M&Aに見出した幸せの価値とは?

意外にも丸山さんは「父との親子関係は、幼い時から決して良くなかった」といいます。世にいう「お父さん子」で育ったお嬢さんとは、真逆だったと!

というのもお父様は3代目で、2代目のお祖父さまが急逝したので「父は26歳という若さで丸山組を継いで、仕事一筋。子育ては母任せで、父に甘えたり、溺愛された記憶はないのです」と丸山さんは振り返ります。

そして、丸山組に入社後は「家でも父を社長と呼んでましたし、入社当時は会社では父のやり方は古いと反発ばかりしていました。若い小娘が社長に向かって怒鳴るので、古参の社員たちはびっくりしてました」とも。

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また、丸山さんが社長に就任しても、実際の権限譲渡がなかなか進まず、いらついたこともあったといいます。

とはいえ、会社で実際に父親の仕事ぶりを目の当たりにすれば、気持ちは変わっていきます。「26歳で継いで40年余り、お父さん、本当によくやってきたね」という言葉が、あるとき自然に口をついて出たと丸山さんはいいます。

「父は『結局は、なんでも自分でやらないとわからない』という人間でした。祖父の急逝後に、わからない中から手探りでやってきた父の実感なんでしょう。私もその言葉を教訓として、『自分でやってみたら何とかなる』という考えに至りました」と。

なので、あくまでも4代目として〈丸山祥子流〉を貫いた。
「現場に行っても何もできない、ただ立ってるだけの私ですから。であれば、信頼した社員に現場を任せる。そして私はひたすら、誰とも信頼関係を築いていく……そこから始めました」と丸山さんの会社での立ち位置を固めていったのです。

建設業はガチガチの男社会。
けれども「立ってるだけ」の若い女性社長の目にはたくさんの発見がありました。
「現場で逞しい仕事ぶりを発揮する男性社員と、一対一で話してみると内面はとても繊細だということを知りました。だからこそ、危険を伴う現場できちんと仕事がこなせるのだなって感心したり」

建設業界のイメージ
建設業はガチガチの男社会。しかし一対一で話してみると内面はとても繊細だということを知ったという

その結果、職場で最年少、しかも女性で、創業家のお嬢さんと見られていた丸山さんとベテラン社員との気持ちの距離はぐっと縮まり、お互いの懐に飛び込めるようになっていったのです。

「人間の内面まで知ることで私自身も成長できたと思います。それが、結果、父という人間の理解にも繋がったのでしょうかね」と丸山さんはいいます。

その後、同族経営にこだわらないM&Aという形の事業承継を丸山さんは選択しました。
「父は続けたもの勝ちの人生、私は素早く潔い決断の人生になってしまいましたが」……といいますが、そこには、社員と下請けや取引先を含めて、丸山組に関わる何百人という人々の幸せな未来を願って……。そして、丸山家という家族の再生、そしてそして、丸山祥子さん自身の幸せを熟考し、葛藤を経ての結論があったのです。

「社長であった頃は、責任感ばかりで、それが重圧でした。しかし、最終的には自分の声に耳を傾け、自分に正直に生きることを決断しました。今、ファシリテーターになって、同じような悩みをもつ方々の一助になることで、私自身のヴィジョンも持てたし、幸せを感じます」と。

そして、丸山家も家族として笑顔が戻ったといいます。
お父様も、これまでの経験を活かし、他社の社外取締役や地域の商工会議所の副会長にと請われ、第二の人生を謳歌されているといいます。
「姉妹も、私だけ立ち位置が違ってしまったけど、今は見える景色も同じでほっとします」と。

「同族経営が家族の犠牲の上に成り立つ」ということはあってほしくない。その思いを胸に、ファシリテーターとして活躍する丸山さんですが、今後、10年かけて1000人以上のファミリービジネスのファシリテートができる人材を養成したいというヴィジョンがあります。

家族の絆
家族の犠牲の上に成り立つ同族経営であってはならないと話す丸山さん。そのためにも10年かけて1,000人以上のファシリテーターを養成するつもりだ

筆者としては、ファミリービジネスだけでなく、家族の在り方、特に父と娘の関係性について、今後はより深くて広いファシリテートが、丸山さんの活動を通じてできるのではないか?……とも期待しています。

女性の社会進出が叫ばれて30年。
社会全体の仕組みの中にも、立場を家族に例えたら「先代の父」「受け継いだ娘」がいて、周りの「家族」との人間関係に悩みながら、自分の行く道を模索する葛藤中の「娘」はたくさんいます。

社会においても、家庭においても「父と娘」がお互いの理解を深め、信用し、関係性を変えていくことが、日本を変えていく大きなエネルギーになると、丸山さんのお話を聞いて深く感動した筆者でした。

一方、プライベートな父と娘の関係に関しても然り。
どんなお父さんにも、頑張った人生があり、背中を見て学んだ娘は、娘の人生を歩む。そこに一本の絆があれば、それが受け継がれていく……。

筆者にとっても、今は亡き父、一介の勤め人だった父の娘であったことに、矜持を見出すきっかけを丸山さんは与えてくれました。
感謝です。

丸山祥子さんが代表をつとめる「株式会社フェリタスジャパン」のHPはこちら

株式会社フェリタスジャパン

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