世界経済の動向とその影響、今後の見通しについて、金融業界のアナリストたちはどう分析するのでしょうか? 資産運用会社や金融機関が公表しているマーケットレポートの内容をもとに、MonJa編集部がわかりやすく解説します。今回のテーマは、大接戦となったアメリカ大統領選挙と、新型コロナウイルスのワクチンをめぐる動向です。

  • バイデン氏の勝利と新型コロナウイルスのワクチンの開発で「リスク選好」が高まる
  • 米民主党政権による財政支出の拡大を見込み、新興国通貨がドルに対して上昇傾向
  • 米連邦議会の上院で、ジョージア州の決選投票で共和党が過半数を獲得できるか?

バイデン氏の勝利とワクチンのニュースで「リスク選好」

日経平均株価が、バブル崩壊後の最高値を更新しました。米国のNYダウも史上最高値をうかがう勢いです。11月初旬には米国大統領選挙で民主党のバイデン氏が現職の共和党・トランプ大統領を破り勝利を確実にしたことと、同じ時期にファイザー社による新型コロナウイルスのワクチンの開発に関するニュースが流れたことが、株価を後押ししたようです。一方で、10月下旬から新型コロナウイルスの感染が拡大する傾向が強まっており、経済への悪影響が懸念されています。

【図表1】日経平均株価とNYダウの推移
(2020年7月1日~11月19日、終値)
日経平均株価とNYダウの推移
出所:市場データよりMonJa作成

米大統領選の結果と新型コロナウイルスの動向がマーケットにどう影響するのか、投資信託の運用会社はどのように見ているのでしょうか?

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三井住友DSアセットマネジメントの11月13日のマーケットレポート(※1)では、以下のように指摘しています。

11月上旬は、米国大統領選挙でバイデン氏が勝利したほか、米国大手製薬会社が新型コロナウイルスのワクチンの開発で大きく前進するなど、不透明要因がある程度低下しました。景気回復にはまだ時間がかかるものの、投資家のリスク選好が強まり始めています。

「リスク選好」とは、株式に代表される「値上がりの期待は大きいが、短期的な値動きも大きい資産」を選ぶ傾向のこと。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2月から3月にかけては株価が急落しましたが、未知の感染症で世界経済の先行きに不安が広まり、投資家のリスク選好が弱まったことが要因です。ワクチンの開発は世界経済の先行きに期待を抱かせるニュースなので投資家のリスク選好を強め、株価の上昇につながったというわけです。

トルコリラやブラジルレアルなどの新興国通貨が上昇したことを伝えるのが、アセットマネジメントOneの11月12日のマーケットレポート(※2)です。

新興国通貨高・米ドル安の要因としては、
①米大統領選挙を通過したことで、各国の金融市場でリスク選好とみられる動きが強まったこと、
②バイデン氏の次期大統領就任が確実となったことで、民主党主導で財政支出が拡大するとの見方が高まっていること、
③米ドル安が進行すれば、新興国の米ドル建て対外債務の実質的な軽減が見込まれること、
などが挙げられます。

注目したいのは、②の「民主党主導で財政支出が拡大するとの見方」という記述です。

アメリカの2大政党の基本的な政策は、共和党が「小さな政府」、民主党が「大きな政府」です。共和党なら株高・ドル高、民主党なら株安・ドル安というのが一般的な傾向です。民主党のバイデン次期大統領による政権は、社会保障を今より充実させる方向に動くと考えられ、財政支出の拡大によって為替がドル安方向に動くことが予測されます。

【図表2】各国通貨の対米ドルの為替レート
(2020年10月1日~11月18日)
各国通貨の対米ドルの為替レート
※2020年10月1日時点の為替レートを100として指数化
出所:市場データよりMonJa作成

共和党が上院の過半数を獲得できるか?

しかし、今後のアメリカの政権運営が民主党の思惑どおりに行われるかどうかはわかりません。ニッセイアセットマネジメントの11月12日のマーケットレポート(※3)では、米国市場の見通しについて以下のように述べています。

3日に行われた米大統領選で民主党バイデン氏勝利が確実視される一方、上院では共和党が優勢と言われており、大統領と上下院議会のすべてを民主党が制する所謂「ブルーウェーブ」の可能性が後退しつつあります。企業利益の妨げとなると懸念されていたバイデン氏公約の大規模な法人税増税等は阻止されるとの見方から投資家のリスク選好姿勢が強まることが考えられます。

大統領選挙と同じ日に、連邦議会(アメリカの国会)の選挙も行われました。連邦議会を構成する「上院」「下院」(それぞれ日本の参議院と衆議院に相当)のうち、下院は民主党が過半数の議席を獲得しましたが、上院はまだ決着しておらず、2021年1月にジョージア州で最後の決選投票が行われることになっています。

上記のレポートでも指摘しているように、現時点では共和党が優勢と言われています。決選投票で共和党が勝利して過半数を獲得すれば、大統領・下院と上院との間で「ねじれ」が生じ、共和党の影響力が増すため、それが株価にとってはプラスに働くのではないかという見通しです。

当面の注目は、来年1月のジョージア州の決選投票と、新型コロナウイルスのワクチンの実用化に向けた動きでしょうか。特に、ワクチンが完成すれば感染の終息が見えてくるので、株価がさらに上向くことも期待できそうです。

参考文献

  1. リスク選好が鮮明となった世界の「投信マネー」三井住友DSアセットマネジメント
  2. 新興国市場が堅調、今後の動向に注目PDFアセットマネジメントOne
  3. REITレポート「米国リート市場動向と見通し(2020年11月号)」PDFニッセイアセットマネジメント

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