寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

このところ、国内外での不動産価格の上昇が止まりつつあるのではないか、という記事を見かけることが多くなりました。
統計数値を見る限りはまだ目に見えた下落が始まっているわけではなさそうですが、こうした分析が出てくるようになった背景には米国の金利上昇の影響があります。日本において金利が上がる心配をするのは時期尚早と思われるかもしれませんが、10月の消費税引き上げ後の物価動向次第では、日銀の政策に変化が出てくる可能性も完全には否定できません。
今のうちに不動産投資の最大のリスクである金利との関係を理解しておきましょう。

不動産が生み出す収益から価格を逆算する「収益還元法」

そもそも不動産価格というものがどのように決定されているかですが、日本においては1990年のバブル崩壊前と後で価格の決定方法が劇的に変化しました。バブル崩壊前の不動産市場は不動産価格の方向性と需給だけで取引価格が決定されていました。不動産投資に求められるのは売買益と担保価値だけで、物件の利用目的などは二の次でした。唯一マイホーム需要だけは実需だったわけですが、目に見えて上昇する物件価格を前に今買わないと一生買えないという切迫感に背中を押され、不動産会社と銀行に言われるがままに住宅ローンを組んだ人も多かった時代です。

しかし、こういった状況は1990年の不動産への融資規制(いわゆる総量規制)で一変します。融資条件が厳格化されたことで転売目的の不動産に買い手がつかなくなり、不動産市況は瞬く間に暴落することになりました。バブル崩壊後、底なしにみえた不動産市況に投資資金を呼び戻すきっかけとなったのが、不動産を投資収益率で評価する「収益還元法」という考え方の導入だったのです。

収益還元法というのは、単純に言ってしまえば、当該不動産が生み出す年間収益から当該不動産の現在価値を逆算して求める手法をいいます。
例えばテナント収入が年間1000万円見込めるビルがあったとします。このビルを2億円で取得すれば、年間の投資利回りは5%ということになりますし、5億円で取得した場合は2%となります。投資家は今後のテナント収入の確実性やメンテナンスコストなどを加味して、その物件に対する期待投資利回りを決定し、そこから土地の取得代金を逆算します。

上物のない土地であれば、そこに建設可能なビルやマンションや工場などの物件を想定し、建設費用も含めて土地価格を逆算します。もし景気が良く賃料収入が上昇していくとするならば、想定される投資収益の上昇が見込めるので逆算される不動産価格も上昇しますし、一方景気が後退し賃料が下がることが見込まれれば、不動産価格も下落します。
つまり収益還元法という考え方においては、好景気やインフレに伴う金利上昇は不動産価格の上昇要因ということになるのです。


景気拡大とインフレは賃料収入が増加する要因になるので、「収益還元法」のもとでは不動産価格が上昇しやすくなる

賃料の上昇が金利上昇に追いつかず、収益が目減りする可能性

ではなぜ、足元では米国金利の上昇が不動産価格の下落要因と認識されているのでしょう。
その理由は、投資家が不動産を取得している際の借入金の問題がかかわっています。収益還元法では無借金で投資をしている限りにおいては、賃料の上昇が単純に不動産価格の上昇につながります。しかし、もし投資家が金融機関からの借入れで物件を取得しているとするなら、賃料の上昇が借入金利の上昇を上回らなければ、投資収益は減少してしまいます。昨今の米欧日で起きているような「低インフレ下での好景気」という環境においては、景気の変動に比べ、賃料に代表されるような物価指標の上昇は緩やかに抑えられる傾向があります。
したがって、昨年のように米国の長期金利が年間で1%も上昇するようなことがあると、賃料の上昇が追い付かず、投資収益率を押し下げてしまうのです。

一時代前まではインフレに強い資産の代表格だった不動産投資ですが、投資の仕組みが変わる中において、その資産特性にも変化が起きています。いずれにしても不動産投資は株式投資などの有価証券投資に比べ、投資期間の長い投資です。投資開始にあたっては将来の景気サイクルだけでなく、金利環境の変化にも十分留意して慎重な判断が必要となるでしょう。

第2回 ブレグジットとポンド危機