リーダーと良き相棒で組織を動かす

井上さんいわく「どんな規模の会社でも、経営者のアントレプレナーシップ(企業家/起業家精神)は大事です」と。そして、「トップのリーダーは道なき道を創っていくのでフロンティア(開拓)精神も必要で、それなりのパワーが要求されます」といいます。

「ただし、みながみな社長の精神に乗っかってしまうのは危険だ」と井上さん。
なぜなら「事業というものは、10やって1しかうまくいかないギャンブルのようなもの。そこで、リーダーについていく部下と、ギャンブルに負けた時でも会社が生き残れるように、守りにつく部下とバランスの良い形でリーダーをフォローするのが理想です」と。

確かに、社員全員がイエスマンで社長に従っていたらリスクは回避できませんよね。
井上さんは「江戸時代、火事でお江戸が燃えても、すぐに家が建てられるように、また食うに困らないように市中の倉に木材や食糧を備蓄していたというじゃないですか。それと同じで、会社の経営が上手くいかなくても、持ち直せる倉があって安心という守りのチームをちゃんと育てなければいけないのです」と。

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コロナ禍の時代、舵取りをどうしていいか、強いリーダーでも迷うはず。そんなときに、守りのチームがしっかり備蓄をしていてくれたら、ゾンビ会社になって淘汰されることからも免れると思います。

そして攻めと守りのバランスは、個々人にも必要なこと。
副業が認められ、推進される時代においては、本業に全力投球というとりも、腹8分目で留めておいて、いざというとき、別な仕事で食べていけるような生き方や、あるいは、何もしなくても、安心して就活したり、資格取得の時間に充てられるよう貯えを作っておくとか……。

井上さんは「一番よくないのは、イエスマンの社員がみな社長のやり方に不満をもっている場合。組織として不健全ですが、案外このタイプに組織が多いのです」と。

「陰で悪口が蔓延するのは、社員が直接、上層部に意見がいえない組織になっているからです。
今、全世界で人気のアメリカの動画配信会社『Netflix』では、直接いえる社風を築きあげていると言います。ただ、日本の会社では、誰かワンクッション入るとコミュニケーションがうまくいく場合が多々あります。それは企業の中の『お母さん』的な役割(※女性でなくても!)を担う人です。社長のやりたいことを、わかりやすい言語で社員に伝えたり、社員の不満をうまく吸い上げて解決してくれる存在です。企業のナンバー2の名参謀であったり、社長の盟友であったり……。なおかつ『お母さん』だけに、イエスマンではなく、社長も一目置くというか、ある面で頭が上らない……そんなポジションの人物です。
たとえ社長が“はだかの王様”でも、お母さんが『この人についてきて本当に良かったわ』といえば、部下もついてくるでしょう」

リーダーの考えを伝える人
リーダーとフォロワーの間にクッション的な『お母さん』がいると組織はうまくいく

なるほど、リーダーとフォロワーの間にクッション的な存在は必要ですね。例えば、組織に中では、みなナンバーワンを目指して熾烈なレースを繰り広げるけど、もしかして自分が『お母さん役』が向いていると思ったら、その役割に徹し全うするのも魅力的な組織づくりに必要なことといえるでしょう。

井上さんは、ある会社の社内に社労士に直接相談することができる「お悩み相談ダイヤル」の設置を提案したこともあるといいます。クッション的役割を持つ人がいない場合は、こうした電話相談が、社員の気持ちを吸い上げる機能となり、組織を育てていくうえでも有効だったといいます。

心が動かないと人は動かない!

良い組織を作るために、いろいろな仕組みを考えることも大切ですが、井上さんは最も大切なのは「人は心が動いて初めて行動する」ということを理解しておくことだといいます。

「モノが売れない、店に人がこない、営業がうまくいかない、会社がもうからない……このすべては、人の心が動いてないからです」と井上さん。その解決策は、「相手の心が動かない理由を考えて、動かす戦略を考える」こと。それは、球技でボールをパスするのと同じだと井上さんはい言います。ボールには“真心”がこもっていて、相手は“信頼”があるから受けとってくれるのだと。

そして、信頼は「約束を守るかどうか」で決まると井上さん。
まず社長が社員に対してした約束を守れているか?
「社員が会社の引けた後、社長の悪口をサカナに酒を飲むなんてのは、約束が守られていない証拠で、信頼は生まれず、社員の心も動きません。そうなると、その会社の創る商品や提供するサービスも、お客さまに対して約束が守られない嘘の塊になってしまいます。そんな商品やサービスに消費者は心動かされませんよね」と井上さん。

そうなのですね。
組織に中の人たちの心が動かなければ、結局商売は上がったりです。

ちょっと、怖いのはコロナ禍が長びいて、ゾンビ化した社会で、人の心が動かなくなることです。それは一企業だけでなく、日本全体が弱体化しかねないと井上さんは懸念しています。

ゾンビでいることに甘んじてしまわないように、筆者も人の心を動かすアクションを起こし続けねばと思った次第です。

一歩踏み出す
コロナ禍の習収束を見据えて人の心を動かすアクションを!

最後に、井上さんから「いま、就活で新しい職場を求めている人がこの記事を読んだら、今は、大企業でも、明日はどうなるかわからない時代です。たとえ小さい会社でも、企業のフロンティア精神がすばらしく心動かされる会社であれば、選択肢に入れて良いと思います」と。

井上さんは、株式会社リクルートの創業者で故・江副浩正氏の言葉を座右の銘にしている。
「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ」
コロナ禍の経験を機会ととらえ、人の心を動かせるイノベーションに繋げていけたら、この長いトンネルを抜けた先にはきっと光明が照らしてくれるはずです。

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