誰もが幸せいっぱいな結婚生活を継続できるとは限りません。今まさに離婚するかしないかで悩んでいる方に向けて、恋愛コラムニストとして活躍され、ご自身も離婚経験のある「トイアンナ」さんに、夫婦関係の破綻要因や、現代における結婚の意義、離婚をめぐるお金の話、離婚の乗り越え方などを伺いました。(聞き手・文=南野胡茶)
- 喧嘩ができなく、全夫と離婚。関係を続けるコツは、相手の本音を引き出すこと。
- そもそも結婚にメリットはない。お金の移動先を決める手続きと考えて。
- 結婚するかで悩むよりも、ハズレたら離婚できる稼ぎを見つけておく!
トイアンナさん
バツイチ。慶應義塾大学卒。P&Gジャパン、LVMHグループでマーケティングを担当。独立後は主にキャリアや恋愛について執筆しつつマーケターとしても活動。
書籍『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』は、発行部数が2万部を突破。
ブログ「トイアンナのぐだぐだ」
Twitter @10anj10
喧嘩しない夫婦は崩壊の危機?
ご自身が離婚に至った理由について、どう考えられていますか?
トイアンナさん 離婚は、1つの原因から起きるわけではありません。複数の理由の積み重ねを経て、これ以上は耐えられないとなったときに、初めて離婚という選択肢が出てくるものではないでしょうか。私と前夫が離婚した理由の一つには、「喧嘩ができる関係を築けなかったこと」にあると思っています。私と前夫はほとんど喧嘩をしたことがありませんでした。お互いロジカルに話すのが好きで、多少の不満があったとしても、冷静に済ませるほうが良いことだと思っていました。感情をすごく無視していたとも言えます。
実は、トイアンナというアカウントを作ったのは、現実では周囲をはばかって言えない下ネタをSNS上で発散するのも目的でした。でも、大学生の頃に付き合い始めた前夫からストップがかかって、下ネタを封印したんです。離婚後に下ネタを解禁したら、「離婚したせいでトイアンナが狂った」とSNSのフォロワーから書かれたくらいで(笑)。あとは、顔出しも絶対にNGと言われていましたね。
顔出しNG時代、かねてよりトイアンナさんの企画相談に乗っていた「2人目」が正式に”チーム・トイアンナ”として参加(写真左)。今回は執筆担当(写真右)のトイアンナさんに伺いました
受け入れがたいNG事項はなかったのでしょうか?
トイアンナさん そうですね。特に抵抗はなかったです。私の推測ですが、前夫は本心ではおそらく、トイアンナの活動自体やめてほしかったのではないかと思います。
前夫さんは本音を切り出されなかったということですね。
トイアンナさん 「トイアンナを辞めて」と言えば、離婚されると察していたのだと思います。だからこそ、前夫は不満を溜めることになってしまったのでしょうが……。私は比較的自由に暮らしていたと思いますが、相手はそうではなかった。夫婦関係の終わりが見えてきて、「もう縁が切れるから最後に言っておくけど」という体で前夫から切り出された不満で印象的だったのは、「本当は家庭を守るような人がよかった」と言われたことです。ただ今の時代、こうした考え方はダサいという風潮がありませんか?
