日本では、蛇口をひねればすぐに安全な水が流れ出てきます。「これは現代の世界では非常に特殊な環境であることを忘れてはなりません」と株式アナリストの鈴木一之さんは指摘します。今回のテーマは「水」。近年、より身近なリスクとして指摘される「水危機」とその解決に貢献する企業群について解説していただきました。
- 世界中で7億6800万人の人たちが安全な水資源にアクセスできない
- 世界の水の使用量は1995年の3752億トンから2025年には5139億トンへ
- 海水淡水化フィルターの日東電工、水処理関連のクボタ、栗田工業、荏原などに注目
より身近なリスクとして「水危機」が指摘される
鈴木一之です。今回は水に関する話題です。
水は生命の源です。人体の7割近くは水でできています。人は水なしでは生きていけません。SDGsの言葉を耳にしない日はありませんが、SDGs(持続可能な開発目標)を構成する17種類の目標のうち6番目は「世界中で安全な水とトイレを」が掲げられています。
気候変動や異常気象は人類にとってもはや所与のもの、当然のものと認識されつつあります。より身近なリスクとして「水危機」が指摘されるようになりました。
国連は2014年の「世界水発展報告書」において、すでに世界中で7億6800万人の人たちが安全な水資源にアクセスできない状態にあると報告しています。
水に関する権利が満たされない人は35億人に及び、世界の人口の3分の1に当たる22億人の人たちは安全な飲み水を手に入れることができません。
日本では水道の蛇口をひねるとすぐに飲めるほどの安全な水が流れ出てきます。あまりに日常的すぎて、安全で清潔な環境が簡単に手に入ると錯覚してしまいます。しかしこれは現代の世界では非常に特殊な環境であることを忘れてはなりません。
世界の25億人の人は清潔なトイレが使用できず、10億人は屋外で排便しており、18億人がし尿や便で汚染された水源から飲み水を得ています。
手を洗う際にも何億人もの人が水や石鹸を使えず、これは子どもたちの健康に大きな影響を与えています。世界の人口の3人に1人が清潔なトイレを利用できない結果、毎年350万人が下痢や感染症で命を落としています。
飲み水が安全でないという理由によって、21世紀を迎えた今も1000人中100人以上の子どもは1歳まで生存できません。日本でも水道の普及率が20%ほどでしかなかった大正10年(1921年)までは、子どもの死亡率は2%、1000人中190人が1歳になる前に死亡していました。
それが水道普及率が98%に高まった2014年には、日本の乳児死亡率は1000人中2人までに下がりました。水道普及率が向上するにしたがって、子どもの死亡率は大きく低下するのです。
世界の水の使用量は2025年には5139億トンへ
世界の水の使用量は、1950年から1995年の間に3倍に増加しました。これが2025年には、1995年比でさらに1.4倍になると予想されています。水の需要が増える理由は、人口の増加、新興国の経済発展、地球温暖化など様々な要因があります。
世界の人口は2011年に70億人を超えました。これが2050年には95億人に達すると予想されています。増加する25億人の人たちがどれほどの食事や入浴を行うか。それだけで水不足が今まで以上に強まる地域が拡がると考えられます。
さらに水不足は、主にアジアおよびアフリカの経済発展によってもたらされます。1950年の世界の水の使用量は1369億トンでした。そのうちアジアが860億トン、北米が289億トンでした。
1995年には、世界全体で水の消費量は3752億トンに拡大し、うちアジアが2157億トン、北米が672億トンに増えました。それが2025年には、世界全体で水の消費量は5139億トンに増えると予想され、アジアが3104億トン、北米が788億トンまで増加すると見られます。
中流階級の拡大で水の消費はさらに増える
水の需要は農業用水、工業用水、生活用水の3つに大別されます。割合としては農業が70%、工業が20%、生活が10%です。これらの3つの分野すべてで近年、水の需要が急増しています。
人口が増加すると飲み水などの生活用水の必要が増しますが、より重要なのがその地域の人たちの食料の増産です。食料を生産するための農業、畜産業でさらに多くの水が必要となります。
しかも世界はただ人口が増えているだけではありません。貧困にあえいでいた何億という人たちが生活水準を向上させ、中流意識が芽生えることによって新たな生活、よりよい生活を求めるようになっています。
世界の中流階級は、2000年までは14億人くらいでした。それが中国、インドという人口大国の経済発展に伴って、2009年には中流階級は18億人を超えました。2020年には30億人を突破すると予想されています。
よりよい生活を送る人が増えるということは、人道的に見れば喜ばしいことですが、水資源の需要の面からは問題を多く抱え込むことになります、毎日シャワーを浴び、緑の芝生を植え、裏庭にはプールを据えつけます。
なによりもタンパク質中心の食生活への転換が大量の水消費を助長します。肉食への転換が進むことで水の消費はさらに増えることになります。
人ひとりが一日に必要とする飲料水は2.5リットルですが、ひとり分の一日の食料を生産するためには水が2000~5000リットルは必要とされています。
たとえば、牛肉を1キログラム生産するのに、20600リットルの水が必要です。同じように豚肉を1キログラム生産するには5900リットル、鶏肉1キログラムには3200リットルの水が要ります。
チーズ1キログラムには3200リットル、コメ1キログラムには3700リットル、パン1キログラムには1600リットル、牛乳には550リットルの水が必要です。
小麦1キログラムの生産には2000リットルの水が必要です。トウモロコシには1900リットル、大豆は2500リットル、卵は3200リットルの水が要ります。野菜もビニールハウスで育てれば燃料がかかり、天然ガスを掘削するには水圧破砕法によって大量の水が用いられます。