テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第21回は、カンヌ映画祭パルム・ドールに輝いた映画『うなぎ』などの脚本で知られる放送作家協会の重鎮の1人、冨川元文さん。

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人間は思春期の流行りもので構築されている

冨川元文さんの写真冨川元文
脚本家、日本放送作家協会元理事

古希を過ぎた今、当然だが昔のことを思い出すことが多くなった。その一つに老人に言われた一言がある。
「君らの人生哲学は少年漫画で出来ている。男子として、その人生観、価値観が漫画のロジックで構成されていいのか」と皮肉られたことがある。

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その当時、私は確かにそうだと思った。20歳を過ぎて、大して本も読まない、その老人のように多くの本を読んでない。私の人生哲学は両親と周りの人々、そして子どものころ読んでいた「少年マガジン」「少年サンデー」から出来上がっている。
団塊世代で学生闘争にかかわってもいたが、マルクス資本論は最後まで読めなかったし、共産党宣言もピンとこなかった。

確かに私の自己形成要素として少年漫画は大きな要素だった。

大量の漫画のイメージ画像
私の人生哲学は両親と周りの人々、そして子どものころ読んでいた「少年マガジン」「少年サンデー」から出来上がっている
Radu Bercan / Shutterstock.com

このことを、壮年期になって再び思い出したのは理由があった。少年漫画の内容は時代とともに変わっていった。それまでの内容と変わって、アクションを伴なうヒーローもの、戦隊ものが出てきて、小さな子供が喜ぶものに変化した。
さらにテレビのアニメなどが出てくると、ゴレンジャー、ガンダムなどが男の子の興味を引き、少年漫画の世界を変貌させていった

また、それ以前も少年漫画の志向は変化していた。登場人物の目が大きくなり、少女漫画のテイストが加わって、女の子が喜ぶような主人公が増えてきた。同時に、少女漫画にはまる男の子も増えてきた。秋葉原のオタの走りだろうか……。

さらにエスカレートして、オタはアニメ世界の女の子に恋をする。バーチャルの初音ミクに恋をして、居心地がよさそう。女の子は、漫画やアニメのキャラになって、漫画作家が作った人物のセリフを吐きまくる。そして、そのアニメキャラは自分自身の個性だと信じ込む。

青年の幼児化が進み、男の子の女性化が進む。「情けないことだ。こんな残念な自己形成で良いのか…」と、考えた時に、かつて、くだんの老人に言われた言葉を思い出した。
老人と同じことを言った私は「老人になったのだ……」。

漫画執筆のイメージ画像
少年漫画の志向は変化した。登場人物の目が大きくなり、少女漫画のテイストが加わって、女の子が喜ぶような主人公が増えてきた

思うに、人格形成、自己形成など、その思春期の流行りもので構築されているだけなのかも。私は少年漫画で、40才前後の男子はガンダムで、それぞれの思春期の流行りもので自己形成しているだけかも。
50年前、わたしを皮肉った老人も、おそらくその思春期に流行った小説や漫画(おそらく、ちびくろサンボ)で自己形成したに違いない。

ドラマに出てくる生身の役者たちの顔も変わった!

何を書いても良いという「リレーエッセイ」なので老人の戯言を書いてみたが、今日、何気なくテレビを見ていて、さらに思った。
ドラマに出てくる役者たちの顔がアニメ化している。アニメで自己形成した顔と演技は、古希を過ぎた老人には不快だ。

その不快の理由は何だろう、自分の世界観と違うから? ただそれだけのことだとは思うが、やはり……。「やはり、ドラマに出てくる人間は、人間でなくてはいけない」。

11年続けた向田賞(ドラマ作家の賞)審査員という立場上、こうしたドラマを観続けてきた(もちろんそうではない良いドラマはあるが)。今年でその審査員を卒業させてもらったが……。この先、もうドラマを観なくてよいと思うと、ほっとする。

次回は放送作家の無頼尊さんへ、バトンタッチ!

是非、読んで、観てください!

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冨川元文プロデュース
読んで演じたくなるゲキの本』シリーズ

(幻冬舎刊)高校生版、中学生版、小学生版
それぞれ、学校演劇のバイブルとなっているロングセラー。冨川氏を始め、放送作家協会員のベテラン作家も多く執筆に参加しています

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小説『赤い鯨と白い蛇』(クリークアンドリバー社刊)
同名の映画(2006年/監督 せんぼんよしこ)の原作本です

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映画『うなぎ
1997年度 カンヌ国際映画祭パルム・ドール(グランプリ)を受賞した映画(脚本 冨川元文)をDVDで

赤い橋の下のぬるい水 表紙

映画『赤い橋の下のぬるい水
2001年、『うなぎ』と同じ今村組によって作られた名作

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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