テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第113回は、番組の構成から、日本の放送文化、主にラジオ放送のアーカイブ活動に力を注いでいる放送作家の南條廣介さん。

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脚本家に芸談あり

南條廣介さんの写真南條廣介
放送作家
日本放送作家協会会員

う~む、面白い。このところ日本脚本アーカイブズの資料作りで、十何年か前のラジオ番組「カフェラテ」を起こした粗原稿の“ケバ取り”をしている。何が面白いといって、マスターの東海林桂・ママのさらだたまこご両所がゲストに迎えた脚本家諸氏の話がなかなかの芸談になっているのだ。
軽妙なトークを楽しむ番組だからディープな技術論がメーンではないのだが、それでも各人各様の執筆流儀には名優の創意工夫にも通じるものがあって楽しいんです。

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最も身近な例としては、石原武龍さんが語るプロット・企画書の書き方。これは松竹の名物プロデューサーから教わったそうだが、完璧を期して書いてはダメなのだと。第一、監督やプロデューサーはちゃんと読まない。だから、ドラマの一番の売りの場面に絞って書き、“お、これは撮りたい!”と思わせたら成功。よって他の部分は書き流すのだと。いや、目からウロコ。この方法で石原さんはいくつもの企画を実現したと開陳していらした。

でも、どうして芸談に惹かれるのだろう。思えば放送作家としての最初の仕事は、コミュニティラジオ局FMえどがわで「日本のJAZZが好き!!」という番組を97年12月から2000年いっぱい、160回企画構成したことだった。主に僕よりも年長のジャズマンを招いてのトークと関連した演奏でリスペクト。北村英治、猪俣猛、秋満義孝、ペギー葉山、尾田悟、谷道夫(デューク・エイセス)、宮間利之(ビッグバンドのニュー・ハードオーケストラ)といった方々のジャズ話が伝えるものは、広い意味での芸談だったなぁと今にして思います。

ジャズのイメージ放送作家としての初仕事では、「日本のJAZZが好き!!」というラジオ番組の企画を160回構成した

芸談は農業、オーディオ分野にもある

月日は流れ、7年前に初めての単行本『サツマイモの世界 世界のサツマイモ』(現代書館)を公刊した。といっても僕はインタビュー・構成役で、原著者は元九州沖縄農業研究センター所長の山川理さん。21世紀、サツマイモのトレンドは“ほくほく”から“ねっとり甘い”に変わってきたが、ねっとりの代表品種紅はるかの開発者、あるいはローカルな品種だった安納芋や紫サツマイモを全国区にした仕掛人といえば話が早いか。その山川さん初の一般書です。

全体は4章からなり、①サツマイモの現代史(日本人とサツマイモの関係)、②植物学(面白くて感動的な農作物なのだ)、③農政学(日本人の食生活とは)、④歴史地理(こうして日本にやってきた)という構成ですが、全体を貫くのは彼の熱気と技術論。それはいも業界の常識とのたたかいであり、サツマイモの可能性の追求であり、日本伝来までの実地調査など多岐にわたる。これらは山川さんにとっては仕事の開陳だが、僕からすればこれは広い意味での芸談、異色の農業芸談でありました。

その2年後、この本を読んだオーディオ業界の名物人間、前園俊彦さんから「半生記を本にまとめてくれないか」と頼まれた。
前園さんは1955年からサンスイに30年在籍し、ブラックパネルのアンプと組み格子グリルのスピーカーで大ヒットを飛ばし、JBLユニットをサンスイ製の箱に入れた“日米混血スピーカー”ではマニアを喜ばせた。その後フォノカートリッジの名門オルトフォン(デンマーク)の日本法人初代社長として20年、独立して自社でゾノトーンブランドの高級オーディオケーブルを製造販売して10年余、ワン・アンド・オンリーの足跡を残している。

一冊の書籍のイメージある人から「半世紀を本にまとめてくれないか」と依頼されたことも

この半生は極私的日本オーディオ史であり、オーディオ芸談になるとはっきり自覚した。ところがご本人が病に倒れ、令和元年に旅立ったことで公刊には至らなかった。最終的にゾノトーンの公式ホームページで「前園俊彦物語」として公開。「仕事は遊び心で、趣味は命がけ」がモットーだった前園流の芸談は描けたかなぁと。
古希を過ぎて自分は芸談が好きだと気づくなんてドジな話だが、折があれば楽しい芸談を単行本にしたいと思っています。

次回は庄司夕助さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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