本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第15回は、病気により働くことが難しくなり、借金の返済に苦労しているおひとりさまが、相続で親族に迷惑をかけてしまうのではないかという悩みに答えます。

高齢のおひとりさま特有の借金のリスク

今まではプラスの財産、資産をお持ちの方のご相談でしたが、今回はマイナスの財産、債務を負っている方からのご相談です。

どんなに真面目に暮らしてきても、思いもよらぬ事故や病気、あるいは詐欺事件に巻き込まれるなど、老後の資産を無くしてしまう可能性は誰にでもあります。困った時に相談する相手のいない「おひとりさま」は、特に安易に借りられるカードローンに走ってしまう傾向があるかもしれませんね。

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そんな場合では、遠縁の親族に迷惑をかけたくないと思うのは当然です。
今回は、借金を抱えた高齢者の相続のお悩みを解決する方法をご紹介します。

Q.
私には家族はなく、現在は生活保護を受けながら独りで暮らしています。定年後に大病を患い、なかなか次の定職につくこともできません。数年前、カードローンで100万円程の借金をしましたが、現在はその利息を払うこともままなりません。
私が亡くなると遠方に暮らす弟が相続人になると思いますが、子供の時以来あまり付き合いのない弟に借金で迷惑をかけたくありません。
弟に迷惑をかけない方法はあるでしょうか?

A.
親族に借金を相続させないために、①時効消滅に該当するか調べる、②相続人に相続放棄をしてもらう、この2つの方法を採ることができます。

①時効消滅に該当するか調べる

実は、借金は2020年3月31日以前に借りたものか、2020年4月1日以後に借りたものかで対処の仕方が変わってきます。

トラリピインタビュー

民法の改正により、2020年3月31日以前に借りた借金については「時効消滅」している可能性も低くないのです。
借金には「時効」という制度があり、借金の種類により5年、10年の区別はありますが、長い間放置され債権者から催促がない借金については「時効」が成立し、それを「援用」することで借金が消滅、返済する義務がなくなる場合があるのです。しかし、時効になった借金でも債務者本人が返済を認めてしまうと、時効の主張は認められなくなってしまいます。

高齢者の一部には昔ながらの真面目な考え方で「借りたお金は何が何でも返さなければならない」という思い込みや、なんでも自分で抱え込んでしまうことで、債権者から催告があると支払いを認めてしまうこともあります。しかし現実問題、相談者さんのように生活保護を受けているような方は、借金の返済より今の自分の生活を守ることが大切です。

もし、借金が時効になっている場合には「時効を援用します」という書面を債権者に送付すれば、借金の返済に苦しまなくても済むようになります。

反対に2020年4月1日以降に借りた借金は、この「消滅時効」に該当する借金は少なくなっています。法律的な言葉を使うと難しいのですが、債権者が返済の途中で「返済してください」と債務者に権利を行使すれば、その権利行使した時点から新たに時効の計算をリスタートさせることとなったためです。金融機関など商業目的でお金を貸した債権者がその権利を行使しない理由はありませんから、ほとんどの場合この時効消滅に該当することはなくなってしまいました。

借金の始まりの日、起算日を確定することは一般の方には難しいと思われます。時効消滅に該当するか調べてもらうには弁護士に相談することをお勧めします。

とは言っても生活保護を受けている方にとって、弁護士費用を支払うことは無理ですよね。
この場合には「法テラス」(日本司法センター)の制度を利用するという解決方法があります。

法テラス 公式ホームページ

法テラスの制度を扱っている弁護士事務所に行って、法テラスの制度を使った無料相談を受け、その後法テラスの制度を用いた月額5000円からの分割払いで自己破産や時効主張などの事件の委任を行うことができます。よく言われる「過払い金」の発生についても確認ができるでしょう。

生活保護を受けている方は、分割払いさえ猶予される場合もあります。そもそも生活保護として受給しているお金は最低限の生活を守るための生活資金であり、借金の返済や利息の支払い、弁護士費用などに充てるお金ではないからです。

法テラス制度を扱っている弁護士事務所は若手の弁護士の社会貢献の一環として、法テラス制度を利用しています。取り扱っていない事務所もありますので、事前に弁護士事務所に電話をして法テラス制度が使えるか確認してから相談を行ってください。

弁護士に相談
法テラス制度を扱う弁護士事務所なら、生活保護を受けていても費用の心配をせず相談できる

②相続人に相続放棄をしてもらう

相続放棄とは、被相続人のすべての財産を(プラスの財産もマイナスの財産も)を引き継ぐことを拒否する方法です。相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったこととして扱われます。プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合には相続放棄をすることで、相続人は債務者とならずに済みます。

相続放棄は、被相続人の住民票にある住所を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して、受理されることで成立します。
しかし相続放棄の手続きには期限があります。相続の開始(被相続人が亡くなったこと)を知ってから3か月以内にしなければならないのです。

被相続人に借金があることを知らなかったり、そもそも自分が相続人であるという認識がなかったりすると、その3か月の期限に間に合わないことも考えられます。
また、ご本人が生前に、将来の相続人が相続放棄の手続きをすることはできないことになっています。
普段、付き合いのない親族にいきなり「相続放棄」した方が良い旨を生前に伝えておくのは厄介なことだと思います。下手をすれば余計な争いの火種にもなりかねません。

親族の争いを避けるために、身近なお友達や親身になってくれるボランティア団体、民生委員の方などを介して、自分の死後、滞りなく相続放棄の手続きをするようにお願いをすることが良いのでしょうか?
これはその方のケースバイケースの状況により判断するしか方法がないと思います。

プラスの財産であっても事前の対処が大切

今回の例のようなマイナスの財産でも、あるいは不動産などのプラスの財産であっても、遺産の処分は残された人の迷惑になる可能性もあります。

今回の相談者の方にはお子さんはいないようですが、もし過去に結婚をして、または認知をして、長年会ったことのないお子さんがいるような場合には、お子さんにとって突然降りかかる借金にならぬよう、事前にできる限りの対処をすることをお勧めします。

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