豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。
第18回のテーマは「女性が活躍する時代に、男性はどうやって一緒に歩んで行けばよいのか?」。今回は事業承継する女性たちを支援しているビジネスマン、小林博之さんにお話を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

小林 博之

小林 博之(こばやし ひろゆき)さん
ソーシャルキャピタルマネジメント代表取締役社長
大手金融機関、大手総合証券会社にて経営企画、広報、M&A、ウェルスマネジメントなどを担当したのち、2017年「ソーシャルキャピタルマネジメント」を設立。日本ファミリービジネスアドバイザー協会のプレジデント、昭和女子大学キャリアカレッジ「跡取り娘人材養成コース」講師などを務め、ファミリービジネスの経営支援、事業承継者育成等に従事している。事業承継学会、ファミリービジネス学会会員。2019年、一般社団法人日本跡取り娘共育協会を設立、代表理事として、跡取り娘の事業承継支援にも尽力している。

ジェンダーギャップを埋めるには、男性も積極的に活動を!

21世紀になって、20年以上経ったのに、いまだに日本は「女性が活躍しにくい」国だと言われています。日本は、世界的に見てもジェンダーギャップ(男女格差)は大きく、特に政治と経済の分野での格差がG7の中でも際立っている状況です。

男女雇用機会均等法が成立したのは1985年……もう40年も昔のこと。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保は得られても、そして、2015年に女性活躍推進法が成立し、主に女性の就労環境を改善する法律が整備されても、本当の意味でのジェンダーギャップが埋まるには、まだまだ時間はかかりそうです。

とはいえ、日本に限らず、女性活躍が目覚ましい“先進国”においても、進捗を妨げる要因があるといいます。
それが「アンコンシャス・バイアス」
日本語でいうと“無意識の偏見”と訳されています。

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「女だてらに」「男まさりに」といった形容や、「跡継ぎの男の子を産まなければ」「一人娘なので婿養子でなければ」といった昔ながらの偏見だけでなく、女性を思いやって「子育てが大変だから楽な仕事を」「女性にはキツイ仕事だから」と、本人の意思も確認しないうちから、はなから決めつけてチャンスを奪ってしまうこともアンコンシャス・バイアスなのです。

時代は「D&I」といわれています。
Dはダイバーシティ(=多様性)、Iはインクルージョン(=包括・包含)。
ベクトルは性別による格差とは真逆を向いています。

多様性のイメージ写真
女性の活躍を促進させるには、アンコンシャス・バイアスをなくすことから

そんな中で、女性の活躍とD&Iを促進に尽力しているひとりの男性と出会いました。
小林博之さん。
大手銀行や証券会社に長く勤めた経験を活かし、独立後は大企業のチェンジマネジメント、中堅中小企業の企業価値経営・事業戦略のコンサルティング、M&Aアドバイザー等をつとめ、また若手経営者の育成等に携わってきました。

中でも注目すべきは、ファミリービジネス(家族経営の会社)の支援、とりわけ事業承継する女性の支援に注力していることで、自ら「日本跡取り娘共育協会」を立ち上げ、もう一人の女性の代表理事と並んだツートップをつとめています。

日本跡取り娘共育協会の会員さんは、当然ながら全員が女性。
運営スタッフも女性……という組織の中で、しなやかに寄り添って、女性の活躍を支援している小林さんが、実践していること、さまざまな経験から学ばれたことなど、お話を聞いていきたいと思います。

「男性が積極的に、女性の活躍をサポートし、実践をもって世の中の啓発活動に注力することがとても大事」。その結果、男性も女性もなくみなが幸せに働いていける社会ができるんです!と小林さんは力説します。

跡取り娘の活躍が日本を変える!

コンサルというお仕事柄、小林さんは、企業の管理職研修や大学のキャリアアップ講座などを通じて、女性のキャリア形成や人材育成にも数多く関わってきたのですが、とりわけ跡取り娘さんたちの活躍を支援している理由をまず伺いました。

「ゼロから起業する女性は、いい意味でアグレッシブですが、家業を継ぐことになる跡取り娘さんたちは、親御さんへの恩返し、今までのものを引き継いでいく難しさ、他に後を継ぐ人もいないので自分が頑張らなくては、など、いろんな悩みを抱えています。
日本の企業に占める中小企業の割合は99%で、そこに多くのファミリービジネスが存在します。しかも後継者不在で廃業に至る中小企業の数は、2021年~2025年の間に60万社にのぼるという国の試算もあって、日本の経済にとっても大きなダメージになります。そこで、跡取り娘さんたちが活躍しやすい社会になれば、ファミリービジネスが廃れることなく、日本経済は活性化し、そして女性の活躍も促進できると思うのです」

なるほど!
99%の中小企業の中で、女性が事業承継するファミリービジネスが増えたら、社会の動き方もかなり変わって行くだろうし、ジェンダーギャップが埋まってアンコンシャス・バイアスも取り払われていくだろうという頼もしい未来図が描けそうです!

働く女性のイメージ写真
女性の事業承継を支援することが、日本の経済の活性化にも繋がる

リーダーシップ、イノベーション、キャリアアップが3本柱!

