テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第129回は、『水曜日のダウンタウン』『マツコ有吉かりそめ天国』などを手掛ける、放送作家の矢野了平さん。
プロが作る落とし穴の値段
以前、あるYouTuberと世間話をしたとき、彼は「テレビの見方が変わった」と話しました。その理由は“お金”。YouTubeの撮影を通じて、テレビ番組の収録に使われるあらゆるものにお金がかかっているということに気づいたのだそうです。
当然といえば当然なのですが、収録で使われるもののほぼすべてにお金がかかっています。芸人さんが広い足ツボマットの上でサッカー…、なんて企画の場合は大量の足ツボマットを購入していますし、ヌルヌルローション企画の舞台裏に用意されたローションも業者から大量購入しています。
ドッキリ番組で落とし穴を1つ掘るのにいくらかかるのか、初めて聞いたときはとても驚きました。ただ穴を掘るだけでなく、安全対策のために四方をマットで覆い、それを固定し、中に大量のウレタンを入れて……とプロが1日がかりで作り上げる落とし穴は、まるで公園の施設を1つ作るくらいの資材と手間がかかっています。
そう考えれば納得の金額が芸人さんの見せ場のためにかけられているのです。それはYouTubeも同じで、撮影のたびにあらゆる備品にかかる予算と向き合い、テレビ番組を見るとつい細かな予算が気になるようになってしまったそうです。
クイズ1問にかかるお金の重み
クイズ番組なら、早押しボタンだってタダで使っているわけではありません。「電飾」と呼ばれるセクションの会社から番組がレンタルして使っているのです。一言に早押しボタンと言っても、押すためのボタン部分、連動して光る照明、それを裏で制御するシステム部分、それをつなぐケーブル……と様々な装置が一体になって、レンタル費もなかなかお高いと聞きます。なので予算のない深夜番組などではハンズで売っているパーティーグッズの早押しボタンを使うのです。
書き問題で使われるビデオライターも同様で、ゴールデンタイムの番組でないと使えません。番組ロゴが入ったフリップも、◯×や3択の札も、プロの美術さんが作ったものに対しては予算が発生します。
そしてクイズの1問1問にもお金がかかっています。問題を作った作家のギャラ、その問題が正しいか裏どりをするリサーチャーのギャラ、裏どりのために使った資料代・コピー代、専門家に取材をした場合はその電話代・交通費・ご協力いただいた謝礼、放送上で問題に応じた写真をワイプで出す場合はその写真の使用料……。
僕が構成作家になる前のアルバイト時代から長年携わっている「高校生クイズ」という番組では、初代の福留功男さんから歴代の全MCが1問1問のクイズをとても大切にしてくださいました。それは1問1問にかかっているお金の重みを知っているから。自分の読み間違いで1問を無駄にしないよう、どれだけ忙しくても下読みはしっかりとされていました。
そんな「1問1問にお金がかかっているクイズ問題」2000問近くをリュックに詰めて、アメリカ横断のロケの旅に出たのが2014年の夏。その旅先でとんでもないトラブルに巻き込まれたのですが、この続きは次回お話しします。
とんでもないトラブルっていったい……「テレビのロマン」後編に続く!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。