前工程の主要な6つのプロセス

前工程の主要な6つのプロセスをそれぞれ見てゆきます。

(1)薬液などで表面を洗う「洗浄」

洗浄という工程は、半導体の各製造プロセスの前後で必ず行われます。前工程の中でも非常に処理回数が多いとされています。

洗浄とは、薬液や水洗(リンス)でシリコンウエハーの表面を洗うことです。通常の製造工程では、シリコンウエハーは「ウエハーキャリア」と呼ばれる収納ボックスに何十枚も一緒に収納されています。洗浄工程では、このウエハーキャリアごと薬液(洗浄液)につけられて、次に純水が満たされたリンス槽につけるという作業が繰り返されます。

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ここでの薬液は、アンモニア/過酸化水素水、塩酸/過酸化水素水、希フッ酸などが順番に用いられます。その合間に不純物を限りなく除去した純水でリンスします。

洗浄されたウエハーは必ず乾燥させて、次の製造工程に送り出されます。洗浄装置と乾燥装置は通常は一体となっています。

現在主流となっている300ミリウエハーは1枚が10万円以上します。高価なウエハーをきちんと乾燥させるには何通りかの方法があり、最も一般的なものにスピン乾燥式があります。これはウエハーを専用のカセットに入れて高速で回転させるもので、洗濯機の脱水器と同じ原理です。

洗浄装置は、それ以外の製造装置のように特殊な光学系技術や真空システムのような複雑な機構が必要とされるわけではありません。薬液とリンス用の純水さえあれば最低限の洗浄は可能です。したがって洗浄装置は、真空システムやガス供給装置などと比べて参入障壁が低く、かつては様々なメーカーが手がけていました。

しかしウエハーの大口径化が進むにつれて洗浄装置も大型化しており、特に300ミリ大口径にシフトしてからは装置全体が大型化して、クリーンルームに占めるフロア面積の割合が増えるようになりました。ウエハー搬送システムや洗浄プロセスも完全に自動化されるようになり、コスト高から洗浄装置も製造装置のトップメーカーしか参入できなくなっていきました

ちなみにリンス用の純水を含めて半導体の製造工程では大量の水を使います。世界最大のファンドリーである台湾のTSMCは毎日20万トンの水を使うそうです。世界的に気候変動が相次いでおり、台湾で降雨不足が続くようなことがあると、TSMCと言えども半導体製造がむずかしくなる事態が起こりかねません。

(2)原子をイオン化し照射する「イオン注入」「熱処理」

シリコン半導体をトランジスターとして作動させるためには、シリコン基板内にn型領域とp型領域を作る必要があります。そのためにイオン注入という工程が必要となります。

n型の不純物としてはリン、またはヒ素が用いられ、p型であればホウ素が用いられます。いずれもガス化すると毒性が強くなり取扱いには十分な注意が必要です。これらの元素を含む膜をウエハー上にまず形成し、次いでシリコン結晶内に接合(拡散)する方法がとられます。

不純物となる原子をイオン化して、十分な加速エネルギーを与えたのちにシリコン結晶に打ち込みます。その後に熱処理を加えて不純物のイオンをシリコンの結晶格子に置き換えるという手順を踏みます。熱によって不純物の原子がシリコン単結晶内を移動し、シリコンの格子点に収まります。このような工程を「拡散」と呼びます。

イオンを注入する範囲は、300ミリウエハーであれば深くてもウエハー表面から1~2マイクロメートルほどの深さにとどまります。レジストマスクを介して必要な領域にのみ行います。

イオンという原子レベルの状態でウエハーに照射するため、イオン注入装置は高いレベルでの真空状態が必要になります。したがってイオン注入装置は複雑な構造となり、重量もあって価格も高額になります。ちなみに不純物とは、「シリコンと異なる元素」という意味であって、実際には純度の高い元素が打ち込まれます。

熱処理の方法には、ハロゲンランプを使って赤外線(800ナノメートル以上の長波長)を照射するRTA方式と、紫外線(400ナノメートル以下の短波長)のレーザー光源を照射してウエハー表面を溶融するレーザーアニール法が使われます。

シリコンは赤外線を吸収しやすいため、RTA方式ではウエハーの温度が速く上昇するというメリットがあります。RTA方式では1枚のウエハーの熱処理にかかる時間は、昇降温を含めて1分ほどで処理できます。ただしその分、消費電力が大きくなるという難点があります。

レーザーアニール法では、レーザーの照射できる範囲が狭いため、ウエハー上をスキャンしなくてはなりません。単位時間当たりの処理枚数(スループット)を高めるという観点からはレーザーアニール法は不利になります。

(3)半導体回路の下絵を描く「リソグラフィー」

リソグラフィーの工程は、ウエハー上に半導体回路のデッサン(下絵)を描くようなイメージです。実際に絵を描くのは次のエッチングの工程になります。

リソグラフィー工程で必要な要素は、光源である露光装置、感光体であるレジスト、原画となるマスク(フォトマスク)、露光後にレジストパターンを残す現像処理などに分かれます。