最終的には性別にこだわらない、誰もが格差なく活躍できる社会にすることがゴール=本来あるべき姿です。そこに行き着くまでの途中のステップとして、あえてジェンダーギャップをなくすことに、男性としてもこだわっていく必要があるわけです」と話される小林さんに、その過程において、女性の活躍にどう男性が寄り添っていくか、その具体的なポイントを伺ってみました。

①女性がリーダーシップを取ることへの理解

小林さんはズバリいいます。「リーダーと聞いて思い浮かべるイメージを変える事です」と。
「リーダーはみんなの上に立って、そして先頭に立ってみんなをぐいぐい引っ張っていく強いカリスマ性があるイメージがありますが、このリーダーシップ像は、すでに昭和のものといってもいいかもしれません。今の社会で注目されるのは、むしろサーバントリーダーシップ。女性の経営者にはこのタイプが多くみられます」と小林さんは分析します。

サーバントリーダーシップとは、自分がすべて決めて、それに他の人たちに従わせるのではなく、みんなとコミュニケーションをはかりながら、みんなで答えを出して納得して進んでいく、それをいい方向に行くように支援していく、導いていく経営スタイルです。特に事業承継した跡取り娘さんたちは、「お父さんのような経営者にはなれない!」という悩みに、最初ぶち当たりながらも、サーバントリーダーシップでやっていくことで、良いチームビルディングができたという事例も少なくないといいます。

サーバントリーダーシップで成功する女性経営者と仕事をすることで、男性だって、自分がリーダーになったときに、自分にとってやりやすいマネジメントスタイルでやってみようと模索できるきっかけになると小林さんはいいます。

②柔軟な発想によるイノベーション

企業が発展していくために、イノベーション(ビジネス革新)も必要です。そこからいかに新しい創造が生み出されるかが重要。
小林さんいわく「イノベーションの概念の生みの親である経済学者のシュンペーターも、イノベーションは、ゼロから生み出すことでなく、《あるものとあるもの掛け算》だといってます。既存のもの、従前にあるもの。でも違うタイプのものを掛け合わすと思わぬ化学反応が起きて、全く新しい切り口のものが生まれたりするのです」と。

でも、案外、その掛け算がむつかしい、と小林さんは付け加えます。
「既成概念で凝り固まっていると、掛け算するものの組み合わせすらみつからない! 既成概念を飛び越えた発想に結び付けるのは案外難しいんです。だから、旧態依然の大企業は意外に、新しいものを生み出すのに躊躇し、変わろうともしない。そこにベンチャーがやってきて、市場を変えてしまうようなことが起こります。女性経営者、跡取り娘さんの場合には、誰もが見過ごしてしまうようなところに目をつけて、意外なものを見つけてくるのも得意です。また、製造業でも、単に製品の機能だけではなく、それをどのように見せていくか、つまり機能的価値より情緒的価値に注目した展開をしたり、デザインやパッケージを工夫したり、という形で、成功されている例も多々ありますね」

よく、「女性は右脳で考え、男性は左脳で考える」といわれますが、右脳は感性を司り、左脳は理論を司るので、両方バランスがとれていることが理想です。
ただし、左脳だけで考えてくる人たちが多かった中に、右脳の要素を入れて考えることで、思わぬ製品化や販売手法も見つかってくる。さらに、一般消費者を念頭に置くビジネスでは、消費者の意思決定者は半分が女性。そんな中では女性目線でビジネスを組み立てられる跡取り娘さんは大きなアドバンテージを持っているといってもいいかもしれません。

伝統商品が変わったなと思ったら、次世代の女性経営者に変わっていたということも多いのです。ですから、新しい商品を開発して市場を拡大したいと思うなら、男性も女性の感性を大いに学ぶべきだし、それを活かすべきだと思います」と小林さん。

仕事中の女性のイメージ写真
跡取り娘さんの事業継承では、新しいイノベーションを成功させる例も多い

③キャリアアップ

日本社会は、終身雇用・年功序列で“制度疲労”になっているといわれています。
その点、女性はライフステージの変化で、しなやかにキャリアを変えたり、それがきっかけで、一気にキャリアアップを成し遂げる場合もあります。
小林さんは「“縛られ感”が小さい女性は大きく変われると実感しています」ともいいます。
逆にいえば、「男性も、肩のチカラを抜いて、制度にハマったままじゃなく、しなやかに生き方を変えてほしいと」と。

そして、小林さんはこう締めくくりました。
「要は、女性の応援を通じて、男性も解放されるのです! 女性が活躍して女性が変われば、制度疲労の中で苦しんで仕事をしている男性も変わることができる、変わっていいんだと思える。結果として、格差がなくなる。世界で一番モチベーション低く仕事している日本なんて、さっさと捨ててしまいたいですね!

小林さんの目指すゴールはそこにあるといえます。

筆者も女性の活躍を促進するために一緒に寄り添ってくれる男性と手を携えたいと思います。
ゴールを目指して!

事業承継の主役となった女性たち15人の奮闘記を本にした
跡取り娘物語』(日本跡取り娘共育協会編)

『跡取り娘物語』 表紙"

跡取り娘たちの活動やそれぞれに抱える葛藤のありのままの姿、そして彼女たちがいかに苦境を乗り越えて、自分達の人生と家族、社員、得意先との関係をどう構築して、経営者としていかに成長されてきたかを15人のケース・スタディとしてまとめた本。
既存の出版社ではなく、日本跡取り娘共育協会が出版社と同じように機能して、取材・執筆・編集・デザイン・印刷・製本までトータルにコーディネートして作った本。その意味でも、イノベーティブな情報発信として注目されている。

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