「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、ある経済アナリストが日経平均株価に関して物議を醸した発言をもとに、株価と物価の関係について解説します。
- 日経平均株価が2000円になったら、お金の価値が飛躍的に上がったことになる
- ただしオイルショックの時期には、物価上昇と株価下落が同時に起きた
- 日経平均の上下をひっくり返したグラフが「お金の価値を測るモノサシ」
元大学教授で、経済アナリストの方が、あるインターネット番組で「日経平均は間もなく2000円台、つまり今の20分の1になる」という趣旨のことを言ったそうです。そのようなことが、それに近い可能性が、本当にあるのでしょうか?
日経平均2000円が実現したら……「お金の価値が飛躍的に上がった」ことに
もし日経平均2000円が実現したら、まずは喜ぶべきことでしょう。これは何も皮肉を込めて言っているのではありません。それだけ「お金(=日本円)の価値が飛躍的に上がった」ことを意味するからです。昨今の物価高や円安によるネガティブな影響は、一挙に解消することになります。別の角度から表現すると「物価が大きく下がった」ことを意味します。エアコン・冷蔵庫・テレビなどの耐久消費財の購入を考えるなら、この時をおいて他にないでしょう。また車や家も、ローンを組まずに買えるかもしれません。
このような時代が本当に到来するなら、「お金」という視点に絞ると、「日本復活」とも言えます。
物価が上がり続け、株価は大きく下落する……こんなことがあり得るか?
「物価の上昇」と「株価の下落」の両方が併存することがあり得るのでしょうか? 可能性はゼロではありません。いわゆるスタグフレーション(悪性インフレ)という現象です。日本史上、1974年ごろに発生した、第一次オイルショックの時期がスタグフレーションだと考えられます。当時は「狂乱物価」という言葉が残るほどでした。そして、二度のオイルショックを経て、1980年代にはバブル景気に至ります。
総合卸売物価指数 | +31.4% |
---|---|
消費者物価指数 | +23.2% |
春闘賃上げ | +33.0% |
実質GDP | ▲0.2% |
グラフは狂乱物価と言われた1974年の1年間の日経平均です。夏から秋にかけて、まさにストンと株価が下落しているのが分かります。消費者物価指数は2割以上も上昇しています。しかし、1974年の秋から冬にかけて、日経平均が上昇に転じているのも分かります。
ところで日経平均が現在のおよそ20分の1にまで下落し、2000円台になった場合、物価はどのようになるのでしょうか?……おそらく物価も下落するのではないでしょうか?
株価が20分の1にまで下落するということは、企業の価値もそれだけ下がることになります。そのため、企業は資金調達に支障を来します。資金調達ができなければ、賃金や売掛金を払えず、仕入れもできなくなります。要するに企業が商品を、消費者に提供できなくなるわけです。こうなってしまうと、生産者・メーカー・販売者、いずれも値段を下げて乗り切ろうとするのではないでしょうか? 値段を下げれば、資金を調達するための額も少なくて済みますからね。
日経平均が2000円台になれば、人生一度だけのバーゲンセール?
本当に日経平均が2000円台になったとしたら、老いも若きも、人生一度だけのバーゲンセールではないでしょうか? 仮に日経平均に対するPBR(株価純資産倍率)が1.4倍だったとしましょう。本稿を書いた時(2024年12月5日)の日経平均は39,395円です。これらの数字を基にBPS(=1株当たり純資産)を計算すると、28,139円です。では日経平均が2000円だったと仮定して、BPSが変わらなかったとすると、PBRは何と0.07倍です。もはやPBR「1倍割れ」どころの騒ぎではありません。この時、日本株式を買わずして、いつ買うのでしょうか?
お金の価値が下がり続けることによる影響のほうが心配
本稿を書いている時に、「日銀要人の発言を受け、1ドルが149円の円高方向に」などというニュースが飛び込んできました。「1ドル149円が円高」と表現される時代になってしまったんです。このような表現は、少なくともコロナ禍前までは、想像することすらありませんでしたね。それだけ、お金の価値、とり分け円の価値が下がってしまったんです。もはや「円預金で、果たして安心なんだろうか?」という時代なのです。
日経平均が2000円台になるか否か、断定はできませんし、否定もできません。しかし、お金の価値が下がり続けているのは、まさに現在進行形です。
そもそもお金の価値って、どうやって判断するの?
ところで、お金の価値って、どうやって判断するのでしょうか? そもそも、お金そのものが「価値を測るモノサシ」なのです。その「モノサシは、どうやって測るのか?」という質問です。
絶対的なものではありませんが、1年や数年などの長いスパンで見ると、まさに日経平均が「お金の価値を測るモノサシ」だと言えるのではないでしょうか?「じゃあ、お金の価値が上がっているのでは?」ということなのでしょうか?……答えは逆です。日経平均の推移を描いたグラフの上下をひっくり返してご覧ください。それが、まさに「お金の価値を測るモノサシ」なのです。
ですので、冒頭に述べたように、日経平均2000円が実現したら……「お金の価値が飛躍的に上がった」ことになるのです。
さて、来月になれば、来年のNISAの枠ができますね。筆者が利用している証券会社のサイトは、気が早いのか、今月の1日から、2025年のNISA枠が表示されています。
直近の臨時国会では、補正予算を組むために、国債を6~7兆円ほど追加発行する模様です……。2020年に国民一人ひとりに10万円を配った時の予算は13兆円ほどでした。その半分近くの額の国債を追加発行するのです。ますますお金の価値が下がりますね。
また、今月は日銀の「利上げの可能性」がささやかれています。利上げの影響によるお金の価値の上昇は、おそらく一時的なものでしょう。もし株価が下落すれば、チャンス到来ですね。