現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第67回は、重電インフラ機器の老舗メーカーとして、発電機や変電・送電設備、電気自動車向けのインバーターなど多様な製品を手がける明電舎(6508)をご紹介します。
- 明電舎はAIや電気自動車向けなど、現代の社会課題に適した製品を手がけている
- 明電舎の2024年3月期の売上高は過去最高。今期も過去最高の更新を見込む
- 株価は上昇ペースを継続も1989年の上場来高値の半値水準。上昇余地に期待
明電舎(6508)はどんな会社?
明電舎は、重電インフラ機器の老舗メーカーで東証プライム市場に上場しています。製品ポートフォリオは多様で、電気を「作る」「送る」「使う」それぞれの場面で用いられる製品を手がけています。
例えば電気を「作る」ための水力用発電機、国内トップシェアの移動電源車・変圧器、「送る」ための受変電設備やスマートグリッド、鉄道の制御システム、「使う」ためのモーターやインバーター、自動車開発試験装置などがあります。
明電舎の歴史は古く、今からおよそ120年前の1897年、創業者の重宗芳水氏によって「電気の力で日本を豊かにする」との思いとともに設立されました。創業してまもなく初代の電動機を開発し、「モートルの明電」と呼ばれるようになりました。その後は扇風機や電灯など民生品から水力用発電機、工場・変電所用の変圧器など産業インフラ向け製品まで幅広く製造するようになり、事業の拡大を進めていきました。1957年には、南極昭和基地へ発電機を納入するなど、日本の高度成長のなかで明電舎の製品が活躍してきました。
社会課題に適した製品群
明電舎の強みは現在の社会課題に適した製品を手がけている点です。
国内では老朽化した電力インフラや施設民間工場などで電気設備の更新需要が高まっています。また、再生可能エネルギーへのシフトに対して太陽光発電システム、電力を効率的に配分するスマートグリッドシステムなども需要が伸びています。
昨今のAI(人工知能)人気により、世界各国でデータセンターの新設の動きが広がっており、電力需要が増すとともに変圧器や無停電電源装置などの製品のニーズも高まっています。半導体向けでは、強みの製造装置用の真空コンデンサーの販売が順調で、国内ではトップシェアとなっています。
カーボンニュートラルで裾野が広がるEV(電気自動車)向けでは、駆動モーターや電力を変換するためのインバーターを強みとしています。直近では中国の競争激化でやや販売が停滞していますが、次世代のSiC(炭化ケイ素)に対応した小型駆動ユニットの開発なども進めています。
明電舎(6508)の業績や株価は?
明電舎は5月10日に2024年3月期の決算を発表しました。売上高は前期比6%増の2878億円、営業利益は49%増の127億円となり、ともに過去最高を更新しています。
産業・電子・車載向けは半導体市況の減速の影響があったものの、電力インフラ向けは海外での業績拡大、値上げで大きく利益が伸びました。保守・メンテナンスは部材の不足が一服したことから貯まっていた案件が消化され、増益につながりました。
今期2025年3月期は売上高が8%増の3100億円、営業利益が18%増の150億円と、連続での過去最高更新を見込んでいます。低迷していた半導体市況が年後半には回復すると予想しています。受注も好調で、全般的に強い需要が継続すると期待されます。
5月24日の終値は3845円で投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約39万円、今期の配当予想は未定としています。参考として前期の年間配当75円で計算した配当利回りは1.95%です。
電力インフラ更新や電力需要の増加を背景とした製品の拡販に加えて、顧客側の人手不足も課題となっており、設備の保守・メンテナンスサービスの需要が想定を上回って拡大しています。保守・メンテナンスの売上高は景気に左右されないストック収益として積み上がり、業績を下支えしています。
株価は長らく市場平均を下回っていましたが、業績への期待で23年の前半からは株価の上昇に勢いがつき、24年に入っても上昇ペースが継続しました。5月13日には年初来高値4090円を付け、新高値圏で推移しています。しかし業績は過去最高水準となっているにもかかわらず、株価は1989年10月の上場来高値8050円からまだ半値水準に留まっており、上値余地は大きいとみています。