典型的な昭和の価値観というイメージはあります。
トイアンナさん 飲み会でそういった発言をすれば、古い考えだとバカにされるかもしれません。空気を読める男性ほど、女性の理想像は「自分と対等で、自立してて、芯の強い、自分に依存しない人」と発言してしまいがちではないかと思います。
しかし、それはポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)のための発言であって、本心ではないこともあるのです。自覚がある場合は別ですが、無自覚にポリコレに沿った発言をして、あとから本心との乖離に傷つくケースがあるのではないでしょうか。
前夫の場合はこれに当てはまると考えています。彼は保守的な家庭で生まれ育ったのち、学生時代にリベラルな価値観の洗礼を受けました。今は会社でも、「男性も育休を取ったほうがいい」「キャリアばかり追い求めて家庭を顧みないなんてカッコ悪い」「男だって家事育児は平等に負担するべき」といった価値観を求められる傾向があります。前夫は今の時代に即したリベラルな価値観に適応しようとして、苦しんだのではないかと思います。
今の時代、共働き・家事分担は一般的な考え方ですが…
トイアンナさん 私たちは離婚後もSNSでつながっていたのですが、前夫が私と離婚したあとに付き合った女性についてSNS上で褒める際、「料理が上手」とか、「仕事の資料に付箋を一緒に貼ってくれる」とか、まさに内助の功を体現するような女性を理想としているような発言が多かった。
一方で、前夫のお父様は家庭よりも仕事を優先するタイプで、前夫は「そんな風にはなりたくない」と言っていました。だからこそ、「夫婦は共働きで、家事育児も分担し、自立した女性が良い」という考えに至る、その気持ちも分かります。女性でも、自分の父が嫌いだったとして、その父が亭主関白タイプであれば、「亭主関白な男性は嫌!」という考えになりますよね。
確かにそう考えてしまうかもしれません……。
トイアンナさん 私はつき合った当初から変わらず自由に仕事をしていました。そして、自然体を受け入れてくれる人でないと関係が継続できませんでした。例えば、「共働きだから家事を折半しようと決めたけど、思ったよりもたいへんだった」という問題が出てきたとき、「では家政婦を入れよう」という解決策を、前夫は受け入れられない。
前夫のお母様はトリリンガルで、駐在員の妻として訪れた国でも現地語を習得する才媛でした。さらに、ご自宅ではパテ・ド・カンパーニュ(フランスのお惣菜)を手作りするレベルの凄い方。しかし私は、どうあっても専業主婦にはなれない性分です。前夫はきっと伝統的な家庭を築きたかったタイプなのに、ずっと我慢し続けてしまったのでしょう。交際3年、結婚期間3年、計6年経ってようやくお互いの生き方が分かってしまったという終わり方でした。
論より感情で本音を引き出す
トイアンナさん 一方で、今の彼氏とは頻繁に喧嘩しています。相手がそういったコミュニケーションが得意なタイプで、必ず私も意見を言うよう、仕向けてくるのです。口論になった際、私が話を切り上げようと「もう寝よう」と言っても、相手は「今話し合わないとダメだ。朝まででも話そう、そうしないとわだかまりが残っちゃうよ」と引き留めてきます。明日朝早くからお互い仕事なのに……という状況でも、朝4時まで話し合って喧嘩して、最後に謝ろうと。
話し合いから逃げられない…!それでも、本音を言い合った方がいいと?
トイアンナさん 相手はそう思っているようです。だからものすごく感情的なやり取りもします。最近の小競り合いはしょうもなさすぎて……今、彼はAdobe Illustrator の勉強に取り組んでいるのですが、私が仕事でクタクタになって帰宅したときまで、彼が「イラストレーターのこの機能がね……」と延々と話し続けているから、「今日12時間働いてクタクタなのに、なんでやめてって言っても延々勉強の話をしてくるの!?」とキレて、そのまま家を出てホテルに泊まりました。
えっ、口論からホテルに直行ですか!?
トイアンナさん はい。翌日帰ってから彼に謝罪しました。彼には、「俺にとって仕事は楽しいことで、つい趣味を共有できているつもりで楽しくてずっと話をしてしまった。でも”家でも残業しているみたい”って気分にして、ごめん」と言われました。私からのリクエストで、「今後はGoogleカレンダーに“会議”の予約をしてから勉強の話をしよう」と提案しました。
プライベートではなく、仕事として話してほしいということでしょうか?
トイアンナさん そうですね。あらかじめ決まった予定があれば、私は業務量を調整しますので。
エネルギー切れの状態では対応が厳しいことってありますよね……
トイアンナさん お恥ずかしい話ですが。でも、そうやって毎回体当たりで喧嘩するようになったおかげで、今の相手のほうが不満は溜まらないと感じています。不満は必ず生まれますが、かたや6年不満を溜めて離婚してしまった前夫と、かたや都度都度大噴火している今のパートナー。今のほうが毎回大変ですが、ありがたいです。
良好な夫婦関係を築けている友人知人を見ていると、だいたい女性が相手の本音を引き出すのがうまいんです。女性が相手を自分のフィールドに引き込んで、「今話し合うぞ」といった感じで。「今出ていくなよ」と裾を掴んで引き留めたり、「前々から、お前のこういうところが嫌だったんだ」と打ち明けたり、きちんと喧嘩ができるから、短期的にぎすぎすしても仲直りができます。
女性のほうが積極的に感情をぶつけて相手の本音を引き出せる?