときに不動産を共有名義にできないために融資条件が不利になる、といったことが挙げられます。それでも、以前と比べれば事実婚で不利を受ける機会は減りました。住宅ローンについては、いくつかの銀行が、事実婚の夫婦や同性カップルでも法律婚と同等の融資を行うようになりました。また、事実婚でも健康保険の扶養に入ることができますし、専業主婦(夫)と同じ第3号被保険者として国民年金に加入することもできます。

相続については、残念ながら今の法律では、事実婚のパートナーは法定相続人には該当しません。パートナーが先立ってしまったら、その財産はパートナーの親や兄弟が引き継ぐことになるのです。

おたがいに財産を受け取れるよう、遺言書を作る

法律上は「おひとりさま」扱いの事実婚とはいえ、長年連れ添ってきた夫婦ならば、自分の財産は夫や妻にのこしたいもの。パートナーが財産を受け取れるようにするには、どうすればいいのでしょうか?

方法のひとつは、遺言書を作っておくことです。万一のときはおたがいがパートナーの財産を受け取れるように、夫婦で遺言を書いておきましょう。重要な書面ですので、作り方は弁護士や税理士に尋ねるといいでしょう。

遺言書を書く
どの財産を誰にのこしたいか、遺言書を書いておけば意志を伝えられる

ただし、1点気をつけなければいけないのは、事実婚の夫婦間で相続を行う場合は、法律婚の場合と比べて相続税が2割増しになってしまうことです。相続財産をたくさん保有している人は、相続税対策についても事前に税理士に相談するのがよさそうです。

このほか、生前贈与をしたり、おたがいを生命保険の受取人にしたりと、今から準備できることはいろいろあります。パートナーが先立ち、本当の「おひとりさま」になる前に、相続に対する万全な体制を整えておきたいものです。

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