テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第36回は、『めちゃ×2イケてるッ!』『笑ってはいけないシリーズ』などを手掛ける放送作家の深田憲作さん。
割の良さと、ジレンマと
近年、放送作家はテレビ以外にもYouTube、ABEMA、Amazonプライムビデオなど様々なメディアで仕事をするようになった。メディアによって「●●の仕事はギャラが安い」「■■の仕事はギャラ自体は高くないけど割はいい」といった具合に報酬の相場は異なるが、こと地上波のテレビ番組を何本も担当している人に限っていえば、放送作家は収入的には“割のいい”職業と言えると思う。
ただ、放送作家という生き物は自身の仕事への憂いというかジレンマのようなものを皆少なからず抱えて生きている。番組を作るうえでの裁量権を持つのはあくまでディレクター。番組の良し悪しを決める最も大きな要因が“ディレクター(=総合演出)の力量”であることは、テレビ制作に関わる者であれば誰も異論の余地はないだろう。
我々、放送作家は日々、クリエイティブ面において番組のトップである総合演出に向かって“企画案”というボールを投げ続け、そのほとんどがスルーされて捨てられていく現実と向き合いながら生きている(「スルー」とは採用されないという意味であって、態度として「無視されている」という意味ではありません)。
番組の環境にもよるが、放送作家が宿題として出す企画案の採用率は平均すると1割にも満たないだろう。9割が捨てられると分かったうえで我々、放送作家は長い時間をかけて企画を考え、それをどうプレゼンすれば面白いと思ってもらえるかを頭の中でシミュレーションして会議に臨む。
結果、それらの企画案のほとんどが世の中に1ミリの価値も生まず、己のパソコンに永久の眠りについている。かなり自虐的に言ってしまえば、放送作家のパソコンには存在価値を持たぬゴミ企画が無数に眠っているわけである(あゝ無常なり)。
数万個のゴミ企画の行方
収入的には割のいい職業だとわかっていても、この現実に時々虚しくなってしまうことがある。「このゴミを生むために自分はどれだけの時間を使ってきたのだろう?」。最近、ふとこんなことを思ってある計算をしてみた。
自分が放送作家になってからの12年間で【新番組の企画案】【担当番組のコーナー案】【コーナーの中の小ネタ案】【罰ゲーム案】など、細かい案も含めると、どうやら僕はおそらく数万個の案を考えてきたようだ。
かなり少なく見積もって企画案を考えるのに1日2時間使い、年間で330日働いたと仮定し、それを12年間。
2時間×330日×12年=7920時間
つまり、僕は約8000時間をかけて数万個のゴミ企画を考えたということになる。一瞬、哀しい気持ちになったが、転んだらタダで起きたくない性格の僕は思った。
「このゴミに価値はつけられないのか?」
2021年現在、YouTubeというメディアがテレビを脅かすほどの存在感を放っている。僕自身もいくつかのYouTubeの仕事をやってみて気づいたことの1つとして、テレビで企画案を考える時には「他番組でやっていた企画をやるのは下品」という暗黙の風潮があるのに対し、YouTubeでは「100の質問をやろう」「モーニングルーティーンやってみよう」といった具合に他チャンネルでやっている定番企画をやることになんら抵抗はない(むしろその方がオリジナル企画よりも再生回数を獲りやすい)。
そして調べてみると、日本には登録者数3万人以上のチャンネルが1万チャンネル以上も存在するらしい。ということは、我々、放送作家のように日々企画を考えている人が数万人規模でいるということ。
この人たちに向けて企画案を無料開放するサイトがあったら需要があるんじゃないか? そう思ったわけであります。そういえば写真やイラストや音楽のフリー素材はあるのに、企画のそれはない。
いわば、企画のフリー素材サイト。
こういうサイトがあれば放送作家のパソコンに埋まっている数多のゴミ企画が人助けになるのではないか? そのまま使えないにしても企画を考えるうえでのヒントくらいになるのではないか? ゴミはゴミなりに燃えることはできるのではないか? 不燃ゴミから可燃ゴミに変わるくらいは出来るのではないか?
そんなことを思って今月か来月あたりにサイトを立ち上げることにしました。サイトの名は『企画倉庫』。
YouTube運営に関わる方、テレビの放送作家、ディレクターの方々。「ここに企画のヒントが落ちてないかな~」ぐらいの軽い気持ちでこの倉庫に立ち寄っていただければと思います。
まだサイトは出来ていませんのでTwitterアカウントやnoteアカウントのフォローから倉庫建設の進み具合をチェックしてみてください。よろしくお願いします。
次回は放送作家で詩人の久野麗さんへ、バトンタッチ!
ぜひ、フォローしてください!
近々、企画のフリー素材サイト「企画倉庫」を立ち上げます。
進捗状況は、下記Twitterアカウントかnoteアカウントをフォローしてチェックしてください!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。