豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識に秀でたスペシャリストや様々な経験を重ねたその道の達人に、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。
第16回のテーマは「ビジネスに使えるミュージカルの表現法」です。東宝や劇団四季などで活躍し、現在はシンガー、プロデューサーとしても活躍するミュージカル俳優の沢木順さんにその奥義を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

沢木順さんの写真

沢木順(さわき じゅん)さん
ミュージカル俳優。
鎌倉育ち。早稲田大学で演劇を学び、菊田一夫に見出され、東宝ミュージカル『ファンタスティックス』の主役マット役に抜擢。その後『ラ・マンチャの男』他の出演を経て、1975年劇団四季入団。浅利慶太の薫陶を受けながら、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ役、『コーラスライン』ボビー役、『キャッツ』ラムタムタガー役、『オペラ座の怪人』ファントム役、『ユタと不思議な仲間たち』,『エビータ』他、数多くのミュージカル舞台に立ち、退団後も、様々なミュージカル、コンサートで活躍。ソロミュージカル『小泉八雲』『ロートレック』、朗読ミュージカル『宝田明物語』などを自ら企画制作。駒沢大学文学部や主宰する沢木塾で後進を育成。父は『あざみの歌』『さくら貝の歌』などで知られる作曲家・八洲秀章。

言葉は感動を伝えるツール

沢木順さんは、ミュージカルの世界で55年を超えるキャリアがあります。
迫力ある表現力に魅了された観客から、「経営者セミナー」などで講演を依頼されることもある沢木さんに、今回は20年後、30年後のビジネス界を牽引する若い世代のみなさんに、今から身につけておくとビジネスでも役立つ表現法についてお話を伺っていきます。

舞台に立つ達者な役者さんの演技を見ると「生まれ持った資質だから、とても素人には真似できない」と思ってしまいますが、沢木さんは「実はものすごく研究しているんですよ」といいます。

芝居の基本は言葉。言葉をきちんと伝えなければ、感動も何も観客に伝わらないのと同じで、「ビジネスシーンにおいても、プレゼンとか、セールストークでも、相手に《気持ち》が伝わる話し方が大事。それは、感動を呼ぶものでなければならない」と沢木さん。

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ミュージカルの舞台のイメージ
観客が魅了されるのは、舞台に立つ役者の感動が劇場の空気を揺さぶるから

正しい発声法や滑舌の基本をしっかりマスターすることは当然ながら、それだけでは、伝わらないと沢木さんは熱弁をふるいます。
「喜怒哀楽で、悲しい言葉を悲しそうに言う、嬉しい言葉を嬉しそうに表現する……。それだけで、本当に気持ちが伝わるかというと、実は少しも感動が伝わっていないことがおうおうにしてあります」と。

そこ! なかなかの難関ですが、沢木さんはわかりやすい例として、喜劇王チャップリンの話を引き合いに出します。
「たとえば、喫茶店に飲み物のメニューがありますね。ブレンドコーヒー、カフェオレ、カプチーノ、オレンジジュース、クリームソーダ……。この単なる飲み物の羅列でも、チャップリンが悲しい気持ちを込めて読むと、観客まで泣いてしまうのです。それは、チャップリンの気持ちが本当に悲しくて、それが言葉に乗って伝わるからです」と。

この話を聞いて、筆者もある音楽評論家の方が語ったことを思い出しました。
「エディット・ピアフはね、電話番号帳の数字を読み上げただけでも、シャンソンになるんだよ。感情が伝わるんだ」

そうなんです。大切なことは、その言葉を発したとき、話者は心でどう感じているか、それがちゃんと相手に伝わるか……なのです。

営業マンが「この商品は本当にいい商品だから、是非売れて欲しい」「企画会議で是非、このアイデアを実現化したい」と思ったら、その気持ちを伝えて、相手を感動させることが大事!
では具体的ににはどうしたらいいのでしょうか……?

「それは、よほどの天才でない限り、昨日今日ではできないことです。場数を踏んで、経験を積んで、都度、研究していくしかありません」と沢木さんはいいます。

研究とは何かを聞けば、それは「観察と分析」だと沢木さんはいいます。
そして、失敗を怖れずに、実践して検証していくことが、何よりの成長法なのだそうです。

「最初から完璧に出来る人はいません。若いうちはどんどん失敗を繰り返して、たくさんトライアルすることです」と背中を押してくれます。
「もし、一度も失敗しないである程度偉くなった人が、あるとき失敗すると、それはもう落ち込みは激しく、立ち直れなくなりますが、若いうちにどんどん失敗しておくと、それほど落ち込みません。それに失敗に慣れておく方が、いざというときに緊張したり上がってしまうことを回避できると、経験上、そう思います」と、心強いアドバイスをもらいました。

完成形は20年後、30年後で良いので、今から、たくさん失敗しながら、どうやったら、チャップリンやエディット・ピアフみたいに人を感動させることができるか?

チャップリンのイメージ
喜劇王チャップリンは、気持ちを言葉に乗せることで観客を魅了した(写真はイメージです)

さあ、今日からの営業や企画会議でも、意識していきたいですね!
まずは、観察と研究、そして失敗を恐れないことです!

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