本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第3回のテーマは、おひとりさまでありながら、過去に認知した子どもがいるという男性の相続です。
婚姻関係がない男女間の子どもも相続権を持つ
前回の連載の中で「日本では生涯未婚率が増加している」というお話をしました。この「生涯未婚率」、実は最も高かったのは、江戸時代の男性だといわれています。しかも江戸に住む町人の男性。
理由は、この時代「大奥」を筆頭として身分の高い男性が数多くの女性を独占していたため、一般庶民の男性はよほど運が良いか、イケメンでない限り「妻」を持つことができなかったのです。当然「正妻」以外の女性から生まれる子供も多く、正妻に子供ができなかったり女子しか生まれなかった場合には、婚外子の男子が家督相続(※)をすることもあったようです。
※家督相続(カトクソウゾク)……戸籍の筆頭者を次の代に引き継ぐこと。
Q.
私は実家を出てからずっと一人暮らしをしています。
結婚をしたことはありませんが、昔付き合っていた女性の子どもを認知した経験があります。
私が死んだら財産はその子のものになるのでしょうか?
A.
配偶者がいない男性の場合、婚姻関係にない女性との間に生まれた子どもがいれば、その子が第一順位の法定相続人として相続権を持つことになります。
今回の相談者のように、今は独身で一人暮らしをしている男性でも、過去に女性と関係を持ち、別れたあとで女性の妊娠がわかって(もしくは妊娠の事実を知りながらも別れて)、お子さんを認知したうえで養育費を支払っていたという方もいらっしゃると思います。そのお子さんは、男性にとっては家族ではありませんが、自分の子どもであることは間違いありません。
なお、民法では婚姻関係にある男女(夫婦)の間に生まれた子のことを「嫡出子」、婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを「嫡出でない子」「非嫡出子」と呼んでいます。一般的には「婚外子」という呼び方もなされます。
相続に関しては、連載第1回で説明したように、婚姻関係にない女性との間に生まれた子が第一順位の法定相続人ということになり、相続権を持つことになります。配偶者(妻)やほかに子どもがいない場合、認知した子が相続財産をすべて相続することになります。
余談ですが、過去には「非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分」と民法で定められていました。たとえば法定相続人が嫡出子1名と非嫡出子1名だった場合、法定相続分は嫡出子が3分の2、非嫡出子が3分の1という配分でした。この規定に対し、同じ子どもなのに親の婚姻の有無で相続財産に差が生じるのは不当な差別だという指摘が長い間なされてきました。民法900条4号のこの規定が「法の下の平等に反する」ということで、最高裁で違憲判決が下されたのは2013年とかなり最近のことです。同年12月の法改正により、非嫡出子と嫡出子の法定相続分は同等と定められました。
疎遠な婚外子に相続させたくない場合は遺言書を作成
「昔付き合っていた女性との間に生まれた子ども」とどう接してきたかは、人それぞれかと思います。中には、養育費は支払っていたものの、認知した子どもにはほとんど会う機会がなく、子どもが成人してからは完全に没交渉という方も少なくないでしょう。実の子であっても、ほぼ面識のない相手に自分の財産を残すことには抵抗を感じるかもしれません。
このように、出産後ずっと疎遠であったなど、財産をその子に相続させたくない理由がある場合は、その遺志は遺言書として残さなければなりません。遺言書を作る際には、弁護士や税理士など専門家に相談することをおすすめします。
ただし、遺言書を残しても、相続人の意向によって、実際の相続が遺言通りに実行されない場合もあります。法定相続人には「遺留分」という、最低限保障されている財産の権利があります。法定相続人が子ども1人であれば、遺留分は2分の1となります(当然、嫡出子・非嫡出子の差はありません)。子どもが相続権を主張すれば(放棄しなければ)、遺言書の内容に関わらず、子どもが財産の2分の1を受け取ることになります。