宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回のテーマは「相続」。お父さんを亡くした相談者が、遺産を兄弟でどのように分ければいいのか、相続税はどうなるのかを考えていきます。
- 税制改正で相続税の基礎控除が縮小され、相続税の対象者が大幅に増加した
- 相続税がかかるかどうか事前に計算して、課税する場合はお金を工面しておく
- 「争族」を避けるには事前の準備と話し合いが大切。相続税がなくても対策は必要
2015年の税制改正で相続税の対象者が大幅に増加
【質問】
先週、闘病中であった父さんが逝きました。母さんは健在で悲しみの真っ只中、別居の兄から相談があり、何かと思えば父の形見分けに時計など欲しいとのことでした。父さんの時計は高価なもので、僕も欲しいけど……。預貯金もあるみたいなので、兄弟で争うことなく、上手く分ける方法が知りたいです。相続では税金を払うだけでなく、税務署にいろいろな書類を出さないといけません。めんどくさいし、お金を用意しないといけないし、どうか助けてください。
今回はお金の相談の中で、最も深刻で、できれば深入りしたくない、「相続」にまつわるお金の問題。家族が亡くなったばかりでつらいのに、悲しみもそこそこに、遺産をどうするかを考えなければならないのが、相続税のシステムです。
今回の相談者も、切実な悩みを打ち明けてくれました。誰が遺産を手にするのか? 自分は遺産を手にできないのか?
もともと、相続税の対象は富裕層が中心でしたが、少子高齢化が進み、税収不足を解消するため、2015年の税制改正で、相続税の基礎控除が大幅に縮小されました。この法改正をきっかけに、相続税がかかる方の割合が急激に上昇しています。2015年の法改正の直後には、相続税を支払う義務がある対象者が、前年から約2倍に増えました。
事前に相続財産を把握しておく
たかが基礎控除と思われるかもしれませんが、そもそも基礎控除というのは、亡くなった方の財産が基礎控除の額を超えたら税金を納めてくださいという意味です。基礎控除は、
3000万円 + (600万円 × 法定相続人)
という式に、法定相続人の人数を当てはめて計算します。
計算した結果より相続する財産の方が多ければ相続税がかかるので、支払うお金を工面しなければならず、しかもそれを短期間(10カ月)でやりきることが必要になります。
相続税を支払うまでの流れは、
①税金がかかるのかをまず考える
②法定相続人の範囲と順位、割合を把握する
そして最後に、
③税務申告・お金の工面
になります。
少子化が進んでいることを考えると、課税される最小相続財産は3600万円(家族が夫婦2人だけの場合)と覚えておくといいでしょう。相続財産が基礎控除以下(例えば3600万円以下)なら税金はかからないので、何もしなくていいことになります。
地方にお住まいの方であれば、ご自宅の土地や建物の評価を考えると、コンクリート造りの豪邸でもない限り、相続税の対象になるかどうかは現金・預貯金・有価証券などの課税相続財産がどれだけあるかで変わってきます。まだまだ大半の方は課税を心配しなくても大丈夫かと思いますが、預貯金や株などをたくさん持っている場合は、実際どのくらいあるのかを事前に調べておく必要があります。
相続をめぐるお金のトラブルは耐えませんが、これも金融リテラシーの欠如によって起こる問題だと思っています。面倒でも、日頃から財産の把握をしておきましょう。
「遺産の分け方」をめぐるトラブル
さて、今回の相談者の場合、配偶者と子ども2人の家庭ですので、基礎控除額は3000万円+600万円×3=4800万円です。
相続財産は以下の通りでした。
- 自宅不動産……建物約400万円、土地約600万円
(評価詳細は省かせていただきます) - 現預金……900万円
- 生命保険金……300万円
- 借金……なし
合計 約2200万円
相続財産が基礎控除額の4800万円以下ですので、申告不要となります。当然のこと、お金を用意する必要はありません。ご安心ください。
しかし、相続税に関しては特段何もしないでいいのですが、相談者にはすでに、税金とは別の問題が起こりそうになっていますね。そう、お兄さんとの「お金の争い」が起きそうな気配です。いわゆる「争族」ですね。
遺産の分け方で問題が発生して、調停が行われる家族の遺産総額別の割合は、5000万円以下が約75%となっています。ですから、お金があるなしにかかわらず、相続の対策をしておかないといけないのです。税務署に申告しなくても、家族には財産をどうするかという申告をしておく必要があります。「誰に」「何を」「どれだけ」「どのように」のこすのかを決めて、それをお互い知っておくしかないのです。
相談者の場合、法定相続人の相続順位と配分は、配偶者(常に相続人)が1/2、子ども(第1順位)2人がそれぞれ1/4、1/4となるので、お金にすると、お母さん1100万円、兄550万円、私(相談者)550万円となります。マイホームは売るわけにはいきませんので、分けられる現金は、不動産を除いた1200万円しかありません。そのうち、お兄さんが時計(約100万円の価値)をもらうとして、そのほかの現預金などをどうすればいいのか?
このケースでは兄弟ともに働いていて、お母さんには自宅を守っていただくのが先決なので、兄弟でよく話し合ったうえで、兄に対しては、弟が今後もお母さんと同居しながら、家を守ることを尊重してもらうのが前提だと思われます。
私だったら、弟(相談者)には、兄がもらう時計と同等の現金100万円を同居手当として遺産にプラスしたうえで、残りの遺産は年老いた母親の生活を考えながら、3人で話し合って決めることを勧めます。
相続の争いをなくし、手続きの手間を減らす方法
亡くなったお父さんの遺言があればいいのですが、今回のケースのように、一般的には遺言書を残すことは少ないようです。遺言による相続分は法定相続分に優先されるので、生前に家族間で対話をしたうえで遺言書を作っておけば、相続のトラブルを防ぐことができます。相続争いをより確実に防ぐために、お金と手間はかかりますが、公正証書遺言を作成する方が増えているのも事実です。
さらに、相続税の対象になると、税金納付までのスケジュールなどが待ったなしとなります。被相続人の死亡した日の翌日から10か月以内に申告と納税を済ませなければなりません。相続放棄または限定承認の手続きをする場合は3か月以内で、そのための申告書が20枚を超えるなど必要な書類も多くなります。相続税に関わる手間を減らすためには、専門家の力を借りるのもありでしょう。
相続発生後の不動産の名義変更などは、どうしても忘れがちになります。地方を中心に空き家が増えて問題化されている現状を考えると、不動産の相続に関してはますます厳しく法整備されるでしょう。