それぞれマスク作成プロセス、レジスト塗布プロセス、露光プロセス、現像プロセス、レジスト除去プロセス(アッシング)、という工程を経てウエハー上に回路が形成され、これらを一括してリソグラフィー工程と呼んでいます。

リソグラフィー工程では、最初にウエハー上のエッチングされる薄膜の上に、感光材であるレジストを塗布します。次にレジストに含まれている溶媒を除去するために70~90℃で「プレベイク」を行い、その後にマスクのパターンを露光装置でレジストに描画します。

その後に現像を行って必要なレジスト膜だけを残します。現像液やリンス液の成分を完全に除去したあと、エッチングされる素材との密着性を高めるために100℃で「ポストベイク」を行います。このような一連の工程において、カギを握るのがマスク(レクチル)、露光装置、そしてレジストです。

露光装置はいまでは縮小投影露光装置が主流となっています。これはマスク(レクチル)のパターンを光学的に縮小してウエハー上に焼きつける方法です。4分の1から5分の1のサイズに縮小して露光するので、マスクの寸法は実際にレジストに焼きつける最小寸法よりも大きく作ることができる利点があります。

ただし1回の露光でマスクパターンをウエハー上の全域にわたって焼きつけることはできません。ウエハーとマスクを交互に動かして少しずつ露光してゆくという方法を採ることになります。その際の露光方法に「ステップ&リピート法」と「スキャン法」があります。

「ステップ&リピート法」を行う露光装置は「ステッパー」と呼ばれています。露光の際の画角は、6インチ程度のマスク(レクチル)を例にとると、ステッパーは22ミリ×22ミリです。一方、スキャン法による露光装置は「スキャナー」と呼ばれ、画角は26ミリ×33ミリとステッパーよりも広い面積で転写できます。そのため現在はスキャナー法による露光が主流となっています。

LSIは何層もの回路が重層的に重なってできています。そのために1回の露光プロセスで完成するものではなく、何十枚ものマスクを重ねて作製されます。したがって複数の露光プロセスで形成されたパターンとの位置合わせ(アライメント)を厳密に行う必要が出てきます。振動は厳禁とされており、ウエハーステージは振動を極端に嫌います。そのために厳重な防振機能がついています。

マスクは通常、石英基板にクロムとクロム酸化物の積層膜を作り、そこに紫外線露光によってパターンを形成します。マスクパターンを形成する際にEB(電子ビーム)直描装置が用いられます。最先端LSIにとってマスクが生命線といってもよいでしょう。

先端微細加工のマスクを造るにはたいへんなコストがかかり、ワンセットで1億円~数億円もします。それまでは半導体メーカーが内製していましたが、次第に専業メーカーに委託されるようになりました。

微細化を向上させるには、光源の短波長化とレンズの大口径化、明るさの改善が必要です。しかしレンズの改良は早々と限界に行きつき、残るは光源を改良するしか残されておりません。

半導体の微細化を促進したのはリソグラフィー技術の進化があったと言えるでしょう。リソグラフィー技術の進化は、露光装置の光源の進化と言い変えることもできます。

露光装置の光源には、歴史的に超高圧の水銀ランプが使われてきました。1980年代の主流はg線(436ナノメートル)で、1990年代はi線(365ナノメートル)が中心でした。90年代後半から2000年はじめにかけて主流となったKrF(フッ化クリプトン、248ナノメートル)ではエキシマレーザーが光源として用いられました。

i線は水銀ランプによる波長365ナノメートルの光源を利用した半導体露光装置です。1ナノメートルは10億分の1メートルです。またKrFは希ガスのクリプトン(Kr)ガスとハロゲンガスのフッ素(F)ガスを混合して発生させるレーザー光を利用した半導体露光装置で露光波長は248ナノメートルです。

2000年代後半になるとArF(フッ化アルゴン、193ナノメートル)が登場しました。光源の微細化、短波長化はArFとその応用が限界とされていました。

そこに登場したのが究極の露光装置、EUV(極端紫外線)です。EUVは「Extra Ultra Violet」の略で、光源に通常の紫外線よりもさらに波長の短い13.5ナノメートルの光を使う方式です。ArF光源の10分の1に収まります。

2000年代前半から世界中で研究が着手されましたが、あまりに複雑で巨大になり開発費もかかるため、限界を超えているのではないか。永遠に開発できないのではないかと危ぶまれていました。それがEUVの先駆者であるオランダのASMLによって開発され、2018年から実用化されました。

EUVが開発されたことによって技術的にきわめてむずかしい領域の微細加工が可能になりました。それらの最先端チップは「iPhone12」に代表される最新型のスマートフォンに搭載されています。

EUVの出現によって露光装置、マスク、レジストなど多くの関連装置が従来品から一変することになりました。開発も製造もコストが膨大なものに膨らんでいます。今では半導体に関わる新技術はコンソーシアム方式によって資金から設備、特許、頭脳に至るまで大規模に実用化が進められています

この露光装置をはじめ、レジスト塗布装置(コータ)、現像装置(デベロッパ)はそれぞれ独立して存在しているわけではなく、今ではすべて同じ製造装置の中にインライン化されるようになっています。それだけに製造装置は巨大なものになっており、工場におけるリソグラフィー工程のラインは30メートル以上の長さになることもあります

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