今回は、3つのPBR(株価純資産倍率)対策のメリット・デメリットについて見ていきます。PBRへの注目が高まったきっかけは、JPX(東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所等を運営する取引所グループ)が上場企業のPBRの低さ(1倍割れの多さ)を問題視したことに端を発します。

  • 日本企業のPBRの低さ(=株式市場からの低評価)が問題視されている
  • 「配当金の増額」「自社株買い」は短期的な効果が高いが、純資産が減る
  • 長期的には「設備投資」を行う企業の方が将来的な株価の上昇を期待できる

PBR(株価純資産倍率)とは

PBR(株価純資産倍率)は、その株価が割安かどうかを投資家が判断するために用いられる投資指標です。PBRの計算式は、

PBRの計算式

です。

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上の式からわかるようにPBRの倍率を高める方法は2つあります。

  1. 株価を上げる
  2. 1株当たりの純資産を減らす

になります。

株価に関しては、投資家が判断する要素が大きいため企業がコントロールしづらい部分があります。企業が行うPBR対策としては、企業がコントロールしやすい1株当たり純資産を減らす方法が用いられるケースが多いです。

以下、それぞれ方法について見ていきます。

貸借対照表

企業が純資産を減らす2つの方法

企業が純資産を減らす方法として主に以下の2つの方法があります。

  1. 配当金を増やす
  2. 自社株買いを行う

1.配当金を増やす

配当金は当期純利益と純資産に含まれる利益剰余金(過去の利益を積み上げたもの)から支払うことができます。利益剰余金から配当金に回す金額を増やすことで純資産を小さくすることが可能です。

配当金の支払いについては、株主総会での承認が必要ですが、比較的短期間にPBRの引き上げを行うことができます。また、配当を増やすことで株価の上昇が期待できる点がメリットです。

配当金支払いの効果

ただし、配当金として現金が企業の外に出ていくので、企業の成長に大切な設備投資に回せる資金は減少します。また、一度配当金を増やすと、その継続を株主は望みますので減らすことが難しくなる点がデメリットと言えるでしょう。

2.自社株買いを行う

自社株買いとは、企業が株式市場から自社の株を購入することです。自社株買いに利用する資金は、主に利益剰余金になります。

自社株買いを行うと利益剰余金が減り、自己株式(-)部分が増え、その分純資産が減少します。株価が下落しなければPBRは上昇します。

自社株買いの効果

また、自社株買いした株式は、配当を支払う必要がなく、1株当たりの純利益(EPS)を計算する時の株数から除かれます。純利益の金額が同じであればEPSは増え、それによって株価が上昇すれば、それにともないPBRも上昇します。

ただし、配当と同じように純資産が減ることで、設備投資などに回せる資金が少なくなり、将来の成長に対してはマイナスに働く可能性があります。

3つ目のPBR対策は設備投資

利益剰余金を利用して設備投資を行う場合、利益剰余金の一部が現金から設備(固定資産)に変化するだけなので、配当金や自社株買いのように純資産を減らす効果は通常(設備投資をして赤字になった場合などは、利益剰余金が減ります)ありません。

しかし、積極的に設備投資を行うことで企業の成長や利益の増加が期待され、株価が上昇すればPBRも高くなります。

ただし、設備投資をしたら確実に利益を生むとは限りませんので、赤字が出た場合は株が売られ、逆にPBRを引き下げる要因になります。

3つのPBR対策とメリット・デメリットまとめ

以上、企業が行える3つのPBR対策とメリット・デメリットについて見てきました。短期的効果は、配当金の増額や自社株買いの方が設備投資に比べ高いですが、長期的に見ると設備投資を行う企業の方が将来的な株価の上昇を期待できます。

【図表】3つのPRB対策のメリット・デメリット
メリット デメリット
配当金を増やす
  • 配当により純資産(利益剰余金)を減少させることができる。
  • 増配により株価が上昇する可能性がある。
  • 純資産(利益余剰金)が減ることで設備投資の資金は減少する。
  • 長期の成長にはマイナスに働く可能性がある。
  • 減配しづらい。
自社株買い
  • 純資産(利益剰余金)が減少するのでPBRが高くなる。
  • EPSが増えることで株価が上昇する可能性がある。
  • 純資産(利益余剰金)が減ることで設備投資の資金は減少する。
  • 長期の成長にはマイナス働く可能性がある。
設備投資
  • 企業の成長や利益の増加が期待されれば株価が上昇する。
  • 設備投資の失敗により赤字になるリスクがある。

また、企業は3つのPBR対策の1つだけを実行することは少ないので、その企業がどのようなバランスで対策を打っているかリサーチすることが重要です。

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